第38話 タネ明かし

「で、教授、全てを話してくれるってんだろ?早くしてくれよ?」


「そうね。早く知りたいわ」


「ちょっと、着替える時間くらいは待ってくれないかな?あとは、ここは私の私室だよ?入室の許可だしてないよね?」


「そんなことより、早く教えて」

 アネモネは急かす。


「そんなことって…」


「だって、昨日はなんだかんだはぐらかして居なくなってたじゃない!」


「いや、私も仕事があるのでね」


「じゃあ、シャイナに教えていいと許可を出して。そうじゃないと話が進まないの」

 アネモネは詰め寄る。


「教えたら試したくなるでしょ?だから、私がいるときにしてほしかったんだ。でも、シャイナの試合に合わせた調整を手伝ったおかげで仕事が溜まってるんだよ」


「それじゃあ、一体いつなのよ?なんなら仕事の手伝いでもしましょうか?」


「それも魅力的だが、2人のために助っ人を用意したんだ。朝食のあとに連れてくるから少し待ってね?」

 教授はマイペースだった。


 俺たちは昨日の夕方に国立大学へ到着した。

 その後、生活必需品を以前のカードで買い、夕食を寮の部屋で食べた。

 もちろんシャイナの手料理だ。

 ビーフシチューと、サラダと、パンだった。

 牛肉はしっかり煮込まれていて美味しかった。

 その後、教授は帰ってきた。

 詰め寄るも、疲れているから今日は待ってほしいとのこと。

 翌日に教えてくれと約束するも、はぐらかされた。

 だから、早朝から詰め寄っていたわけだ。

 シャイナの次の試合を考えたら、今のうちに進めないと、邪魔になると思っての行動だ。

 俺たちにとって、教授よりシャイナの方が優先順位が高い。

 これだけの凄い選手なのに、こんなにも甲斐甲斐しく身の周りのお世話をしてくれる。

 ありがたい存在だ。



 時間は戻り、

 

 コンコンコン


 ノックがあった。

 おそらく、助っ人だろう。


「どうぞ」

 

「失礼します。ツバル・シュバルツ教授の助手をしている、ナーモンド・パーマーと申します。魔闘法について指導するように言われてきました」

 20歳くらいだろうか。

 165cmほどの小柄な男性だ。

 小柄と言っても、俺よりは身長が高い。

 アネモネと同じくらいの身長だ。

 体型も華奢で魔闘士とは思えない。

 糸目で柔和な表情をしている。


「こんにちは。僕はライラック・アルデウスです。よろしくお願いします」


「アタシはアネモネ・アフロディーテです。よろしくお願いします。パーマーさんも魔闘士なんですか?」


「いえ、私は魔闘士ではありませんよ。あくまで教授の助手です。しかし、魔闘士の研究を一緒にしているので、魔闘法については、あなたたちより詳しいでしょう。それに、実戦はシャイナさんがしてくれると伺っています。シャイナさん、よろしいですか?」


「えぇ、もちろんでございますわ」


「さて、早速ですが、本題へと移りますね。おかけください」

 リビングの椅子を勧められる。


「ありがとうございます。それででは、早速お願いいたします。まず、教えて欲しいのは、オーラでできることの全てです」


「かしこまりました。しかし、全てというリクエストにはお応えできません。と言うのも、全ては解明できていないからです。中でも無色オーラについてはブラックボックスとなっています」


「わかりました。それでは、わかっている範囲で全てを教えてください」


「承知しました。それでは、まず、基本4属性についてですが…


 その後、半日かけてオーラの使い方についての講義があった。

 新しくわかったことは、基本4属性だけ蓄積加速できるということ。

 光、闇オーラは基本オーラを加速させることで副次的に加速できるだけということ。

 無色オーラは4分の1となることから副次的効果すら諦めていること。

 光オーラでは闇オーラを、闇オーラでは光オーラを相殺させることができるということ。

 その副次効果として、強制的に火と風を光に、水と土を闇に変換して相殺させることもできるということ。

 光オーラの回復の対象はオーラが繋がっている他人にもできること。

 闇オーラの重力の対象はオーラが繋がっている対象に発生させることもできること

 また、闇オーラの力は重力ではなく、引力と斥力が正しい表現で、引きつけたり、退けたりすることができること。

 対象者はオーラで繋がった任意の対象者となるため、相手はいつでも選択できること。

 シャイナは特異体質で、加速の速度が異常であること。

 しかし、俺やアネモネの魔力が多すぎるため、それすら覆る可能性が高いこと。

 意図的に加速させることは、体力の消耗が激しいため、常時運用には向いていないこと。

 それより、魔力量が成長する神殺しの存在が研究に対する貢献度が高いこと。

 教授の最終目標は魔闘士のワールドランキング1位になる人物を見つけ出すことだということ。

 今のところ、俺が1番素質があると認められているということ。

 次点でアネモネ、シャイナと続くこと。

 

 …ということです。何か質問はありますか?」


 などなど…。

 ちょっとついていけない。

 情報が多すぎる。

 というか、これ全部知ってなきゃ、シャイナには絶対に勝てない。

 そりゃ、オーラは奥が深いと言うわけだ。

 おまけに、無色については、時間を止められると言うこと以外はわかっていない。

 どれだけのオーラがあればどれだけ止められるかの測定ができないのだ。

 だって、それだけの魔力量の人間がいないんだもん。

 いくら、加速して蓄積しても、すぐに吸い尽くすらしい。

 俺たちの魔力を上昇させて、測定するのが最も効率的らしい。

 特に俺の成長率が高いので期待されているとか。

 ってか、なんかもう、モルモットにされてる気分だな。

 やばいとこに足を踏み込んだ気分だ。

 なんだろ?

 俺が緑と紫の初号機で、アネモネが真っ赤な弐号機で、シャイナが黄色い零号機に乗って戦い出しそうな展開だ。

 

 まぁ、いいや。

 それで、どうやら、俺とアネモネには子どもを作ってほしいそうだ。

 言い過ぎだろ。

 デリカシーなさすぎる。

 これを教授から直接聞いてたら、一発はどついてた。

 

 まぁ、これもいいや。

 あと、直近の予定としては、なるべくオーラを高めるべく、魔力を高めてほしいそうだ。

 うん。まぁ、どれも俺の目的からは見事に外れていない。

 アネモネとの結婚も出会った瞬間から決まっていることだしね。

 魔力を高めて世界一になることからはどれも外れていない。

 協力しようではないか。


「わかりました。大筋はわかったんですけど、魔力ってどうやって高めるんですか?」


「アタシもそれが気になってた」

 アネモネも俺との子どもについて否定する気はないらしい。

 思いは同じようだ。


「神殺しについては現在も研究中です。明確な方法は確立されていませんが、魔力を使い続けることで高まることは今までのデータで確認できています。特に、ライラックさんは、戦闘後に高まる傾向にあるようです。よって、これからは、3人でローテーションを回して戦っていただきます。その後、毎回魔力を測定して効果的な方法を模索していく方向性です。いかがでしょうか?」


「アタシはそれで構わないわ」


「俺もそれでいいかな。でも、シャイナにメリットないけどいいの?」


「私も結構でございます。ご主人様の命とあらば、いくらでも戦います」

 凄い忠誠心だ。

 あんな教授のどこがいいんだろ?

 今度聞いてみよ。


「それでは、1日の簡単な予定を確認いたします。起床、朝食後、9時から午前の戦闘訓練。昼食後、午後の戦闘訓練です。17時からライラックさんとアネモネさんは学習の時間とし、19時から夕食とします。その後は各自自由時間となります。こちらの予定でよろしかったでしょうか。もちろん体調は各自申告してください」


「わかりました。学習の時間の講師はどなたが?」


「私がします」

 ですよね。

 見るからに勉強の方が得意そうだし。


「わかりました。よろしくお願いします」


「わかったわ。あと、魔力測定の結果はその都度教えてちょうだい」


「承知しました。測定班に伝えておきます」


「私も承知いたしました」

 当然とばかりにシャイナは頷く。


「あと、最後に質問いいですか?」

 ずっと気になってたことを聞く。


「はい。なんでしょう?」


「シャイナって次の試合どうするんですか?このメニューだと、俺たちがメインで、シャイナの調整にはならないような気がするんですけど?」


「はい。あくまで、ライラックさんとアネモネさんの魔力強化を中心に考えています。シャイナさんについては、何も伺っておりません」


「そんな…」


「大丈夫でございますよ?ライ様。私のことをお気遣いいただき、ありがとうございます。しかし、私はあくまでご主人様のメイドでございます。命がなければ、大会にも出場する予定はありませんでした。恐らく、次の試合は棄権することになると思われます」


「そこまでしなくても…」

 そんな言葉が出る。


「いえ、勝ち進んでも、ゴッドイーターはもう決まっています。今のワールドランキング1位にはそれだけの力があります。ご主人様がおっしゃっていましたので間違いありません」


 絶対的な信頼だな。

 まぁ、しばらくは様子を見るか。

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