着信
黒月
第1話
友人から聞いた話。
友人には高校一年の時、付き合っている彼氏がいた。相手は同じ高校の三年生で、ちょっとヤンキー系の人だったらしい。友人自身はおとなしめの人柄だったので意外に思ったが、「土地柄、ヤンキー多かったからね」と苦笑された。
彼氏と付き合いだして、1ヶ月ほどすると夏休みに入った。お金もなく、また、地元には高校生カップルが楽しめるような遊び場もなかった。そんな折、彼氏から地元で有名な心霊スポットへ肝試しに行こうと誘われた。
そこは自殺の名所として知られる森林公園だった。森林公園の奥にある一本松広場で首吊りをした者の霊が出る、というのが専らの噂だった。ただ、霊はともかくとしてその場所で自殺者が出たという話は新聞にも載ったことがあったのを友人は覚えているという。
小学校の遠足でも利用するような公園ではあるが、奥に行けば行く程木々が生い茂り、薄暗い雰囲気のある場所だったので本当は気乗りがしなかったが、他に特に予定もなかったので渋々ながら了承した。
夕方の6時に最寄りのバス停で待ちあわせた。暑さは少しやわらいだが、蒸し暑い。街灯があるとはいえ、やがて暗くなると思うと気が重くなる。
相手は待ち合わせ時間に30分以上遅れて来た。その時点で友人は、もう帰りたいな…とうんざりしていた。
「悪い悪い。昼寝してたら寝坊してさ、ついでに携帯まで置いて来ちまったよ」
彼氏は軽い調子で詫び、公園に行ってみようと促す。呆れる友人を尻目に、彼氏はノリノリなのが腹立たしい。
「なあ、本当に幽霊出たらどうする?死体あったらどうする?」
単にテンションが高いのか、恐怖心を隠そうと必死なのか、とにかく多弁だった。
しばらく連れ立って歩くと例の広場に到着した。一本松と、数個のベンチがあるのみの静かな場所だった。当然、首吊り死体も白装束の幽霊もいない。
今だったら動画を撮ったりするのだろうが、当時のガラケーにそんな機能はない。
ましてや彼氏は携帯を忘れてきている。
とりあえず、ベンチに腰掛け他愛ない雑談を始めた。が、こんな薄暗く何もない場所では落ち着かず、彼氏の話に相槌ばかりしていた。
帰りは何時になるかな、そもそも帰りのバスはあるかな、あんまり遅くなると家族もうるさいだろうな…と時間ばかりが気になる。
ともかく、携帯で時間を確認しようと鞄の中を漁ろうとしたその時。
ブーッ、ブーッ、ブーッ、ブーッ
友人のマナーモードにしてある携帯のバイブ音が響いた。
「誰?親か?」
彼氏が問いかける。鞄から慌てて携帯を取り出すと、発信者には彼の名前が表示されている。二人とも驚いて顔を見合わせた。
なおもバイブ音は止まらない。
「ねぇ、驚かすのやめてよ」
友人は彼氏が自分を怖がらせようと携帯を忘れたふりをして電話を掛けているのだと思ったという。
「え、俺今携帯忘れてきてんだけど」
「忘れたつもりで鞄の中に入ってるんじゃない?」
彼氏に鞄の中を確認してもらうが、やはり携帯はなかった。その間も携帯は鳴り続けている。この発信は一体誰が…。
気味が悪く、電話に出る気にはなれず意を決して電源を切ると、二人で逃げる様に森林公園を後にした。
後日、彼氏の携帯は自宅のリビングに置き忘れていたと言われた。また、彼の母の話によると置きっぱなしの携帯がひとりでに発信画面になっていたらしい。発信相手は友人の名前だった。
その後、友人は両親に頼み込んで携帯を変え、番号も変更した。彼氏とはその一件から何となく疎遠になり、自然消滅的に別れたと語った。
着信 黒月 @inuinu1113
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