【書籍試し読み増量版】食料生成スキルを手に入れたので、異世界で商会を立ち上げようと思います 1/slkn

MFブックス

プロローグ

「次はかねさき、次は金崎、お出口は右側です」

 スマホをいじっていた俺は、電車の車内アナウンスを聞き、座席から立ち上がると、電灯に照らされた夜のホームへと降り立った。

 俺こととうりゅうは、都内の中小企業に勤めるごく普通のサラリーマンだ。

 年収は人様に言えるほどの額ではないが、一人暮らしをして、毎月ほんの少し貯金ができるぐらいにはもらっている。

 一人暮らしを始めて七年、すっかり今の生活には慣れた。

 夢はある程度お金がまったら、会社を辞めて起業することだ。分野としては飲食系を中心に、お客さんが笑顔になれるような仕事を多方面にしたいなと思っている。

 とはいえ、まだ漠然とした目標だし特に準備をしているわけではない。何かきっかけがなければこのままずっとサラリーマンかもしれないな。


「よし、夕飯を食べに行こう」

 最近のブームは近所のお店巡りだ。いろいろな料理を食べることができるし、将来の参考にもなる。一石二鳥だ。

 駅の改札を抜けると家とは反対の出口を出て、「金崎公園商店街」を歩き始める。ここは昔から続く商店街で、小さな飲食店がたくさんあった。

「うーん、いろいろあって悩むな」

 一昨日食べたオシャレなハンバーガーショップもよかったし、昨日のカレー店もまた行きたい。でも新しいところにもチャレンジしたいし。

 商店街を進みながらそんなことを考える。何軒か入りたい店はあったが、決めきることができない。

 あの店この店と悩んでいる間にとうとう商店街の終わりまで来てしまった。

 「公園商店街」とあるように、商店街の突き当たりは大きな公園になっている。

 この先に店はないので、先ほど考えた候補の一つにでも行こうと体の向きを変えたそのとき、公園の道に白い光が見えた。

「何だあれ?」

 よく目を凝らしてみると屋台が一台、道の脇にあった。白いれんで、文字は書いてない。

 この公園には何度も来たことがあるけど、あんなものを見るのは初めてだ。

 よし、今日はあそこで食べよう。

 そう決めると俺は公園へと足を踏み入れた。

 屋台の目の前まで来ると俺は一度深呼吸をする。

 屋台で食べるのは生まれて初めてだから少し緊張するな。

「ごめんくださ……」

 意を決して暖簾をくぐった俺だったが、その言葉を途中で飲み込んだ。

 なぜなら目の前の屋台には人も食べ物も何もなかったのだ。ただ、空の屋台がそこにあるだけ。

 開店作業の途中だったのだろうか。

 でも人がいないのは変だな。

 とはいえ仕方ないから、諦めて別の店へ行こうと暖簾の外に出ると……、

「…………え?」

 目の前にはうっそうと茂る森。見上げると澄み切った青空が見えた。

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