【書籍試し読み増量版】赤ん坊の異世界ハイハイ奮闘録1/そえだ信
MFブックス
プロローグ
赤ん坊は、立ち上がった!
「わう、わ、わ──」
しかし現状、
現実にはまだ『はいはい』しかできない身。持ち上がりかけたお尻は
しかも思いがけず下の柔らかみは即座に生き生きと弾み、細く力弱い手で両
「わあ!」と耳元近く、澄んだ声にいつになく力が込められた。
「見た見た? 今ちょっとだけ、立とうとしたの」
「すごい、すごいです」
「ご立派です」
──タイミングが、悪かった。
行動するなら、一人のときを選ぶべきだった。
忘れていたけど、日に一度の習慣、母の抱っこの最中だったのだ。
あまりに心地よく、ずっとこの感触に身を委ねていたいのだけど。
昼間領民の現状を聞き、母の病状を
──情けね。
現実には、立とうにも立ちようがない。
実際の起立を別にしても、何ができるとも思えない、ただただ非力の身。
誰かに抱かれなければ、移動さえままならない。
何しろまだ、僕がこの意識に
自力でできることは、情けないほどに限られている。
しかしそれなのに、残された
──思い切るしか、ないか。
女性たちの喜声を近く遠く聞きながら、
まだ僕は
心ともなく、思考はその二十日程度前の始まりに向いていく。
その始まりは、思い返しても突然だった。
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