瑠璃色の夜明け
色葉みと
瑠璃色の夜明け
俺たちは親を知らない。
知っているのはお互いの存在だけ。
気づいたらここにいて、ただ、今を過ごしている。
「ねえ、弟。僕たちは何をしているんだろうね」
「それは俺も知りたいよ」
兄の言葉に、俺は皮肉を込めて言い返した。
ここで過ごし始めてから何年経っただろうか。
何年、何十年、何百年と経っているのかもしれない。
あの小さな苗が、てっぺんが見えないほどの大きな木に成長するぐらい、永い時間を過ごしたのは確かだ。
永い時間の中で気づいたことがある。俺たちは今を生きる者ではない。今を過ごす者だ。
ふと思い立って、眠ってみたり、食事をしてみたりしたこともある。だが、俺たちには必要ではないものだった。
「ねえ、弟。今を生きる者はいつかここから離れていくね」
「……そうだね」
兄はどこか遠くを見て言った。
ここは今を生きる者の姿がよく見える。
永い時間、その者たちの姿を見ていると、疑問に思うことが出てくる。
どうしてここから離れていくのだろう。ここは寝床や食事にも困らない。自分を害する者もいない。気温も一定だ。それなのにどうして離れていくのだろう。
何のために生きるのだろう。生きていればいずれ死ぬ。死ぬという恐怖に追われなければならない。生きなければその恐怖に追われることもない。ならば死の恐怖に追われることを受け入れて、その上で生きる理由とは何なのだろう。
きっと俺たちは今を過ごす者だからわからない。
「ねえ、弟。僕たちもここから離れてみない?」
「……なぜ?」
「ここから離れてみたら、今を生きる者の気持ちがわかるかもしれないよ」
それもそうか、と思った。
俺は頷いた。
「では、行こう」
兄の合図で俺たちは飛び立った。
ここから離れたのだ。
俺たちはあてもなく、ただ、真っ直ぐ飛んだ。
ここの外は様々な色を持っていた。
山は季節によって色を変えた。春は桜色、夏は新緑色、秋は紅葉色、冬は雪色。とても美しいと感じた。
海は天気によって色を変えた。晴れの日は清々しい空を映した青、雨の日は悲しみを秘めた深い青、曇りの日は落ち着きのないくすんだ青、雪の日はすべてを受け入れるような静かな青。同じ青かもしれないが、捉え方ひとつでこんなにも変わる。
夜明けは日によって色を変えた。ある日は朝をはこぶ
様々なもの、様々な色を見ていくうちに、今を生きる者の気持ちが少しわかったような気がした。
「なあ、兄」
「何かな?」
「今を生きる者は、これを自分の眼で見たかったのかな」
「そうかもしれないね」
俺の眼には瑠璃色の夜明けが映っていた。
瑠璃色の夜明け 色葉みと @mitohano
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます