第33話 魔闘士大会サバイバル戦 前半

 魔闘士大会の日程が発表された。


 かなり反則のトーナメントで、ワールドランキング1位から15位はトーナメント出場が決定し、16位から20位と予選通過者でサバイバルバトルを行うらしい。


 この方式は1000年以上続く伝統らしく、サバイバルバトルは、まず、トップランカー組が予選通過者を潰すところから始まるらしい。


 何この恐ろしいしきたり。


 今年は予選通過者が4人もいるので、ランカー組といい勝負できるかもしれない。


 何せ、そのうち1人はアネモネだしね。


 心強い。


 しかし、ランカー組みを潰した後は戦わなければならない。


 日常的に本格的な組み手をしている俺たちだが、全力で潰し合ったことはない。


 まぁ、治癒魔術はすぐに使ってもらえるので、骨折や、内臓の破損程度ならすぐに治る。


 つまり、即死攻撃さえ避ければ死ぬことはない。


 しかし、数年に一度は魔闘士の試合でも死者はでる。


 そうならないように、出場者も主催者も全力を尽くすが、悲しい事故は起こってしまう。


 事故は避けられないのである。


 サバイバル戦は来週、1回戦は来月、2回戦は2ヶ月後、準決勝は3ヶ月後、決勝は4ヶ月後だ。


 移動や、時差の慣らしも考えてかなりゆったりしたペースだ。


 天下一を決める武道会ではないので、1日でトーナメントというわけではない。


 サバイバル戦の日程が近いのは、知り合いであるランカー同士での連携をなるべく防ぐためである。


 と言っても、電話ですぐに連絡を取ればいくらでも連携は取れる。


 さらに、このサバイバル戦や、その後のトーナメント戦もワールドランキングのポイントに加算される。


 それは、ランカーだけではなく、俺たち予選通過者も同じだ。


 つまり、1ポイントでも取ればワールドランキングに入るという仕組みだ。


 もちろん、辞退もできるが。


 この大会が、魔闘士として成功するための登竜門となるのである。


 ポイントが入ると言うことで、仲間割れが多いのもこの試合の見どころとなっている。


 ランカー同士で露骨にチームとして動けば、隣のランカーに一撃で沈められるというのは、よくあることだ。


 ところが、予選通過者はランカーを倒せば倍のポイントが入るルールになっているため、ランカーを倒し終えるまではチームとして成り立つ。


 それでも、目先のポイントに踊らされる者もいるが。


 それはそれとして、アネモネと打ち合わせをした方がいい。




「ねぇ、アネモネ?来週のサバイバル戦の立ち回りだけど、何か具体案はある?」




「そうだねぇ。あるっちゃあるかな?」




「へぇ!どんなの?俺は策と呼べるものは思い浮かばなかったな」




「ふーん。まぁ、ライは作戦無くても勝てちゃうもんね。アタシも作戦というか、ただの必勝法よ」




「え?そんなのあるの?教えてよ。なんとなく予想ついたけど」




「そうでしょ?これしかないじゃない。ライが盾でアタシが鉾となり、互いをフォローしあうってとこね」




「やっぱり?俺も似たようなこと考えたよ。やっぱり、それが強いよね」




「ええ。まさに必勝法でしょうね。オーラを切り替えなかったらライは絶対に攻撃が通らないもの。アタシがオーラを一点に集中して全力攻撃してもノーダメージだったしね」




「だよね。あれは俺も驚いたよ」


 確かに驚いた。


 オーラの一点集中はおよそ10倍の攻撃ができるらしいので、計算上は耐えられる。


 実際にやってみるまでは信じられなかった。


 空気は振動し、ものすごい攻撃だとわかっているのに、完全にノーダメージだった。




「ライは驚いただけでしょうけど、アタシはかなりショックだったんだから!」




「ごめんごめん。でも、いい実験だった」




「もう!絶対謝る気ないじゃない!謝られても困るだけだけど」




「だよね?では、切り替えよう。他の2人の予選通過者は邪魔だと思うんだけど、どう思う?」




「そうね。切り捨てましょう」




「やっぱ、そうなるよね。俺もそれがいいと思う。何か言ってきたら倒してしまってポイントにしよう」




「ライ、確認だけど、アタシ達はワールドランキングに入ることはできないわよ?」




「もちろんわかってるよ。特級だとバレるもんね。ポイントはオマケだよ」




「わかってるならいいけど。あと、ランカーも全部倒したあとのアタシ達は闘うの?」




「そうだね。ヤラセだと思われると、その先のトーナメントでも客からのヤジが酷そうだしね」




「そうね。客層が悪いことはシャイナの試合でわかったものね。攻撃が通じないのわかってて本気で闘うのイヤだなぁ。やっぱり、棄権しようかな」




「まぁまぁ、修行だと思って闘おうよ」




「わかったわよ」




「じゃあ、会場へ行こうか」




「ええ、今から行って体調を整えましょう」









 俺たちはサバイバル戦の為にイタリアに似た国、イタッツァという国の都市ヌーマンで試合の当日まで休養と基礎トレーニングと、観光をして過ごしていた。


 完全に新婚旅行と呼べる内容だった。


 トレーニングは日課として行っているので、違和感はなく、イタリアに似た街並みや、料理が完全に俺たちを幸せにした。


 言葉は都合のいい魔術があり、『意思疎通』というそのまんまの名前だ。


 無色のマナを使う辺りが使える人を選ぶが、少ない魔力で動くので、比較的使いやすい。


 俺たちはダイヤの指輪状の杖に付与して常時発動している。


 さすが、500万の杖、まだまだ容量は空いている。


 


 さて、いつまでも新婚気分ではおられず、闘いの日がやってきた。


 俺たちはすでに試合会場の控え室にいる。


 案の定ほかの予選通過者から声をかけられたが、相手にしなかった。


 そもそも、指輪を外しているので、何を言っているのかわからない。


 英語っぽい印象を受けたが、英語は前世でも苦手だ。


 聞き取りすらままならない。


 冷たく接していると、察したらしく、残りのもう1人と何やら話し合っていた。


 不穏な雰囲気だ。




 まぁ、いいや。


 俺がするのは、アネモネと連携して、俺たち以外を叩きのめすだけだ。


 さぁ、試合の時間だ。


 闘技場へ移動しよう。


 闘技場は、こっちの惑星版コロッセオのレプリカらしく、毎年、ここで試合が行われるらしい。


 この先のトーナメントでは、相手との中間地点で程よい場所を大会運営の協会役員が探すらしい。


 まぁ、教授に丸投げしよう。


 今回のサバイバル戦は相手こそ複数いるが、ルールは同じだ。


 ラウンド無し、カウント無しで、勝敗は棄権か、カウントのみ。


 シャイナが闘ったルールと同じ。


 ついに、目標である魔闘士大会優勝に歩を進めた。


 


 闘技場は円形だった。


 何もない円形の闘技場。


 シャイナが闘った4m四方のリングとは違う、円形の闘技場。


 広さとしては、直径が20mはあるだろうか。


 そこそこ広い。


 そこに、ランカー5人と、予選通過者4人が等間隔になって、闘技場の縁に立っている。


 観客は大声で叫んでいる。


 広さもあるが、屋根の無い屋外であることから声が響かない。


 サッカーの応援をイメージした。


 会場としては、野球場が近いか。


 すり鉢状のスタンドに沢山の観客が満員で入っている。


 数万人はいるだろう。


 


 そこで、実況兼審判の男性からアナウンスがされた。


 何を言っているのかはわからないが、自分の名前を呼ばれたら手を挙げる決まりらしい。




「×××、ライラックぅー、アルゥデーウースー!」




 俺は拳を突き上げた。




 うぉぉぉぉーー!




 観客が沸く。




 次はアネモネだ。




「×××、アネモネェー、アフロディーテェーー!!」




 アネモネは軽く手を挙げ、ニコっと微笑んだ。


 その様子がカメラで巨大スクリーンに映される。




 うううぅおおおおおぉぉぉーぉーーー!!




 観客が狂ったように叫ぶ。


 俺との違いがひどい。


 確かにアネモネは可愛いけどね。


 キレイな髪の色で、今日はポニテにしている。


 年齢の割には豊かな胸とくびれた腰が大人っぽくしている。


 顔はいつも通り、涼やかな顔をしている。


 この顔で微笑まれたら誰でも落ちるはずだ。


 まぁ、初キッスは俺がいただきましたけどね。


 赤ちゃんのときに。


 


 その後、すべての選手の紹介が終わった後、試合のゴングは鳴り響いた。


 俺たちは作戦通り俺は土オーラを、アネモネは火オーラを纏う。


 すると、ゴングと同時にランカー組が襲いかかってきた。


 一瞬の出来事だった。


 ランカー組の移動速度が異常だった。


 ゴングの前にオーラを仕込んでいたのではないか?と疑いたくなるレベルだ。


 しかし、審判から「待った」はない。


 つまり、ルールには従っている。


 ということは、考えられるのは、オーラの出し方が上手いわけだ。


 通常は、魔速と言われる一定のスピードでしか、出せない。


 特定のトレーニングを繰り返すことで、魔速以上の速さでオーラを出すことができるのは知っていた。


 しかし、俺たちはそのトレーニングをしていない。




 理由は簡単。


 必要ないからだ。


 俺の魔速は隠が約16800mpある。1分間で16800mpのマナを操作できる。


 つまり、1秒間で2800mpとなる。


 そう、1秒あれば、守りはある程度完成するのである。


 だから、安心して防御する。


 先頭の赤い髪のランカーが飛び蹴りをしてくる。


 叫び声はもちろん


「ヒャッハー!」


 もう、3秒は経った。


 8400mpはある。


 両手でガードする。




 ガキィン




 と金属音のような音が響く。


 若干のダメージがある。


 続いて、別の選手の攻撃が波状攻撃としてくる。


 同じく飛び蹴りだ。


 よく見ると、残る2人は、


 もう2人の予選通過者に迫っている。


 もう1人はどこだ?


 見つけた。アネモネに迫っている。


 俺は俺に迫るランカーをよけて、アネモネを守る動きをする。


 4秒は経っただろう。


 1万を超えたので、上級の10倍攻撃は全て防げる。


 一安心だ。




 アネモネに迫るマッチョのランカー。


 火オーラに殺意がたぎる。


 右拳に集約され10倍攻撃がくる。


 拳が振りかぶられる。


 俺なら耐えられる。


 アネモネの前に踊り出し、クロスガードで受ける。


 


 ドガッ!




 大きな打突音と共に激痛が左腕を襲う。


 恐らく骨折している。


 相手が間合いをあけても痛みが引かない。


 


(何をされたんだ?)




 どう考えてもガードを貫いて攻撃されている。


 相手のオーラが俺のオーラを上回った?


 単純に筋肉によるパワーが強かった?


 いや、肉体の力は、オーラを上回ることはない。


 ということは、単純にオーラで負けた?




 恐らく、相手は通常よりオーラを素早く纏う技を身につけた特級術師。


 くそっ。


 そういう情報は教授が教えてくれたもので全てだと思ってた。


 完全に想定外だ。


 オーラを素早く纏う速攻法は聞いていたが、特級術師は聞いていない。


 これなら、俺も速攻法を身につけておけば良かった。


 というか、これより強いシャイナって、どんだけ強いんだよ?


 そら、防衛線で縛りプレイするなんて危険なことを平気でするわけだ。


 だめだ、目の前の敵に集中しないと。




 俺は動かない左手を諦め、右手一本で戦う決意をする。


 アネモネは俺の後ろで目を見開いている。


 しかし、すぐに切り替えて攻撃に移る。


 オーラの一点集中をしたので、土オーラが0なのは確定だ。


 アネモネはチャンスと見るや、一直線に飛びかかる。


 中段回し蹴りが直撃。


 火オーラ集中の10倍攻撃だ。


 まだオーラは溜まりきっていないが、火力は十分。


 相手の脇腹を蹴り抜いた。


 恐らく今ので肋骨を数本と、内蔵の損傷は確実だ。


 しばらくすればダウンする。




 しかし、相手もそれを察してか、アネモネへカウンターを発動させる。


 アネモネの顔面への右ストレート。


 俺はなんとか、アネモネを押しどけ、ガード体勢にはいる。


 右手一本でガードするも、ダメージは無い。


 オーラが間に合った。


 ここからは、どの攻撃も通用しない。


 


 と、思った瞬間、アネモネがダウンしている姿が目に入った。


 何が起こった?


 初めに俺を攻撃した赤頭がアネモネを攻撃していた。


 恐らく、俺がマッチョの攻撃からスイッチした瞬間を狙われたようだ。


 しかし、赤頭は上級だからか、壊滅的なダメージというわけではない。


 でも、アネモネはここで棄権しなくてはならないだろう。


 肋骨の辺りが不自然にへこんでいる。


 くそっ。


 なんで、こうなった?


 必勝法じゃなかったのか?


 


 俺は後悔するも、切り替えなければならなかった。


 なぜなら、もうすでに次の攻撃が来ているからだ。


 2人からの波状攻撃。


 しかし、1分は経ち、オーラは完成している。


 どの攻撃も防ぐ必要すらなかった。


 観客からは、2人にタコ殴りにされているように見えるだろう。


 全くダメージは無いが。


 2人はオーラを足に集中させ、10倍攻撃を連続で繰り出している。


 俺が防御特化のオーラであり、攻撃に転じてこないからだ。


 実際、それは合っている。


 しかし、今はそう言ってられない、足元にアネモネが転がり、棄権できずにいる。


 俺への猛烈なラッシュのため、審判が止められないのだ。


 今止めると、ランカー2人が不利になりすぎるとの判断だろう。




 だから、俺は2人のラッシュを止める必要がある。


 万が一アネモネが命に関わる重症ということもある。


 早くアネモネに治癒を受けさせなければ。


 考える。


 今、土のオーラを解けば畳み掛けられる。


 いや、単純に行こう。


 全開法で、全オーラを開放する。


 オーラは溜まりきっていないが、構わず攻撃する。


 相手はぎょっとするも、すぐに何もなかったかのようにラッシュが再開する。


 俺はアネモネから離れないようにする。


 離れると、棄権宣言していないアネモネに他の誰かが追い討ちを仕掛ける気がした。


 夢中で守っていた。


 


 どうやら、オーラが溜まったようだ。


 攻撃が入り出した。


 同時に、限界を超えて土オーラが溜まり出した。


 あれ?これって、一つのオーラに絞ってる時だけじゃなかったっけ?


 まぁ、いいか。


 今はアネモネを助けることが最優先だ。


 


 俺は溜まった火オーラで相手を殴りつける。


 恐ろしいことに、折れた左手も土オーラでガチガチにすれば鈍器として役だった。


 これは、場内もドヨドヨしていた。


 単純にグロいからだ。


 ダラんとしていた腕で攻撃する俺の姿が気持ち悪かったのだろう。


 そんな奇襲も成功し、2人を圧倒した。相手は途中で土オーラの一点集中ガードをしていたようだが、俺のオーラの方が上だった。


 おそらく2人とも隠は下級なのだろう。


 マッチョに、連続後ろ回し蹴りが中段にクリーンヒットしたあたりからは一方的に攻撃した。


 体勢を崩したマッチョに腰を回転させて、さらに上段回し蹴りをこめかみに入れ、意識を切る。


 赤頭には、右ボディブローをゴリ押しで打ちまくり、悶絶したところにアゴへのショートアッパーで意識を刈り取った。


 その後、アネモネを審判のところへ連れて行き、棄権させた。




 正直、今の俺は負ける気がしない。


 オーラが、今まで以上に溜まっている。


 特級が来ようと力で押せるだけの出力になっているはずだ。


 残りは5人。


 4人は交戦状態。


 残り1人は動かない。


 ラスボス気取りだ。


 なんか、ムカつくし、こっちから行こう。


 すると、




 わぁぁぁあーー!!




 と、場内が叫んだ。


 4人の闘いの決着がついたようだ。


 残ったのは2人、おそらく、予選通過者組だ。


 初対面だったし、はっきり顔を覚えていない。


 しかし、ランカー4人がダウンとなれば、異例の展開である。


 例年であれば、ランカーが予選通過者を先に潰して、ランカー同士の乱闘となるのが、常である。




 さて、左手が折れている俺は不利だ。


 少しでも、有利に立ち回らないといけない。


 しかし、今の気分は違った。


 アネモネが倒されて怒っていた。


 気分は高揚し、オーラも上昇していた。


 簡単に言えば、気持ちが大きくなっていた。




「かかってこーーい!」




 気がつけば叫んでいた。


 意味は魔術がないので、意味は伝わってないだろうが、意図は伝わったようで、ラスボス以外の2人が近づいてくる。


 どうやら、彼はラスボスムーブをしたいようだ。


 好きにさせてやろう。


 17万mp近いマナをオーラに変え、まとっている。


 追加蓄積もされているので、20万に届くのではないだろうか。


 予選通過者2人の間合いがどんどん近づき、彼らの間合いに入った。


 瞬間、風オーラで加速した移動が襲ってきた。


 同時に火オーラの攻撃と土オーラの装甲も見える。


 全開法だ。


 やはり、トップランカークラスは当たり前のように使ってくる。


 おそらく、さっきの戦いからずっと蓄積しているはずだ。


 特級と考えると、急に不安になってきた。


 いや、アネモネの集中攻撃も耐えたのだ。


 なんとかなるだろう。


 たぶん…。




 うん。


 なんとかなるな!


 とりあえず、攻撃を動かない左手でガードしてみる。


 すると、攻撃を弾いた。


 全くのノーダメージどころか、相手にダメージが入った。


 全く動いていないのに。


 火のオーラを纏ってるだけで。


 力量の差がありすぎると、こういったことも起こるのか。


 とりあえず、2人をワンパンで沈める。


 拳を振り上げ、場内を煽る




 わぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!!




 一気にヒートアップ、残すはラスボスのみ。

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