ある日の夢

九坂

第1話

私は船の甲板の手すりに掴まって人間から食べかけのクッキーを受け取った

手すりから足を離し2度の羽ばたきの後、腕を目一杯広げると

私の羽は上昇気流を捕まえて体は一気に上空へ運ばれる


眼下の世界がみるみる小さくなる


自己は融解し一羽のカモメに姿を変えていた

今私はカモメの目でカモメの耳でカモメの脳で全てを感じ取っている


右に体を傾けて旋回する

海面スレスレを飛ぶと魚の群れが銀色の体を翻して慌てふためく

今は食事の気分ではなかったが、その様子を見るのはおもしろかった


やがて私の体はほつれ始める

解けた糸が再び自己の形に織り直される

私はまどろみから覚醒した




私の体は重く、もはや飛ぶことはない

それでも空を切るあの感覚は自己を織りなす糸の1本となって私の中に確かに組み込まれていた

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ある日の夢 九坂 @9saka

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