第19話 魔闘法十段シャイナ・グランテ 初等部3年生

 今日までに打ち合った数は、空に浮かぶ星の数ほど。

 その星たちも、地球から眺める星とほぼ同じ。

 本当に良く似た世界。


 その世界には、魔術の力があり、魔闘法なる戦い方がある。

 魔闘法の中にも、トップランカーのみが使用できる全開法なるものがある。

 俺は8歳の体、アネモネは13歳の体で、世界の頂に挑もうとチャレンジしてきた。

 そう、一年以上みっちりとトレーニングし、それなりの使い手となった。

 目の前に対峙するのは、シャイナ・グランテ、ワールドランキング13位のトップランカー。

 魔闘士の人口は予想以上に多い。

 治癒魔術ですぐにケガが治ることと、世界中の高等部の授業で取り入れられて、誰でも大会に出られることが原因である。


 ところで、シャイナ・グランテは競技人口10億人とも言われる魔闘士の上位13人目として鎮座しているが、その歴史は長いものではない。

 非常に厳しいルール制限がかけられ、ルールにしたがった試合スケジュールをこなすトップランカーは、常に緊張感のある毎日を追わされる。


 はずだ。


 目の前のトップランカーはメイド服を着て、俺たちにお茶を振る舞っている。

「今日のお茶はセーイロンのお茶でございます」

 なんて言っている。

 余裕だ。

 そこはかとない余裕を感じる。

「トップランカーのシャイナさん、こんなことしてても大丈夫なんですか?」


「ええ。メイド業は私にとって精神集中の場でございます。お二人の身の回りのお世話をさせていただくことで、私の精神は研ぎ澄まされていきます」


「そうおっしゃるならいいですけど、今日のランク戦は大丈夫なんですか?」


「もちろんでございます。お二人とのスパーリングで完璧に調整できました。本日の対戦相手は隠の魔力使いでございます。特にライ様とのスパーリングが参考になりました」


「なによ?アタシじゃ不服といいたいの?最近は、ライの陽の魔力の高さが高すぎて、私の負けが続いているけど、アタシの隠も少しずつ成長しているんだからね」


「アネモネ様、決してそのようなことはございません。アネモネ様はすっかり身長も大きくなられて、リーチは大人の女性と遜色ありません。私が申し上げたのは、本日の対戦相手とのオーラの相性のみでございます」


「それだったらいいけど…」


「まぁ、今日はたっぷり応援しようよ?場所はこの大学の国立スタジアムなんだよね?」


「ライ様、その通りでございます。なので、ギリギリまでメイド道に邁進出来ます」


「いや、そこは攻めるところではないですよ」


 なんて、冗談を言いながらリラックスした時間を過ごす。

 シャイナさんは本気っぽいけど…。


「会場へは、そろそろ行くんですよね?」


「そうですね。流石にウォーミングアップは入念にさせていただきます。よろしければ、お手伝いいただけますか?」


「お邪魔でなければ、お願いします」

 アネモネが答えた。

 近くで見てみたいらしい。


「そうですね。お手伝いできることがあるなら」


「もちろんでございます。軽い組み手をお願いします。体を温めるためですので、お互い、同量のオーラを使って組み手をしたいです」


「その程度でしたら、お役に立てそうですね。よろしくお願いします」


 会場へ移動するために、荷物の準備をする。

 移動し始めたが、大学の敷地内に会場があるため、すぐに到着する。

 今日はシャイナの防衛戦の日だ。

 年間一回は防衛戦を受けることが義務とされているので、毎年一回は挑戦を受ける必要がある。

 それが、今日だ。

 非常に重要な日だ。

 しかし、横にいるトップランカーはメイド服を着ている。

 大丈夫なのか?

 心配をよそに控え室に到着した。

 控え室には教授が待っていた。


「師匠、お待たせしてしまい、申し訳ございません。しかし、精神集中は済ませて来ました」


「あぁ、今はライ君たちがいるから大丈夫だったね。さて、お茶でももらおうか」


「かしこまりました」


 いつも通りの所作で、優雅にお茶をいれるシャイナさん。

 不安が募る。

 

「どうぞ」


「ありがとう」


「今日のセコンドはライ君とアネモネさんにしてもらおうか」


「えっ?」

「はいっ」

 アネモネは心の準備をしていたようだ。

 一方、俺は寝耳に水だ。

「セコンドって何をするんですか?」


「危険な時にタオルを投げるだけだよ」


「イマイチ、ルールもわかってないんですが、大丈夫ですか?」


「カンタンだよ。ドツキあって、最後に立ってたら勝ちってだけだからね。命の危機を感じたときはセコンドがタオルを投げると試合終了さ」


「命の危機を俺達の判断で決めていいのですか?」


「大丈夫だよ。シャイナは負けないからね」


「シャイナさん、本当に俺たちでいいんですか?」


「もちろん、ご主人様に殺されるなら本望です」


「死なない方向でお願いします」


「承知しました。相手をブチのめしてご覧にいれます。それでは、衣装を変えますので、一度ご退室願えますか」


「わかったよ。一度、ライ君たちを連れて試合会場を見てくることにするよ。その間に着替えておきなさい」


「はい、師匠」


 控え室を出て、試合会場まで移動する。

 会場はすでに熱気に包まれており、全体的に汗の匂いがした。

 おそらく、前座の試合が盛り上がったのだろう。

 観客からの熱量がすごい。

 頬は紅潮しており、瞳孔は開かれている。

 違法な薬物でも使ってるのか?と言いたくなる雰囲気だった。

 アネモネは、その熱にあてられており、キョロキョロしている。


「アレがリングだよ」

 教授が指を差す方向には、ボクシングのリングよりずっと小さいリングがあった。

 4m四方の正方形。

 それだけだ。

 その上には大型魔導モニターが東西南北に向けてそれぞれ設置されていた。

 今は解説のおじさんの顔が映し出されていた。

 って、ラースだった。

 同級生のオリビアのお父さん、元トップランカーのラース・ロドリゲスがそこにいた。


「おーい!ライー!アネモネー!こっちこいよ!来ると思ってたよ!」

 リングサイドにいる俺たちにラースは気づいたのか、世界に中継していると言うのに、俺たちを、呼びつけた。

 魔闘士のランク戦はかなりの、視聴率だと聞く。

 一斉にカメラがこちらを向く。

 バッチリ写ってしまった。

 仕方なく近づいていく。


「久しぶりだなー!元気にしてたか?そこの怪しい教授に変なことされてないか?」


「怪しいとは、ずいぶんですね。あなたが紹介したのでしょう?おかげ様で最高の研究が進められていますがね。もちろんあなたの狙い通り全開法も教えましたよ」

 教授が嫌味を含めて言い返す。


「そうかそうか。もう、そこまで進んだんだな。順調じゃねーか。ガハハ」


「はい、元気です。オリビアも元気にしてますか?もう2年も会ってないですもんね」


「元気にしてるぞ、ヒョロ坊も毎日来てるそうだ。かなり強くなったぞ」

 フォール君か。

 完全に忘れてたな。


「アタシたち、今日はシャイナのセコンドに入ります」

 アネモネが伝える。


「らしいな。名前を見たときはびっくりしたぞ?」


「えーっと、ラースさん?こちらのかたはシャイナ陣営の方でよろしかったでしょうか?」

 横から実況のアナウンサーが話に入る。


「あぁ、今はシャイナのセコンドだが、元々は俺の弟子だ。その後、そこの胡散臭い教授に引き継ぎ、修行中、この年にして全開法も使えるようになった。次の大会のゴッドイーター候補だ。坊主がライラック・アルデウスで、嬢ちゃんがアネモネ・アフロディーテだ!世界中で注目しとけよ!これからはコイツらの時代だ!」


 とんでもない、誇大広告を打たれてしまった。

 アレだけ言われたら否定しても意味は無いだろう。

 開き直るか。


「こんばんはーー!ライラック・アルデウスです!目標は世界一になることです。ゴッドイーターは通過点で、他にも魔術師大会の優勝、ダンジョンマスターの称号も狙ってます!」


「言うじゃねーか!世界中の魔闘士を敵に回したぞ!」


「しゃー!かかってこーい!」


「アネモネもなんか言っとけ!」


「アネモネ・アフロディーテです。ライのお嫁さんになるのが夢です。倒したい敵もいるので、強くなりたいです。よろしくお願いします」


「相変わらずおアツいな!世界に向けてプロポーズとか、根性がすごいな!」

 ラースもちょっと引いてる。


「ツバルさんも一言どうぞ」

 実況アナウンサーが気を利かす。


「今日はシャイナの試合です。私のシャイナが勝つところを皆さんで見ててください」


「こちらもおアツいな!」

 ラースはさらに引く。


 控え室に戻ることになった。

 控え室に入ると、完全に殺気に満ちたシャイナが待っていた。

 服装は肌の露出の多い、女性ボクサーが着るような服だ。

 衣装の色は黒い。

 シャイナの色白の肌と相待って、妙にセクシーだ。

 トレーニングの時もメイド服だったので、新鮮だ。

 教授とミット打ちした後に俺たちと組み手をした。

 気迫が怖い。


 程なく、試合の時間が来た。

 入場の待機場所でも、シャドーボクシングをしていた。

 オーラの流れは凄まじく速い。


「ランキング13位、シャイナぁぁ・グラーーァンテェー!」

 いざ、入場。

「わあぁぁぁ!」

「勝ってー!シャイナー!」

「死ねー」


 色々な歓声が割れんばかりに鳴り響く。

 地面が揺れているように感じる。


「挑戦者、34位、ラドルフぅぅー・リヒテンシュターーイーーン」


「ブウぅぅーー!」

「死ねーーー!」

「お前に賭けてるんだー!」

 比較的、ブーイングが多い。

 ラドルフ・リヒテンシュタインは、陽 下級(190)隠 上級(560)

 スペックだけなら、シャイナに分がある。

 しかし、彼は身長が185cmもある大柄選手だった。

 シャイナが180cmなので、リーチは負ける。

 火力は低いが間合いの外から長期戦で削られると厳しい相手だった。


 両者リングに上がる。

 女対男であることに、違和感を覚えながらも、オーラがその辺りを解決するのだと言い聞かせる。

 

 ルールは簡単、ラウンドなどのカウントもない。

 ダウンのカウントもなく、タオルかタップの2択。

 水オーラでスタミナ管理することも競技の一つ。

 己の体をぶつけ合う。

 ただそれだけ。

 始まりのゴングが鳴れば次は試合終了まで鳴らない。

 俺とアネモネは、リングサイドでタオル片手に見守った。


 ほどなく、


 ガァァーン


 と、ゴングが鳴った。


 鳴ると同時に相手のラドルフが駆け出した。

 もちろん全身風のオーラだ。

 いや、足は火のオーラを残していた。

 トップスピードで、間合いを詰める。

 シャイナの間合いギリギリで止まり、下段の蹴りから放ってきた。

 この蹴りのために足は火オーラだったのだ。

 

 シャイナは右足に土オーラを纏いガードする。

 同時に間合いを詰めるべく左足風オーラで踏み出す。

 それはさせまいと、ラドルフは下がる。

 明らかに長期戦狙いだ。

 この辺りの地味な戦術が人気の無い理由だろう。

 シャイナはこのあと攻めあぐねる。

 完全にヒット&アウェイで、さらには水オーラでスタミナを回復してくる。

 完全にラドルフの流れだ。

 場内にブーイングの嵐が吹く。

 

 互いにローキックと前蹴りで削り合う時間が数分間続いた。

 しかし、状況はシャイナが不利だ。

 リーチが違う分シャイナの攻め手が少ない。

 他にも、ラドルフが裏拳や、上段回し蹴りを途中に挟むことで、シャイナのガードが遅れることがある。


 トップ選手同士の攻防で受け流しは存在しない。

 そごまでの技量差がないからだ。

 受け流そうとすれば、どちらも体勢を崩し、どちらが有利になるのかがわからなくなる。

 基本はガードしかない。


 しかし、シャイナがフッと笑ったように見えた。

 次の瞬間。

 シャイナが消えた。

 ラドルフのローキックに合わせて、火オーラ全開でタックルをしたのだ。

 ローキックが顔に当たったのか、シャイナは鼻血を出している。

 しかし、気にせずガッチリとホールドし、押し倒す。

 ラドルフは火のオーラを全身に纏って、シャイナを殴り続ける。

 シャイナはそのまま、ラドルフの体を押さえつけながら、ラドルフの腰を目指して這い上がっていく。

 押さえつけてしまえば、火オーラの量が違うシャイナが有利だ。

 ついにマウントポジションを取った。

 ニタァと笑うシャイナがいる。

 ゾッとした。


 右拳が、火を吹く。

 ラドルフの、鼻を潰した。

 左手は、ラドルフの右手を押さえている。

 右拳が、荒ぶれる。

 潰した鼻を何度も殴りつける。

 正確に鼻だけを打ち抜く。

 ラドルフも起きあがろうとするが、シャイナの左手がそれを許さない。

 左手でガードするが、すり抜けて、拳が顔面にめり込む。

 拳を保護する用の指出しグローブが血に染まる。

 ラドルフの抵抗が減ると左拳も使い、顔面を平らにする。

 打つ打つ打つ打つ打つ。

 ラドルフが大の字に寝転んだところでタオルが投げられた。

 

 永遠にも感じる時間だったが、試合時間は5分29秒。

 あっと言うまに終わってしまった。


「しょーうしゃーー、シャイナーー!・グラーーァンテェェー!」

 審判による勝利宣言。

 ダメージが少ないので、そのまま、解説席でインタビュー。

 世界中のカメラが向けられている。


「シャイナ・グランテ選手、おめでとうごさいます。素晴らしい勝利でした」


「ぁりがとうござぃます」

 なんか、声が小さい。


「最後のタックルは最高のタイミングでしたね。アレを待っていたのですか?」

「はぃ」

 うん、モジモジしてるな。

 人見知り炸裂してる。


「前半は苦戦を強いられたように見えましたが、ダメージは大丈夫ですか?」


「ダイジョビデス」

 あちゃぁ、カチコチだ。

 ダイジョビってなんだよ?


「しかし、タックル後の猛攻は爽快でした。ラッシュ中はどんなことを考えていましたか?」


「快感でした。血が拳に付く感覚や鼻を潰すときの感覚が好きです。あと、1番の快感は師匠に褒めてもらったときです。思わずお漏らししそうになります」

 今度は早口だ。

 内容も最悪だ。

 世界中に流れてるとは思えない内容だ。

 シャイナ節が炸裂している。

 黙らせなければ。


「はい、シャイナ・グランテ選手でしたー!スタジオにお返しします」

 アナウンサーも同じことを考えていたらしい。


 控え室に戻った。

「おめでとうございます」


「ありがとうございます」


「タオルどうぞ」

 俺がタオルを渡す


「治癒しましょうか?」

 アネモネが言う。


「お願いします。今までは自分でしてたので、とても、うれしいです」

 あ、いつものシャイナさんだ。


 治癒が終わった。

「着替えますよね?外へ出ておきますね。終わったら教えてください」


「はい。ありがとうございます」


 きっとシャワーも浴びるだろうからそれなりに時間がかかるかな?


「少しプラプラしよっか」


「うん」

 アネモネと散歩した。

 すると、すぐに教授に会った。


「どうでした?シャイナは強かったでしょう?」


「そうですね。あのタックルが不思議でした」


「あ、やっぱり?アタシもあそこが引っかかってるんだよね」


「ほう、気づきましたか」


「何か仕掛けがあるんですか?」


「ええ、今回は相手の魔力量的にも負けるはずがなかったのですが、あの勝ち方は私が指示しました」


「指示ですか?」

 アネモネが怪訝な顔をする。

 試合に水を刺された気分なのは俺も同じだ。


「ええ、あれはあなた達に見せるための演出です。これまで、あなたたちは全開法の練習に時間を費やしてきました。そこで、気づきませんでしたか?オーラを長時間纏うと、増え続けるということに」


「あぁ、たしかに、そんな感覚はありました。オーラを纏い続けている時間が長ければ長いほど、比例してオーラが増える感覚です」


「ええ、それが今の私の研究テーマなんですよ。今日の試合、シャイナは序盤こそ様々なオーラを使いましたが、中盤以降は火オーラのみ使うか、局所的に土オーラを使っていました。つまり、火オーラを貯めていたんですよ」


「え?そんなことできるんですか?アタシは学校で、使ったマナは消えると習いました。オーラに変換しても消費されるんじゃないんですか?」

 アネモネが質問した。

 俺も同意見だ。


「そうなんです。従来ではそう信じていました。しかし、全開法の導入で全開オーラを纏い続ける者が増えました。もちろん高度な魔力操作が必要なので、誰でもできるとは言いませんが。その中にいたんですよ。オーラを蓄積する者が。どうやら、発動条件は『2分程度の同一属性上級オーラを全開で纏うこと』のようです。しかも、試合のように極度の興奮状態でないと起こりません」


「それを見せるために、シャイナさんは序盤防戦だったわけですね」


「そうですね。膠着状態にする必要がありましたからね」


「そして、それは俺たちにもできる、と?」


「えぇ、できます。と、いうか、すでに出来ている時もあります。私の仮説では、出力の大きな魔力ほど、オーラは蓄積できます。あなたたち2人の特級の魔力があれば顕著なデータが取れるはずなんです」


「特級だと気づいていたんですね。バレるだろうから隠す気もなかったですが、わざわざ言うつもりもありませんでした」

 本音を言う。


「ええ、もちろんデータ収集のために魔力は測定してますからね。ついでに言えば、2人が神殺しであることも知っています」


「っ!!」

「!!」

 正直驚いた。

 魔力が増加するのも特異体質で終わらせるつもりだったのに、神殺しまで知っているとは。


「どうしてそれを?」


「おや?あなた達が知っている方が驚きです。何を隠そう、あなたを召喚転生させたのは私たちの研究チームなのですから」


「ということは、お父さんとお母さんをこらしたのはお前かぁぁー!」

 アネモネがオーラを全開にして飛びかかる。

 しかし、俺が止める。


「それをわざわざ言ったら殺されることはわかっていたでしょう?なのに言った。何か理由がありますね?」

 名探偵、俺。

 静まるアネモネ。


「はい。おっしゃる通りです。私はこれほど危険な術式であるということを当日聞かされました。そこで、チームを裏切り、アネモネさんを救出しました。そして、大学側にアネモネさんを保護してもらい、私はすぐに術式の実行を阻止しようと向かいました。しかし、その時には既に実行されていました。大規模なマナ暴走により、周囲の空間は消え去っていました。あなたのご両親もともに」


「そん、な…。」

 愕然とするアネモネ。


「なぜ、このタイミングで話したんだ?」


「もちろん、死にたくないからです。タイミングを間違えると、あなた達に殺されます。敵ではないことをしっかりアピールしてから伝えるつもりでした」


「なるほど」

 納得できる。


「その際、アルターイという名前を聞きましたが、ご存知ですか?」

 教授は顎に手を当てながら言った。


「なっ!」

 全て話そうか。

 その前に。


《アリエル?今大丈夫?》


《ダイジョビー!》


《今は真面目モードだからふざけないで!?って、さっきのインタビュー見てたの?》


《そうだよー、ってか、私もすぐそばにいるよー!アルターイの話になったんでしょ?》


《そうそう、話が早い!ちょっと姿見せてよ》


《いやー、そういう訳にはいかないんだよ。誰にでも姿を見せられる訳にはね。別に何話してもいいよ?私のことも》


《あ、そうなの?秘密なんだと思ってたけど、そうじゃないのね?》


《そうだね。問題があるとすれば、あんまり天使とか言ってるとイタい人だと思われるくらいかな?》


《オッケー、適当に話すわ。じゃあねー》


《はーい、ばいばーい》


「ちょっ、ライ、大丈夫?」


「あぁ、ごめんごめん、念話してた」


「あぁ」

アネモネは察したようだ。


「さて、教授、あんたが敵でないことはわかったけど、アルターイは敵なんだ。あんたがアルターイの側に着くなら潰す。どっちなんだ?」

 俺はちょっとカッコつけて言ってみた。

 アネモネがホケーっと見てる。


「アルターイの名前は術式発動当日にチラッと聞いただけで、敵でも味方でもないです。私は利用された人間です。だから、ライ君、アネモネさんとは、これからも楽しい実験ライフを送りたいです」


「素直にどうも。でも、俺たちもまだ子どもで、親達も心配してるから一回帰ります。約束の2年ですしね。アネモネはどうしたい?」


「そうね。私も帰ろうかな。今の話だと、今日の試合が卒業記念ってことでしょ?」


「さすがアネモネさん。おっしゃる通りです。魔闘法の極意は授けました。あとは、2人でも磨けるでしょう。もし、ご迷惑でなければ、定期的に来てください。私もあの寮に入ってシャイナと暮らすことにします。もちろん、お2人の部屋はそのままにしておきますね」

 あぁ、あの空き部屋に入るのかな?


「わかりました。お世話になったので、それくらいはお手伝いします。」


「ありがとう。それじゃあ、シャイナを迎えに行きましょうか」


「はい」「はい」


 シャイナはメイド服に着替えていた。

 あんなかっこいい試合の後に、メイド服だと締まらないな。

 まぁ、いいか。


「帰ろうっか!」


「はい。ご主人様」


 翌日、シャイナに事情を説明して、自宅へ帰ることにした。

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