第一章 世話焼き幼女と元勇者(9)
それは
相手を説得? そんな無駄な時間を浪費するのは真っ平御免なのだ。
絡んでくる奴は全員ぶん殴るという、
「お前、前世は勇者なんじゃないのかよ!? 子供殴るとか……正気か?」
と、疑われそうな理屈もへったくれもない反撃で潰していくだけの簡単なお仕事。
もちろん前もって体術スキルと格闘スキルをランク3まで上げたのは言うまでもない。両者の違いはよく分からないんだけどさ。「避け方と殴り方」みたいなイメージで取ってみた。
倫理観? 泥棒にかける慈悲など果たして必要なのだろうか? 子供だろうが大人だろうが悪いことをしたらそれなりの罰を与えるのに
また臨時収入(女神像の売上分)があろうがなかろうが、養護院の食事に変化などは一切なかったことを追記しておく。
てかさ、彫刻を始めてしばらく
もうコレ完全に「見てくれはアレすぎるけど、手先は器用だしその
たまにシーナちゃんと買い食いした帰りのお土産のおすそわけで、おやつの差し入れしてるのもあるかもしれないけど。
男? 自分で稼いで食え。世の中遊んでる人間が施してもらえるほど甘いものではないんだ。
でもさ、知らない女の子が近くに来ても、どこからともなくシーナちゃんが現れて追い散らしちゃうんだよなぁ……幼くとも女の子ってことなのかな……怖い怖い。
そしてシーナちゃん、冬になってからもなぜだか他の部屋より暖かい俺の部屋に来て一緒のベッドで寝てるんだけど……抱き枕扱いするのはそろそろ止めてほしいんだけどな?
ほら、全然成長はしてないけど一応女の子だからね?
最近は一緒にそこそこまともな食事(買い食い)にありつけてるので、細すぎた体に多少のお肉も付いてきて、柔らかくなってきたと言いますか何と言いますか……。
◇◇◇
そして冬が過ぎ、春が来て、夏になり、秋も終わり……いつの間にか月日も流れ去り俺が十四歳になった年明けの二月である。ざっと二年ちょい経ったわけだな。長かったのか短かったのか。
いや、特にセンチメンタルになるような出来事は皆無なんだけどさ。
一度俺の
言わずもがな、お金は時空庫にしまってるから部屋には何も置いてはいなかった。あいつらむっちゃゴミをひっくり返して探し回ったみたいで、騒がしくしすぎて見つかったらしい。
やはり馬鹿である。でもこれ、世間体がよろしくなかったんだよなぁ。
『子供の頭を踏みつけながら、口元に笑いを浮かべる仮面の少年』
あの時は流石のシーナちゃんもちょっと引きつった顔してたもん。
俺にも言い分はあるんだよ? だって何らかの罰を与えないと本当に追い出されそうだったんだよ? 仕方なく俺が泥をかぶってやったのだ!
本当だよ? 決してこれまでの鬱憤を晴らしたわけではないのだ。
そこそこの量の鼻血も出してたし、下手したら鼻の軟骨も折れてたかもしれないけど。
てかさ、二年以上も毎日毎日女神像を彫り続けるって一日五体だとしても延べ三千体以上彫ってるよね? そんなに大量の需要があるのか? って思うんだけど……案外あるらしい。
最初のうちは北都内の信者さんが買ってくれてたみたいなんだけど、そのうち行商の人なんかも買っていくようになり、どちらかといえば常時品不足なくらいだったもん。
段々と器用さも上がっていったから作品の質もある程度は抑えて作っていたにもかかわらず上がってたしさ。
俺が受け取る工賃が大銅貨三枚。教会の土産物コーナーでの売値が最初は銀貨三枚。最近は大銀貨一枚。教会側は作品を受け取って並べるだけの簡単なお仕事で結構な
ていうかさ、この国の通貨の単位。日本円と比べると少しだけややこしいんだよなぁ。
暫定的に銅貨一枚四十円と仮定するとして……なぜ五十円ではなく四十円なんて半端な額なのか? 計算がしやすいからだよ、言わせんな恥ずかしい。日本円換算なんて概念的なモノなんだからあまり深く気にしてはいけないのだ。
・銅貨 ……一アズ (四十円)
・大銅貨……十アズ (四百円) ※大銅貨が五枚で銀貨一枚
・銀貨 ……一デナリ (二千円)
・大銀貨……五デナリ (一万円) ※大銀貨が五枚で金貨一枚
・金貨 ……一アレウス(五万円)
・大金貨……十アレウス(五十万円)
よほどの高額でもなければ、基本デナリ銀貨(大銀貨含む)で取引されてる……らしい。
そしてアズ、デナリ、アレウスという正式名称は今後出てくることは……おそらくない。
だって普通に「それなら銅貨~枚ね!」で通じるんだもん!
てかさ、切り上がるのが五枚か十枚かで揃えてくれと小一時間。
いや、そんなことはどうでもいいんだ。少なくとも三馬鹿のやらかしなんていつものことで、振り返るだけ無駄な事柄だから。そして教会が稼いだからといって俺達には何の還元もされないしね?
そう、ハリスくんは前向きな心だけが取り柄なのだから、過去を振り返ることなんてしないのだ。能天気万歳!
てかアレだよね? 十一歳でこっちに来てから足掛け三年柿八年。柿は無関係だな。
昔、俺が日本に居る時に読んでたような物語、いわゆる『内政チート物』とかだと俺の境遇、無役の準男爵家の三男でもそろそろ子爵くらいには叙爵して、伯爵家の御令嬢とキャッキャウフフしてるレベルの年月だよね? むしろモノローグが入って老後まで飛んでるかもしれない。
なのに現実だと毎日毎日同じ作業の繰り返し、鉄板で焼かれてないだけまだマシ、ほんの少し成長してれば御の字、むしろ状況が悪化してないことを神に感謝しなければいけないという。
現実に夢がなさすぎて涙が出そうなんだけど……。
でもほら、俺にはやりなおしスキルがあるから! 頑張った、今日までもの凄く頑張ったよ!
『死なない』をスローガンにステイタスも上げた! スキルも上げた! そしてレベルも上げた!
その結果がこちら。
レベル……10
HP ……30
MP ……30
体格 ……30
筋力 ……30
知能 ……30
魔術 ……30
器用さ……30
敏捷さ……30
まずステイタスなんだけど、そこそこ頭のおかしい数値になってた。
30ってステイタスだけでも人類通り越してるからね? ミノタウルスすら子ども扱い。俺が勇者してた時ですら基礎値が30平均とかなかったもん。
その上さらにレベルアップ
一騎当千は無理でも一騎当百、この国の兵隊さんなら素手でもいけるのではないだろうか?
いや、慢心はよくないな。そう、この程度で油断してはいけない。
でも観察眼で調べた
続きましてはスキル。
属性魔法
光魔法ランク5、闇魔法ランク5、火魔法ランク5、水魔法ランク5、地魔法ランク5、風魔法ランク5、氷魔法ランク5
戦闘スキル
体術ランク5、格闘術ランク5
補助魔法
合成魔法ランク5、植物魔法ランク5、時空魔法ランク5、時空庫ランク5、硬化ランク5、観察眼ランク5、鑑定眼ランク5、魔眼ランク5
生産スキル
設計ランク5、製造ランク5、錬金術ランク5、農作業ランク5、付与ランク5
その他
毒耐性ランク5
そしてポイントの残りが 818点
818点ってもの凄く多いように見えるけど……それほどでもなかったりする。
欲しいスキルが見つかったらすぐに取れるようにしてるってのもあるけど、10から11のレベルアップには足りないし、ステイタスを上げるにもまんべんなく振り分けようとすると、たいして増やせないという……。
レベル10から11にするのに1000点超えるからね? 必要ポイント。
まぁ残しておかなくても欲しいスキルができたら、その時に使ってないスキルのランクを下げればいいだけなんだけどさ。一度手に入れたスキルを下げるのはなんとなく寂しいじゃないですか? これだけお世話になっておきながらやりなおしを否定するような物言いだなこれ。
スキルのランクは全体的に5まで上げた。だってランク5まではポイント的にお安いからお得感半端ないもん。言い換えると6以降は高すぎてやってられん。
増えたスキルは『観察眼』に『鑑定眼』に『魔眼』。
全部同系統のスキル、むしろどう違うんだソレって感じだな。
ほら、他の人のステイタス、どうしても見ておきたかったからさ。
確認しておかないと自分がどの程度『弱い』のかが分からなかったからね?
敵を知り己を知ればって昔の人も言ってたし、情報は大いなる力なのだ。
そしてあちらこちらで人間観察した結果がどうだったかといえば「この国の兵隊さん及び探索者はそれほど強くない」である。
ステイタスで『10』を超える人はまったく居なかったし、レベルも『5』あれば高い方、最高でも『8』の人が探索者に一人だけだった。
……いや、大丈夫なのかこの国? むしろこのレベルの兵士しかいない国が滅んでいないということは世界的にもこんなものなのだろうか?
結構長い間戦争も起きてないようだしそんなもの……なのかな?
最初の異世界だと普通にレベル20を超えてる冒険者もゴロゴロいたからね? 戦争略奪、村や町が滅ぶのも日常茶飯事。完全に世紀末じゃねぇかその世界……。
ちなみにステイタスが最初から『10』でレベルが『8』の人間の補正込みステイタスは『44』であるが、途中でステイタスが上がったなら補正値の効率は最初から数値が高かった人間より下がってしまう。
うん、仮に同レベルの人間が居たとしても現状のステイタス『30(195)』ならそうそう負けようがないな。
ああ、話は戻るけどこれらの
ならなぜ取ったのかといえば……もちろん魔眼の習得に必要なルートスキルだったから。
品物を鑑定するそのものズバリの鑑定眼も魔眼のルートスキルではあるが、こちらは用途が違うので役に立つ。品物の品質などが分かるから。
逆に魔眼(及び観察眼)で分かるのは生き物のステイタス(植物は鑑定眼スキルの方だし他も要検証ではあるが)だな。
魔眼ランク5、見つめた人物の名前、年齢、出身地、レベル、ステイタス、スキル、こちらに対する敵意まで見ることができる凄いやつなのだ。
てか魔眼、見つめた相手を魅了したり石化させたりってイメージが強いんだけど、今のところ特にそういった力はなさそうで少しだけ残念である。
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