第8話 終わるのか、始まるのか

 俺は絶望の淵にいた。

 毎日死ぬことだけを考えている。

 俺が死ぬとアリエルが悲しむことは山下修の家族を見てわかった。

 しかし、俺は死にたい。

 

 山下修の転生体である神殺しに殺されて死にたい。


 この考えだけが1日中頭の中を支配していた。

 俺は宇宙の運営を失敗してしまった。

 ほかの天使と違うことをすれば俺が認めてもらえると信じていた。

 しかし、結果は違った。

 戦争には勝った。

 結果をだしたが、それでも、アリエルは俺の事を認めてくれなかった。

 

 この事実が重くのしかかる。

 山下修の家族の崩壊も俺の責任だ。

 死にたい人間なら殺してあげた方が幸せなんだと思っていた。

 いや、実際、山下修は幸せなのかもしれない。

 数年前にアリエルが地球まで来てくれた時にはそう聞いていた。

 

 でも、それは、魔力による、うつの抑制があるからだろう。

 ヒトという生き物はストレスに弱い。

 それを全く考慮せずに、魔法を取り除くことで科学が発展することしか見ていなかった。

 また、高度な科学の発展も数値での人間による人間の評価、管理システムを作ってしまった。

 管理された人間の多くは不幸になる。

 また、管理した側の人間も不幸になる。

 

 俺は不幸をたくさんこの地球に生み出してしまった。

 これらすべてを背負って死んでいきたい。

 かなうことなら、神に宇宙ごとなかったことにしてもらいたい。

 すべて俺が悪いんだ。

 生まれてきてごめんなんさい。

 消えたい。

 

「ガストンさん。面会の方が来られましたよ」


 看護師さんが教えてくれた。

 おそらく、アリエルだ。

 俺はこの地球の元山下修の家の近くの病院で入院している。

 かれこれ、自らの魔力を消して10年以上がたつだろうか。

 アリエルの言う通り、完全にうつ病になってしまった。

 これが山下修の世界か。

 苦痛しかない。


「わかりました。今、いきます」


 俺は重い腰を上げて歩き出す。

 面会室へ入り、顔を上げる。

 すると、アリエル以外に3人のヒトがいた。

 そう、人間ではない、ヒトだ。

 魔力を感じる。

 それも、強大な。

 おそらく、こいつらが神殺しだろう。

 すると、年齢的にも、この少年が……。


「山下修か……」


「そうです。元山下修です。殺してくれたのはあなたですね。ありがとうございました。おかげさまで、このような素晴らしいパートナーに出会えました。でも、俺の元家族は引っ越したんですね」


「ああ、すまなかった。守ることはできなかった」


「守るですって?アタシの家族はあんたのくだらない計画のせいで死んだのよ!?ぶっ殺してやる」


 山下修のパートナーと言われた金髪の少女が言った。

 ああ、あの特級術師の家族かな?


「ああ、殺してくれ。俺はもう死にたいんだ。神殺しであるお前たちならできるだろう」


「アルターイ。ごめんなさい。私が神様に会わせたがために」


「いや、いいんだ。アリエル。どうころんでもお前と出会った俺の運命は変わらない。それは受け入れているんだ。でも、もう、これ以上生きたくない」


「ん~、わからないけど、その神が一番悪くない~?」

 もう1人のパートナーである銀髪の少女も話した。


「俺もそう思うんだ。そして、地球に魔力を今から導入することは混乱が起こるから、やめといた方がいいよね?」


「そうね。やめたようがいいよ」

 アリエルが言った。


「それじゃ、アルターイをどうするかは神様をぶん殴ってから決めよう」

 神殺しの少年が言った。


「ああ、好きにしてくれ。でも、その少女は俺を殺したいんだろ? 先に殺してくれないか?」


「それはダメ。私がイヤだから」

 アリエルは強い口調で言う。


「アネモネも彼の様子を見て反省というか、後悔のような感情は感じたでしょ? 殺すのはちょっと待ってよ」


「うーん。ライの言うことはわかるんだけど、感情が追いつかない」


「わかった。それじゃ、アネモネはここに残るといいよ。それで、神様をぶん殴るの待っててよ。それが終わったらすぐに来るから。それまでにどうしても殺したいなら殺したらいいんじゃない? アリエルも我慢してよ? ちなみに、アネモネと敵対するなら、アリエルは俺の敵になるからね」


「わかったよ」

 アリエルはしぶしぶ言った。


「それでいいけど、神様ぶん殴るのはアタシも行く。アタシも殴りたい」

 アネモネと呼ばれた金髪の少女は答えた。


「まあ、俺は殺してほしい。それだけは伝えておこう」


 その場は解散となった。


 俺は死刑宣告を受けた囚人のような生活を送ることになる。

 いや、今の俺にとって死は救いである。

 きたる日が待ち遠しい。

 早く死にたい。

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