第5話 戦争とは泥沼化するもの~まずはルールも作らない

「さて、ここで問題だ。地球にある総戦力と第3宇宙の惑星ボロンゴの総戦力である魔術師軍団とを戦争させるには、どうすればいいだろうか?」


アルターイは、神の間で、自分が作った宇宙の戦争について説明していた。

神によって招集された天使たちは神の間に集まっていた。

その中にはもちろんアリエルの姿もある。

アリエルの方を見るが……


「ふんっ」

 

冷たい態度を取られる。

正直泣きそうだ。

俺はアリエルが大好きだ。

幸せな新婚の時期もあった。

しかし、幸せは長くは続かなかった。

やはり、天使になってしまったことへの気持ちが整理できなかったからだ。

半ば無理やりやらされている状態にある。

だからこそ、この戦争は始まったし、だからこそ、反骨心で魔術のない惑星を作った。

他にも魔術の使える惑星はあるが、放置している。

滅びていようがどうでもいい。

俺はどうやらこの戦争を通してアリエルを見返したいのかもしれない。

なんて小さなことで悩んでいるのかと気づかされた。

しかし、ここまで来てしまえば引き下がれない。

他の天使たちになめられるのはイヤだ。


ガブエラは科学については無知である。

アルターイに言われて初めて自分たちのしようとしていることの大きさを感じた。


地球には科学を使う人間が住んでいる。

どれほどのものか知らないが、魔術にかなうわけがないと考えている。


アルターイは、人間の進化や文化に興味を持ち、彼らに様々な試練や恩恵を与えてきた。

アルターイは、それを見てほしいので、第3宇宙の人間を拉致していた。

しかし、他の天使からは批判が相次いだ。彼らは、アルターイの行為が無責任だと言った。

そこで、アルターイは仕方なく、戦争のルールを作ることにした。

全戦力の衝突となると被害が大きすぎるからだ。

自分たちだけで修正できなくなる。

神に頼るのはイヤだった。

それは基本的には全員同じ意見だった。

ただ、アルターイだけは意味が違い、神に借りを作りたくないという理由だった。

他の天使は神を崇拝しているので、手を煩わせたくなかったのだ。

だから、ルールを作ることにした。

そして、神が作った戦場がある。

そこには巨大モニターで観戦できるような会議室があった。

それを見せながら、ガブエラに説明する。


「まず、戦争の規模を縮小する。地球とボロンゴの総戦力ではなく、10人対10人で戦わせる。それぞれの代表者を選んでこい」


「それだけでは不公平ではありませんか?地球とボロンゴの戦力差は歴然としています。地球の人間は魔術が使えないのでしょう?」


ガブエラは激情に駆られていない限り普段はおとなしい性格をしている。


「そうだな。だが、科学がある。科学は魔術に負けていないと俺が断言する」


「それでも不公平ではありませんか?科学と魔法の相性や特性は異なります」


「それでは、最後に勝敗条件を設定しよう。死亡や降伏ではなく、相手の旗を奪うことで勝利とする。旗はそれぞれの拠点に置く」


「それならば公平かもしれませんが……」


「では決まりだ。これで戦争のルール作りは終わりでいいな?」


アルターイは満足そうにうなずいた。

彼は、このルールであれば面白い戦闘となることは間違いないと考えている。

アリエルも自分のことを見直してくれる、と。

さらには、自分の育ててきた地球を喧伝することにも使える。


しかし、彼が思っていたよりも、地球とボロンゴの代表者たち――ヒトと人間――は賢かった。

彼らは、戦争のルールを利用して、自分たちの有利な戦略を練った。

地球の代表者は、科学の専門家たちだった。

彼らは、魔法に対抗するために、高性能な武器や防具を調達した。

また、旗を守るために、拠点には監視カメラやセンサー、トラップなどを仕掛けた。

さらに、旗を奪うために、ステルス機能やハッキング技術などを使った。

これらの総指揮官としてブルックに全てを任せた。

それ以外は米軍の精鋭9名を選出した。


ボロンゴの代表者は、魔術師軍団の精鋭だった。

彼らは、科学に対抗するために、強力な術式を用意した。

また、旗を守るために、拠点には結界や護符、召喚獣などを配置した。さらに、旗を奪うために、変身や幻術、テレポートなどを駆使した。


こうして、地球とボロンゴの戦争は始まった。

しかし、予想外のことが起こった。

科学は正確で効率的だが、複雑で壊れやすい。

魔法は自由で多彩だが、不安定で消耗する。

どちらも相手の攻撃を防ぐこともできれば、相手の防御を突破することもできる。

しかし、その代償は大きかった。

復活できるとわかっていても進んで死地に向かうものなどいなかった。

それも、相手の技術が不明なだけに、予想できない恐怖があった。

地球の代表者は、武器や防具が故障することに悩まされた。

ボロンゴの代表者は、魔術の効果が薄れたり、自爆攻撃になったりすることに苦しんだ。両者ともに旗を奪うことはできずにいた。


「これではいつまで経っても終わらない……」


思った以上に力が拮抗していたのだ。

 両社ともに、自軍が圧勝すると考えていたのだが、そうはいかなかった。


「そうですね……」


アルターイは退屈そうに神の間で戦闘の様子を見ていた。

他の天使も同じように飽きていた。

彼らは期待していたスペクタクルな戦闘ではなく、地味で長引く攻防戦を見せられていた。


「アルターイさん、これでは面白くありませんよ」


 第5宇宙のサターヌが言った。


「そうだな……」


アルターイは素直に認めた。

彼は自分の作った戦争のルールが失敗だったと思った。

彼は何かしらの変化を起こそうと考えた。


「では……」


アルターイは何か言おうとしたが、その前に、突然の衝撃が神の間を揺らした。


「な、なに?」


 サターヌが驚いている。


「なにが起こった?」


 ベルゼブも同様に驚いていた。


天使たちは驚いて周りを見回した。

会議室の壁には、地球とボロンゴの戦闘の映像が映し出されていた。

その映像には、信じられない光景が映っていた。

地球とボロンゴの拠点が、同時に爆発していた。


「どういうことだ?」


 アルターイは驚きを声にした。


「どちらも旗を奪われたの?」


 アリエルも驚いているが、アルターイとは目を合わせてくれない。


天使たちは呆然とした。

彼らは、地球とボロンゴの戦闘が長引くことは予想していたが、両者が同時に敗北することは考えもしなかった。

彼らは、どうしてそんなことが起こったのか理解できなかった。

アルターイも同じだった。

彼は自分の作った戦争のルールが破られたと思った。

彼は何かしらの答えを探そうと考えた。


「それでは……」


アルターイは何か言おうとしたが、その前に、突然の声が会議室に響いた。


「これではダメだ。やり直そう」


 神の声だった。

 こんなときだけ偉そうにするオッサン。

 ホントむかつくぜ。


「じゃあ、どうするってんだよ?」


 こんな言葉遣いができるのはアルターイだけだ


「しっかり準備するんだな。今のキミたちは感情のままに動いているだけだ。それでは私は楽しめない」


「お前のためにやってるんじゃないんだよ」


「じゃあ、アリエルのためかい?」


「心を読むんじゃねー!」


 アルターイは下を向いて赤くなる。


「そんなやり方ではアリエルは振り向いてくれないよ?キミの主張は魔術が無くてもヒトは幸せになれることを証明したいのではないのかい?」


「そうだよ。いくら見た目がだらしないオッサンでも神だから全てお見通しだろ?」


「ああ、そうだね。でもね、アルターイ」


 神の口調が改まった言い方に変わる。


「キミにはみんなが期待しているんだ」


「なんで俺なんかに?お前の言うことをなんでも聞く、そいつらの方が都合いいだろ?」


「いいや、キミにしかできないんだ。1人の天使が1つの宇宙を運営する方法はもうかなりの長い時間で進めてきたことなんだけど、私の生み出した天使では、魔術を取り除くことはできなかったんだよ」


 神は子どもを諭すように言う。


「そんなこと無理やりさせたら、そこらの天使がするだろ?何言ってんだ?」


「いや、できなかったんだよ。私の生み出した天使は万能だ。その代わり、不合理な行動には制限がかかるんだ。どの宇宙のどの惑星も幸せになる確率を上げることだけを考えて行動している。だから、ヒトから魔術を取り上げることはできなかったんだよ」


「それを、俺は非情にも実行したのか」


「まぁ、結果だけ見ればそうなるね。でも、そこには無限の可能性があるんだよ。それこそ、私でも予想がつかないほどのね。だから、この争いは遅かれ早かれ起こるとわかっていた。他の天使からしたら嫉妬の対象になるだろうからね」


「じゃあ、どうすればいいんだよ?」


「ペナルティがないからダメなのさ。今のところ、相手の惑星のヒトを拉致する程度だろ?違うんだよ。負ければ惑星をドッカーンってね」


「神様、それでは、ヒトが不幸になるのではないでしょうか?」


 ガブエラが質問する。


「気づかないうちに死ぬんだ、不幸も幸せもないよ。不幸になるのは、その宇宙の担当天使だけだ」


「わかったよ。かかってこいよ。全員ぶっ倒せばいいんだな?」


「いいねぇ。これだからアルターイはいいよ!」


「お前に褒められてもうれしくねえよ。でも、第10宇宙とは戦わないからな」


「そんなこと言わずに戦いなよ。アリエルに嫌われたくないの?」


 神がからかってくる。

 うっとうしい。


「戦う理由がないからだよ」


「戦ってもいいわよ?」


 アリエルは乗り気らしい。


「わかったよ。でも、最後だ」


 この言葉を最後にこの場は解散となった。

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