BLUE MIRAGE

ToKi

 プロローグ

 幼少の時から、私は青く染まった夜空のどこかに父なるものがいるんだって、いつもいつも言われてきたんだ。私は地球で生まれ6歳の時に火星に来た。あれは2330年7月21日、私は母と共にまだ真新しいSC 510に搭乗した。3世紀前より抑えられた日差しが、うす黒いボディに実在感を与えていた。この歳になって、その頃を思い返すと、今、わたしの頭上を通り過ぎて行った火星軍の中型探索機の方が、あらゆる点で勝っている。でも、あの頃から変わっていない事もある。吹聴され続ける期待だ。期待なんてない。廓寥とした建造物群の只中に漠とした感覚があるのみである。偶にふと思う事がある。私を閉じこめた何か巨きなガラスの様な結晶体が、突然、もし吸い込んで仕舞ったら最期とも思えるほど粉々しくなって、そうしたら、この空虚な世界も気持ちも消え去るのではないかと…。そんなことは、恐らくあり得ないのである。忘れる方に進む許りで、思い出すことをしていないのかも知れない。不死の指導者にサロの御加護のあらんことを……。 

アーリス管弦楽団首席指揮者兼芸術監督

       レナード・ブアマン

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