第39話 大学での日常
シャイナに何気なく聞いた昔話は重過ぎた。
軽く聞ける内容ではなく、アネモネに至っては泣いている。
俺もかなり動揺している。
そりゃ、教授に依存するのも納得だ。
シャイナの存在そのものが教授でできてるんだ。
それにしても安直な名前だな。
シャイとグランデが語源だろう。
内気と大きいだ。
シャイナの人間性そのものを表している。
アネモネが「シャイナもだったのね」とか不穏なことを言っている。
俺の知らない何かがあるのだろうか?
また今度聞いてみようかな。
いや、こんな重い話なんだったら少し準備時間が欲しいな。
アネモネが俺に隠し事をするとは思えないから別に隠す内容ではないのだろうけど、ちょっと心配だ。
まぁ、いいか。
話したい時に話してくれるだろう。
待っておこう。
現在は、トレーニングの途中休憩である。
もうすぐ、俺とアネモネの組み手が始まる。
オーラについては少しずつ習得している。
特に闇オーラの奥が深すぎる。
引力と斥力という真逆の力を1つのオーラで使い分けることが混乱の原因だ。
おまけに、オーラは形や状態を変化できることも知った。
離れた相手にオーラを糸のように飛ばしてくっつけ、そのオーラを辿って引力や斥力を発動させることができる。
まるでガムとゴムの性質のオーラのようだ。
表面も変更できないだろうか?
他には、相手のオーラと相殺させる攻撃は極悪攻撃だ。
大量のオーラに任せ、相手のオーラとぶつけ合うことで相殺できる。
相殺された側はオーラに差があり過ぎれば丸裸になる時もある。
局所的に穴を開けて攻撃することもできるため、オーラ総量が多いから勝てるということはなくなる。
考えるだけで恐ろしい。
恐らく、オーラのガード無視で攻撃された時はこれを使われたのだろう。
アネモネがいきなり倒されたり、俺の左腕が折れたり…。
心当たりがありすぎる。
しかし、シャイナの昔話を聞いた今としては、オーラの暴走がヒトの命を左右することを知っている。
教授やシャイナや、ラースが簡単に教えてくれなかった理由も頷ける。
結果だけで言えば、コーンさんのことを考えると先に知りたかったけどね。
まぁ、結果論だ。
今なら何とでも言える。
逆に言えば、シャイナ戦は周りの人たちも俺へ配慮して情報を渡さずに圧勝するという形になったのだろう。
恐らくラースとも打ち合わせはされているのだろう。
心配なのはオリビアかな。
まぁ、打ち合わせされているのであれば、今頃言い聞かされているだろう。
彼女も完全に当事者だ。
俺が勝手に巻き込んだだけだけど。
さて、休憩は終わりだ。
アネモネと組み手が始まる。
その前に測定班に魔力を測定してもらう。
俺は、陽(9080)隠(278960)
アネモネは、陽(99870)隠(5890)
ここにきてアネモネが急成長している。
まだ、魔力成長の鍵は掴めない。
しかし、ここ数日の計測で、毎日少しずつ上がっていることがわかっている。
しかも、組み手の内容に応じているような気もする。
俺の仮説は「感情の昂りに比例する」説である。
どうも、最近のアネモネは俺に負けが続いていて焦っているように感じる。
組み手1回への思いが違う気がする。
俺は逆に、大きな試合の後に急成長している気がする。
組み手では、どうも本気を出しにくいというか、アネモネやシャイナ相手に怪我をさせないように立ち回っているように思う。
恐らく、コーンさんのことが気になっているのだろう。
さて、時間がきた。
アネモネが構える。
俺も構えると、アネモネから糸状オーラが飛ばされてくる。
それを避けると、避けた先にアネモネが突きを放つ。
完全に誘導されている。
思わずガードする。
ガード時に闇オーラを付け合う。
瞬間、互いに光オーラで相殺する。
アネモネの光オーラが俺の闇オーラをさらに侵食する。
俺は切り替え、水と土オーラを蓄積加速させる。
闇オーラはたっぷり残っているが、アネモネの火オーラ対策だ。
アネモネは俺のオーラが溜まりきる前に火オーラを一点集中し、右ストレートを放つ。
俺も土オーラ一点集中ガード。
またも糸状オーラを付け合う。
アネモネは闇オーラを、俺は光オーラを。
アネモネは闇オーラをつけられたと勘違いし、光オーラで相殺しようとする。
俺は、闇オーラであることを確認して光オーラで相殺する。
アネモネは相殺できないことを不思議に感じ、一瞬の間があく。
それを見逃さない。
くっつけた光オーラを闇オーラに切り替え、引力の力を使う。
アネモネを引き寄せ、連れてきたところへ左ストレート。
ヒット。
「そこまで!」
シャイナが言う。
「ええー!あんなのできるの?」
「そうなんだよ。俺もさっき気づいたんだ」
「そうですね。よく使われるフェイントです」
シャイナが解説する。
オーラの多様化が進み、駆け引きがかなり難しい。
フェイントや、距離感、引力や斥力、オーラの付け合い、相殺。
選択肢がかなり増えたことで1つの動きに多くの意味を持たせる必要がある。
子どもでは絶対に扱えない。
中身オッサンで助かった。
駆け引きとなると、やはり、アネモネにはまだ負けない。
伊達に、50年以上は生きてない。
しかし、アネモネもかなり上達している。
それに、アネモネが負けているから、感情が昂りやすい。
すると、魔力上昇値に変化が出る。
俺は、陽(9100)隠(278990)
陽が20増加、隠が30増加
アネモネは、陽(99980)隠(5980)
陽が110増加、隠が80増加
じわじわ詰めてくる感じが俺に焦りを生む。
まぁ、別に競ってるわけじゃないからいいんだけどね。
感想戦と測定が終わって1セット終了。
10分休憩して次の組み手という流れで1日を過ごす。
トレーニング後の学習時間になると、俺は、アネモネと一緒に日本で言う高校の内容を学習している。
アネモネには「転生者ずるい」と言われるが、仕方ない。
アネモネも勉強は好きらしく、飲み込みが早い。
理解力が高いので、全く困ることなくスラスラ進んでいく。
俺も高校の内容となると記憶が怪しいので、復習がてらいい勉強になる。
その間シャイナは食事の用意をしてくれている。
学習が終わると食事をとり、各自好きに過ごして就寝という流れだ。
アネモネとの関係だが、良好だ。
俺も11歳で男の子の日も迎えてしまったので、下手なことはできない。
この国では学校を卒業して初めて成人となる資格を得るので、それまでの結婚は原則許されない。
例外はないわけではないが、アネモネを例外にしたくない。
それが甲斐性ってもんだろ?
でも、こっそりキスをしたりイチャイチャすることはある。
もう、アネモネも日本では高校生の年だ。
そういうことにも興味があるのだろう。
学校では日本の教育と同じような水準で教育がされているので、性教育ももちろんある。
あるが、実際に自分のこととなれば、話は別だ。
前世では結婚もして子どももいたが、こういう青春があると、転生っていいなって思う。
結婚についても話し合っていて、お互いが成人してからなので、アネモネは26歳になってからとなる。
しかし、それはあまりに待たせすぎて可哀想なので、別の方法を考えている。
飛び級での卒業だ。
高等部は大学と同じようなシステムを使っている。
しかも日本の大学とは違い、必要な単位を取得すればいつでも卒業できるのだ。
俺の場合、すでにシュバルツ教授の在籍する、国立大学での研究生というポジションを得ているので、スムーズだ。
教授の研究に名を連ねているので、便乗して研究できる。
それを単位取得に流用すればすぐに卒業できるようになる。
俺の試算では16歳のうちに卒業論文を完成させればその年のうちに卒業できる。
そのために、今の魔力の測定記録は全て残し、私見も展開している。
スムーズにいかなくてもなるべく早く卒業できるようにしようと考えている。
魔術に関する研究も興味があるが、それは、在学中に目処をつけたい。
卒業後の進路は冒険者だ。
一生できる仕事ではないが、俺は世界一を目指している。
それは結婚しようがしまいが、関係ない。
冒険者でも、魔術でも1番になりたい。
もちろん魔闘士でも。
しかし、同じ相手ばかりだと飽きそうだな。
飽きるというか、視野が狭くなるというのか?
とにかく、ずっと3人で過ごすのは限界がある気がする。
「ご主人様!」
そう思っていた頃に教授が現れた。
このおっさんがシャイナにとっての王子様なんだよなー。
なんか複雑だな。
年齢なんか10くらい違うだろうし。
身長は同じくらいだからバランスはいいけど、シャイナは猫背だし、自信がなさそうだから、自信満々の教授とは何というかアンバランスだ。
2人の問題だから俺には関係ないけど、シャイナが一途すぎて不憫だ。
コイツ、実は他に女がいるとかないだろうな?
そんなことしたらぶっ飛ばしてやろう。
昔はラースより強かったか知らないけど、今じゃ、俺もそこそこやるぜ?
なんて考えていると教授が話し出した。
「こんにちは。今日も頑張っていますね。お二人は順調に魔力を強化できているようで何よりです。シャイナも頑張っているようですね。しかし、少し、スパイスを効かせたいですね。新しい相手と組み手をしますか?」
「あぁ、俺も同じことを考えてたんだ。誰かほどよい相手はいるか?」
待ってましたとばかりに便乗する。
「アタシは今調子がいいからどっちでもいいわよ」
確かに、アネモネは調子がいい。
「私はご主人様の仰せのままに」
目がハートになっている。
「そうですね。それじゃ、私が相手をしましょう。そのために動ける服装で来ましたので」
「!!」
3人で顔を見合わせて驚いた。
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