ね、ごはん、たべよ?

織羽朔久

一品目 ――やけっぱちマヨご飯と最高のおにぎり――

 本当に、もうヤケクソだった。

 全部どうでも良くなって、目につくもの全てにイライラしていた。


 きっかけ?模試の結果が悪かった。以上!

 そんなことでこの捨て鉢っぷりなのかって?

 えーえー。そうですよ。それが何か?悪い?


 ずーっとってほどではないが、割と長いこと行きたいと思っている大学があって、今は3年生の夏。つまり本番まであと半年もない。

 それなのに!そ・れ・な・の・に、今回の結果はE判定!ありがとうございました!


 夏で伸びる。結果は秋から?

 はぁ?んなわけあるか!

 まあ、あるはあるけどそれは部活をやってた民の話だろう。

 俺は、学校でもカリカリ家でもガリガリ、そうして今まで2年ちょっと過ごしてきた民だ。今からの伸び代は少ない。

 そんなの自分が一番わかっている。

 だからこんなにやけっぱちなのだ。


 今日だって、朝起きてからすっかり辺りも暗くなった今の今までずっと机に向かっていた。家族にはご飯くらい食べろって言われたけど、昨日の昼過ぎ結果を見てからはとにかくむしゃくしゃしてそんな時間ももったいないって机に向かい続けた。

 だから、1日半は何も食べていない。

 体調管理のためにはちゃんと食べたほうがいいのも頭ではわかってる。

 それでも今は、とにかく何か問題を解いていないと落ち着かない。


 学校では絶対誰より早くから受験に向けて勉強してきたはずなのに、点数が上がったと喜ぶクラスメイトの中置いてけぼりな気がしてムカつく。

 変な意地を張って何も食べずにいる自分にもイライラする。

 わかってる。自分には厳しいであろう目標を掲げていることなんて誰よりも自分がわかってる。


 荒ぶる攻撃的な自分と、それをどこか冷静に見つめる自分とがいて、どこにもぶつけようがないぐちゃぐちゃな気持ちをひたすら持て余しているのだ。


 ぐー


 情けなくお腹が鳴いた。

 泣きたいのは俺の方だ馬鹿。


 怒りでいっぱいだったはずの腹が鳴ったことで空腹を自覚すると、途端に何か口に入れたくてたまらなくなるんだから人間単純だ。


「なんかあったっけ?」


 階段を降りて、真っ暗なキッチンを覗く。

 お、ジャーにご飯がある。

 もうお湯を沸かしたり、何かをあっためたりするのも面倒だ。

 茶碗にご飯を盛って、冷蔵庫から取り出したマヨネーズをかける。行儀が悪いけど、その場でひと口。


 久しぶりに何かを噛んで、飲み込んで。そうしたら何かどこかに縛り付けられていた鎖が解けたみたいに、もう止まらなかった。

 とにかく夢中でかき込んで、あっという間に茶碗の底まで見通しバッチリだ。


 空腹が少し落ち着いたからか、昨日から頭にかかっていたモヤが晴れて、突然視界が開けた気がする。


 結局のところ、イライラしたところで突然頭が良くなるわけでもないし、地道に今までと同じことを続けていくしかないのだ。


 さて景気づけにもう一杯。その前に、流石にこのまま暗闇で食事もいかがなものかと思って電気をつけた。すると、机の上に見慣れたまん丸のおにぎりとメモが一枚。


 お腹空いたら食べな。食っての頑丈!

 あなたがもう十分がんばっていることを知っているから、これ以上がんばれなんて言いません。あなたがどこに行ったって、何をしたって、ずっと味方でいるからね。








 ああ俺、一人じゃないんだ。


 ストンと胸のつかえが取れた。そしたら視界がぼやけてきて、メモも滲んで見えないし、おにぎりはグニャグニャに見える。

 思いっきり齧り付いたおにぎりはいつもよりちょっとしょっぱくて、冷めているはずなのに不思議と温かい気がして、人生で一番美味しかった。

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