歯医者の話

仁城 琳

歯医者の話

突然だが、私は歯医者が怖い。いや正確には病院全般が怖い。私は子供の頃から健康だけが取り柄であり記憶が正しければ、小学校は家庭の事情で休んだ一日が無ければ六年間皆勤だったはずだ。中学は残念ながらインフルエンザに負け、一週間休むことになったが、他は至って健康。高校でもほとんど休むことは無かった。風邪なども滅多に引かない。引いても市販薬を飲んで寝てれば一日で治る。その為、私の中では病院=予防接種をされる場所=嫌なことをされる場所、となっている訳である。犬や猫の皆さんなら共感してくれるのではないかと思う。ちなみに注射も嫌いだ。これも犬や猫の皆さんなら共感してくれるのではないかと思う。

歯医者の話に戻る。そんな健康体の私であるが歯医者は別である。健康体でも虫歯はできる。学校の健康診断でも他は引っかかることは無かったが歯科検診だけは改めて歯医者に行くように、と地獄の宣告を受けていた。しかし、私は歯医者が怖いのだ。虫歯の存在には気付いている。気付いているが行きたくないのだ。何故なら痛い事をされるから。あれ?痛いかも?と思っても歯医者のあの「ギュイーン」が頭をよぎり、いやいや痛くない気のせいだと放置する。その結果どうなるか。治療が長引き、さらに痛い事をされる可能性が上がる。そんなやつなので私が歯医者で治療を受けるとなると神経を抜かれることがほぼ確定となる。これがめちゃくちゃ痛いし、怖いので更に歯医者から足が遠のき、また一本神経を抜かれる歯が増えるのだ。

これは高校生の時の話だ。私は虫歯の気配を感じていた。なんか痛いかも、からめっちゃ痛いに変わった虫歯なので、気配どころではなかったかもしれない。食事を摂る時も痛むし、普通にしてても痛い、という状態。私は、

「今さぁ…虫歯できてるかもしれないんだよね。」

と、唐突に友人にカミングアウトした。もちろん友人は歯医者じゃないので治療は出来ないし、魔法使いでもないので虫歯を魔法で何とかすることも出来ない。そんな事を急に言われても、そっか、としか返せないのだが、

「歯医者行ったら?」

と至極真っ当なアドバイスをくれた。

「行けてたら苦労しないよ!怖いの!歯医者が!」

と私が必死に抗議すると、

「歯医者が怖いの?なんで?」

と言われて、あぁ、彼女は私よりも大人なんだ…と少し心の距離を感じて寂しくなった。歯医者が怖くないのか。大人だ。一歩先に進んだんだな、彼女は。しかし、話を聞いてみるとなんと彼女は虫歯になった事が無いという。まさかそんな人間がいるとは。みんな怖くて放置して神経抜かれるものじゃないのか。それが人生というものでは無いのか。ちなみに毎回神経抜かれるから怖い、と伝えると、

「なにそれ怖…。虫歯になったら神経抜かれるの…?」

と怯えていた。『虫歯になったことが無い人間がいる事』に衝撃を受ける私と、『虫歯になったら神経を抜かれる事(誤情報)』に衝撃を受ける友人の元に、担任の先生がやってきた。

「どうした。虫歯になったのか?」

と聞かれたので、素直にそうですと答えた。

「虫歯だと思うんですけど…って言うかもう確実に虫歯なんですけど、今からだと絶対神経抜かれると思うし怖くて行けなくて…。」

と言うと担任は歯医者怖いのか、と笑った。

私にとっては笑い事じゃなかった。だって神経を抜かれるかもしれないのだ。一大事なのだ。

「先生は大人だから平気かもしれないですけど!私は歯医者が怖いんです!だって神経抜かれるから!」

「はは、神経抜かれるまで放置するからそうなるんだぞ。」

その通りです先生。完全に論破された。早めに歯医者行けよー、という先生に嫌だ嫌だと駄々を捏ねていると、ところで、と先生が切り出した。

「大人になったからって歯医者が怖くなくなる訳ではないぞ。」

「え。」

「人によるとは思うけど、俺は歯医者が怖いから、いつも限界まで放置して神経を抜かれる。」

私は絶望した。大人になれば歯医者など怖くなくなって、ちょっと痛いかなー念の為行っとくか!位のノリで行けるようになると思っていたのに。担任は三十代半ばであった。無理じゃん。この歳の人が怖いって言ってるんだからもう無理じゃん。ちなみにこの時の虫歯もしっかり神経を抜かれた。

そして今、私は二十代後半となったが歯医者はもちろん怖い。克服なんてできるはず無かった。この国で成人とされる十八歳(私が成人を迎えた時はまだ二十歳であったが)以降も軽い治療では済まずに神経を抜いているので、もしこれを読んでいる歯医者が怖い子供達がいたら諦めてほしい。怖いものは大人になっても怖いです。諦めて神経を抜かれてください。

しかしながら一番良いのは、虫歯にならない事、そしてなったとしても早期発見でちょって削るくらいで治療が済むうちに虫歯を始末する事。つまりは定期検診が一番良いのだ。歯磨きは私も熱心にしているが磨き残しはあるだろうし、何より歯並びによってはどれだけ頑張っても多分虫歯は出来るのだ。だから定期検診に行こう。私は怖いので行かないが。これを書いてて虫歯に対して憎しみが湧いてきた。あと改めて、定期検診に行ってる人へ尊敬の念が湧いた。定期検診に行ってる人はすごいです。

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