第40話 お土産、そして料理

「これは……なに?」


 俺の部屋にて、ナナやアイリスとともにお土産を確認する。


 テーブルの上に並べられたお土産の内、木彫りの人形を掴んでナナが訊ねる。


「それはまじない人形だ」


「呪い?」


「そう、呪い。のろいと書いて〝まじない〟だ」


「パパの仮面みたいなもの?」


「ハハハ! これは全然呪いの品とかそういうのじゃないから」


「でも怪しいよ」


「でも呪われた品ではない……と思う」


「ユウさんも確証ないんじゃないですか……」


 だってだって! これは帝国にあったやつを勝手にパクッてきたものだからね。


 あいにくと俺の記憶に、こんな気味の悪いセンスある仮面は出てこない。


 言われればある意味これもまじない——いや、呪いの品なのか?


「ちなみにまじないってどういう意味?」


「うーん……あれだ。アイリスや俺に祈って嫌なことを祓ってもらう的な」


「なぜ私が神仏たちと同じ扱いなんですか……」


「神の御子じゃん。たまにはゲンでも担ごうぜ!」


「責任も同時に担いでますが?」


「場合によっては逃げる」


「最悪ですね」


 ジト目でアイリスに睨まれてしまった。


 そんなこと言われても、俺は実際に神様ってわけじゃないからな……。


 同じ瞳を持つだけの人だ。アイリスだってそれは同じ。


 莫大な魔力を持とうと。精霊を召喚しようと。それは変わらない。


 人の身でどれだけ手を伸ばしたところで、神話のような偉業は成せない。人は神にはなれないのだ。




「ふーん……なんか気持ち悪い」


 ぽいっ。


 ナナはせっかくのプレゼントを背後に放り投げた。


「ナナああああああ!?」


 なんてことをするんだ! これが家庭の崩壊か!?


「アイリス母さん! アイリス母さんがナナを甘やかすからこんな子に……!」


「どちらかと言うとあなたによく似ていますよ、ユウさん」


「父親似だな」


「パパとそっくり」


 でもパパは他人からもらったプレゼントを放り投げたりはしない。説教だ。


 ガミガミとナナの倫理観や価値観を但し、プレゼントの続きだ。




「パパ、これは」


「俺が選んだナイフだ」


「村に行ったお土産がナイフ?」


「子供に買ってくるものではありませんよね」


「ふっ。俺は英才教育も怠らない。なぜなら最強だからだ。——ちなみにそのナイフは王都で買った」


「お土産とは一体……」


「だって……さすがに小さな村に特産品はないよ……」


 たいてい王都でも買えるものばかりだ。


 そもそも彼らは好きで外で暮らしているわけじゃない。王都に入りきらなかった人たちが集まって作られるのが村だ。あとはお金が払えなかったりとかね。


 だからよほど立地に恵まれた場所じゃないかぎり、特産品なんて作れない。


 日々を生きるのに精一杯だ。


「これは?」


 もうナナは次のプレゼントを選んでいた。


 ナイフは嬉しかったのは、ちゃんと腰に装備してる。


「仮面。パパとお揃いだな」


 さすがに同じデザイン、同じ品の仮面はなかったが、仮面を付けることで仮面親子ごっこができる。


 このプレゼントはなかなか天才だと思った。




「いらない」


 ぽいっ。


 またしてもナナは人のお土産を背後に放り捨てた。


「ナナああああああ!」


 これが家庭崩壊!? またかよ!


 人からもらったものを粗末に扱ってはいけません、とナナに教え込む。


 せめて捨てるなら他の人が見ていないところで捨てなさい、と。


「ナナの気持ちはよくわかります。あれは私も反対したんですけどね……」


「えええええ!? いいじゃん仮面! 仮面を付けて素顔を隠すと何かカッコいいだろ!? 黒いロングコートとか羽織って不敵に微笑みたいだろ!?」


「なんですかその不審者願望。あなた、初めて王都に来たとき捕まりかけたのもう忘れたんですか」


「俺は過去は振り返らない男だ。前だけ見て生きよう」


「それは構いませんが、あのナナの表情を見てください。哀しそうにうな垂れています」


「な、ナナ!? なんでそんなに落ち込んでいるんだ!?」


「あなたのお土産選びが壊滅的だからでしょうね」


「ナイフは喜んで装備してくれたぞ!?」


「普通は論外です」


 ぴしゃり、とアイリスに断言されてしまった。


 生まれてこの方、まともに生きたためしがないからわからなかった。


 俺って……おかしいのか!?


「ぐぬぬ……何か、ナナを喜ばせられるものは……」


 必死に考えてみる。


 俺ができること。かつ珍しい、かつナナが喜ぶ……ハッ!?


「そうだ! ナナ!」


「どうしたの?」


「美味しいものを食べにいこう! もしくは俺が珍しい料理でも作ってやるぞ!」


「本当?」


 おっ。意外と食いついてきたな。


 やっぱり子供は美味しい食べ物とかほしいよな。大人だってほしいもの。


 そう思って何を作るか、何を食べさせにいくか考えた。


 しかし、答えが出るより先に、アイリスが不穏なことを口走る。




「——あ、でしたら……僭越ながら、私が料理をお二人に振舞いましょうか?」

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