第16話 お説教
「ギルドの幹部であるあなたが問題を起こしてどうするんですか!」
「いや、うちは……」
「言い訳無用! 久しぶりに外に出てきたと思ったらこれですか!」
ギルドの一室に連れてこられた俺たちは、警邏らしき男の人に注意を受けていた。
俺と理紗は口頭で軽い注意を受けただけだが、ギルドの関係者である鏡花は激しい叱咤を受けている。
地面に膝をついてうな垂れる鏡花は言い訳すら聞いてもらえていない。
お説教が終わった時にはガックリと肩を落として落ち込んでいた。
「……うちはギルドの幹部だぞ。偉いんだぞ」
自尊心を保つためかぶつぶつと言葉を重ねる鏡花を見て理紗がため息を吐く。
「その台詞は警備員がいる時に言ってください。何でいなくなった時に言うんですか?」
「やだよ。そんなのカッコ悪いじゃん」
鏡花は立ち上がって背筋を伸ばすと、思い出したかのようにこちらを向いた。
「レオはこっちに来たばかりだし、今日の宿は決めてないだろ? うちの部屋に泊めてやるよ」
「──ちょっと! 何言ってるんですか! そんなの駄目に決まっているでしょ!」
「駄目なわけあるもんか。大人の男と女だぞ? ……二人っきりの部屋。間違いが起こらないはずもなく……うへっ」
「宿はいらない。ダンジョンに泊まるからな」
手には探索者登録を示す紙切れ一つ。中には俺の顔をした精巧な絵がついており、この世界での身分証としても使えるようだ。
これでダンジョンに入れる。そのつもりだったが俺の言葉はバッサリと鏡花に切り捨てられた。
「ああ。それは無理だぞ」
「どうしてだ? これがあれば探索者になれるんじゃなかったのか?」
「ダンジョンに潜るためにはもう一つ必要なものがある。説明したはずだけど?」
ダンジョンに必要なもの。魔物を倒せる力は……持ってる。探索者の登録も終わらせた。
残りは……。
「ダンジョンカメラ?」
「正解〜?」
鏡花はそれを聞いてニンマリと笑みを浮かべる。
そういえば理紗も言っていたな。地上に戻ってくる気はないため、そのまま無視して突っ切ってもいいが、警邏の人間を送られても面倒だ。
好き好んで人殺しはしたくない。
「ダンジョンカメラはどこに行けば手に入るんだ?」
「本来ならここの受付でも手続き出来るけど、今日はもう無理だね」
「在庫がないんですか?」
鏡花の言葉を聞いて理紗が不思議そうな顔を浮かべて質問する。
「違う、違う。今の時間見てよ」
鏡花が指差した先には時計が十七時を示している。それに何の問題があるのだろうか?
いち早く気がついた理紗が声を上げる。
「受付時間過ぎてる! まさか、鏡花さん……」
「もちろん。何のために怒られる時間引き延ばしたと思ってんの」
鏡花は自慢気に豊満な胸を張る。そして理紗と二人で手を合わせて喜び合っていた。
状況が飲み込めていない俺に鏡花が説明する。
「ダンジョンカメラの受付は十七時までで終了。それを超えたら明日まで手続き出来ないよ」
「そうか、なら……」
「ちなみに! ダンジョンカメラを借りるのにに最低五万はかかるのよ。買取だと安いので百五十万ってとこかな? あなたにそのお金は支払えるの?」
鏡花がこれ見よがしに俺が返したお金とオークの魔石を掲げている。
あれは情報の対価としてあげたもの。今更返せとは言う気はないが……。
そこで理紗からも追い討ちをかけるように言葉を投げられる。
「仮にドロップ品を持っていたとしても、今のあなたから買い取ってくれるようなところは少ないわよ」
「買取は人を選ぶのか?」
「ダンジョンのドロップ品の買取は探索者資格の提示義務があるのよ。探索者資格には到達した階層や実績が書かれるようになってる。申請したばかりでまだ白紙のあなたが強力な魔物のドロップ品を持って行ってみなさい。盗品だと思われて買取拒否されるのがオチよ」
魔王との再戦の夢も早々に潰えて、何も知らない地で路頭に迷うことになるとは……。
つくづく俺の人生は上手くいかないなと自嘲の笑みを浮かべた。
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