異世界勇者は常識知らず〜魔王を討伐した勇者が地球で魔王とダンジョン配信始めました〜
冬狐あかつき
第1話 魔王討伐と異世界(地球)に転
幾千もの魔物の残骸が地面を埋め尽くしている。
死臭漂う戦場で聖印を宿した勇者、レオは何もない空中を蹴り、縦横無尽に駆け巡っていた。
連戦に次ぐ連戦。防具は壊れ、戦闘に利用できる道具も尽きた。手には相棒である美しい装飾が施された波打つ大剣、聖剣ネストが握られている。相対する魔物は一体の巨大な黒龍、魔王リスティルを残すだけになった。
理性を失ったように半狂乱に暴れる魔王の動きは至極読みやすく、以前戦った時と比べると稚拙な動きしか出来ていない。
「どうしたんだ魔王! お前の力はそんなもんじゃないだろ?」
いくら煽っても魔王の目に理性の光を取り戻すことはない……。口を開けば漏れ出しそうな慟哭を唾と共に飲み込んだ。
レオの剣は着実に魔王を切り裂き、弱らせる。
長きに渡る戦いの終止符が打たれようとしていた。
「……お前とは万全の状態で殺し合いたかったよ」
戦いの中で死を望んだ自分が、何の因果かこんなところまで来てしまった。頼みの綱の魔王もこの様では俺の望みも果たされることはない……。
聖剣ネストで大気を袈裟斬りにする。
空中に留まる俺を見て魔王がこちらを食い殺さんと迫ってきた。それを冷静に見やりながら聖剣の力で空気を固め足場を作って上空へと逃れる。
「昔のお前ならこんな負け方しなかったろうな」
魔王の首が自分がいたところを通りすぎると、空中に残しておいた袈裟斬りの斬撃が、不可視の刃となって魔王の喉元を切り裂いた。
溢れ出す血飛沫は大地を燃やし、魔獣の残骸を灰にする。そして魔王は上空で見届けている俺に目を向けると、ゆっくりと倒れていった。
倒れる直前、魔王の目元が緩んだ気がするのは、多分気のせいだろう……。
▲▲▲▲▲▲▲▲▲
魔王討伐を終えて手頃な素材を回収したのち、故郷であるオルスト村まで戻って来た。
この村は俺が幼い頃、野盗がけしかけた魔獣によって襲撃された。生き残りはたまたま森の中に果物を取りにいっていた俺以外一人もいない。
右腕を前に突き出して意識を集中させる。燐光がふわふわと集まっていき、聖剣ネストを形成する。
聖剣の力の一つ、亜空間に収納しておいた酒を取り出し、墓石代わりの巨石にかける。
「……魔王、倒したぞ。でもまだみんなのところには行けなさそうだ」
唇を強く噛み締める。朧げにしか思い出せない両親への思い出に浸っていると背後から声がかかった。
「──勿体無いのう。どうじゃ、わしに一本譲ってみては?」
突然の気配の増加に全力で距離をとる。……あり得ない。今の自分が爺さんの接近に気がつけないなんて……。
背後に現れた黒いローブを着た老人はねじくれた杖で肩を叩いている。
老人は禿頭を指で掻きながら、ため息混じりに呟いた。
「仮にも魔王軍に一人で立ち向かった男が、こんな老人一人に警戒しなくても良かろうに……」
「爺さん何者だ? 教会の追っ手か」
脳裏にある組織が浮かんだ。転生勇者達を囲い込む太陽の教会。
奴らは教会とは名ばかりの下衆の集まりで、力を手にして増長した勇者を利用して勢力を拡大させていった。
俺も教会には度々命を狙われていたが、魔王を討伐する少し前に、頼みの綱の転生勇者が全滅してしまい、国を追われたはずだ。
……復讐か? いつでも殺せるように聖剣を握り込むと老人が杖の先をコツンと地面に押し当てた。
老人の周りに様々な色の光が収束していき、俺の周りを囲むように武器の群れが出現する。
そのいくつかは俺にも見覚えがあった……。嫌な思い出を消し去るように頭を振り、爺さんに目を向ける。
「勇者の宝具を集めてるなんて趣味が悪いな、爺さん……」
「元々はわしの所有物だったんじゃぞ? 気に入った人間に与えていたら欲深い奴らに掠め取られただけよ……」
宝具を初めて与えた存在……。幼い頃に寝物語で何度も聞かされた。
「爺さんが創造神だって? それは何の冗談だ?」
「冗談も何も本当のことじゃよ。いい機会じゃから回収しておった」
宝具は勇者だけが扱える武器だ。勇者が扱う宝具だけが魔王を討伐出来る。それを回収するとなると……。
「人間のことは見限ったってことか?」
「もう魔王は生まれることはないのでな。必要もないじゃろう。それに宝具を回収したことで滅びるのならそれもまたやむなしじゃな……」
創造神が何か手を打ったのだろうか? なら初めからしてくれよ、と思ったが口には出さない。
そんな俺を見て老人は眉をひそめる。
「何か勘違いをしておるようじゃが、勇者や魔王などといった存在はわしの預かるところではない。あれは人間が作り出した呪いじゃよ。下界ではわしが作り出したと教えられているようじゃがな……」
「それは、本当なのか?」
老人は瞑目するとゆっくりと目を開いた。
「本当じゃ。だからお主の恨みもお門違いじゃぞ? 恨むのなら先祖を恨め……と言いたいところじゃが、奇怪な人生を送っているお主には酷な言葉かもしれんの」
「何を知っている?」
「全て、じゃよ。幼い頃魔物に故郷を蹂躙されたことも、引き取られた傭兵部隊が、かの世界から転生した勇者に皆殺しにされたことも……」
苦い思い出が蘇る。傭兵が悪だのと決めつけて襲いかかってきた転生勇者によって第二の育ての親達は見るも無残に殺された。
何でもなかったただのガキだった俺は恩師に庇われて……。
「そんなお主に朗報じゃ。お主のお陰で宝具を取り戻すことができた。何か一つくらいは願いごとを聞いてやるぞ」
気づけば創造神の顔が目の前にあった。あまりに近い距離感に思わず後ずさる。
「何だよ願いごとって! 俺はただ戦いの果てに死にたかっただけで……」
「……ふむ。それが願いか。困ったのう。エアリアルにはもう魔王が生まれることはない。歴代で最強であったあの者を超える存在は二度と現れないじゃろう」
それは俺の望みが死ぬまで果たされないと言うことだ。創造神はああでもないこうでもないと考え込む。
「なら来世でもいい。魔王リスティルの輪廻転生に合わせて俺も導いてくれないか?」
それを聞くと創造神は満面の笑みを浮かべた。
「それがお主の望みでいいんじゃな?」
「それで頼む。生まれ変わったとてあれほどの力だ。それなりの器を持って生まれてくるだろうしな……」
「お主の願い、聞き入れた!」
創造神が杖を力強く地面に打ち付けると、俺の足元が目も開けられないくらい輝きだす。
「魔王リスティルの魂はエアリアルに戻ることはない。もうあちらに定着してしもうとるからの」
「何するつもりだよ! 俺は来世でいいって……」
「お主の願い通り転生した魔王リスティルの近くに移動させてやる。お主の持つ聖剣は……」
聖剣ネストが威嚇するように風の刃を創造神に向かって放つ。
「分かった。分かった。それは餞別じゃ。大事に使え。言葉くらいは通じるようにおまけしておいてやる」
創造神は呆れたように伝える。
光がいっそう眩い輝きを放ったとき、創造神が別れの言葉を告げた。
「君の歪んだ望みもそこで変わるといいね」
女性の声色に変化した創造神の言葉が終わると同時に視界が変化した。
辺りを見渡すと、岩の壁に囲まれた広い空間。
「──何でボス部屋に追加で召喚されるのよってあなた誰?」
「もう限界だ! ってお前どこから来た?」
不思議そうに俺を見つめる少年少女を横目に、一体の魔物の姿が目に入る。
醜悪な外見の人型の魔物。オーク種の亜種だろうか。創造神の言葉が本当なら……。
一足飛びでオーク種の前に移動する。赤毛の少女が目を見開いてこちらを見てくるが、今は無視。
オーク種の魔物に向き合うと……。
「俺だ! 勇者レオだ! あんた魔王リスティルだろ? 俺と命をかけて──」
左にいた赤毛の少女が俺の体を蹴り上げる。
赤毛の女性は痛そうに蹴り足をさすると、パクパクと口を開けて言葉にならない声を漏らすのだった。
―――――――――――
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!
本作品は12月1日にカクヨムコンテストに応募しております。
面白いと思われた方は、下の⭐︎にて評価していただけると助かります。
後サポーターの方向けに最新話まで近況ノートに限定公開しておりますので、続きが気になる方がいましたらそちらもよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます