第38話 逆賊⁉︎ そして帝国の内情

 ナナのためにも、今頃ブチギレていそうな陛下のためにも、俺とアイリスは事件解決後すぐに王都へ戻った。


 急いで王宮に行き、ナナと会いたい気持ちを堪えながら謁見の間に行くと……。




「出たな逆賊め。捕らえ、拷問の後に処刑する!」


 開口一番、陛下がそう言った。


 びしりと指を向けられているのは、当然、愛娘を誘拐した——俺。


 周りを騎士が囲んだ。


 隣に並ぶアイリスが顔に手を立ててため息を吐く。


「陛下……いえ、お父様。これは一体何のつもりですか?」


「当然、そこにいる下郎がアイリスを誘拐した件だ!」


「下郎」


 俺の評価がどんどん下落している気がする。


 もはやただの犯罪者か畜生だ。


「お止めください。何人騎士が束になろうと、ユウさんには勝てませんよ」


「やってみなければわからぬではないか! なあ、騎士団長よ!」


「その通りでございます、陛下! 我々は日夜、陛下たちをお守りするために刃を磨いています! いくらアイリス様とて、そんな我々を愚弄するのは……」


「愚弄などしておりません。私が相手であれば、数を揃えれば勝てるでしょう」


「なら——」


「ですが!」


 ぴしゃりと騎士団の言葉を遮る。


 真面目な口調で、


「ユウさん——ユーグラム様は別格です。私が百人いても勝てないでしょうね」


「一人くらい貰っても構わんか……」


「黙っててください、ユーグラム様。殴りますよ」


「殴ってる殴ってる。言葉の暴力だよそれは」


 ただの冗談だったのに本気で殺意を向けられた。


 でも、百人もアイリスがいたら、一人くらい……と考えるのが人間だ。


「ユーグラム様は置いといて……とにかく。絶対に手を出さないでください。殺されても知りませんよ」


「うぐぐ……! アイリス様がそこまで言うとは……」


「まあ俺最強だしね」


「火に油を注がないでください」


「はい」


 これ以上喋ると本当に殴られそうなので、騎士たちの様子を見守るだけに留めた。


 すると、騎士団長——ではなく、アイリスの父である国王が残念そうに言った。


「であれば……諦めるほかないな」


「陛下!」


「無駄に血を流すことを私はよしとしない。アイリスがそこまで彼を警戒するのなら、その実力は本物なのだろう。残念だが、な」


 最後に残念とか言いやがった。


 本当にアイリスは両親に愛されているな。ユーグラムは両親に愛されていなかった。期待はされていたが。


 その差が帝国と王国だ。


 そして、ユーグラムは兄たちとも争うことになる。それはまた別の話だが。




「いやぁ、懐の広いことで。ありがとうございます、国王陛下」


「しかし、だ」


 じろりと国王は俺を睨む。


 そんな顔で見られてもサインはしないよ?


「なぜ、此度はアイリスをわざわざ攫っていった。戻ってくるなど意味がわからない」


「最初から俺は敵じゃないと言ってるでしょう? 困ることはしませんよ」


「困りましたが?」


「まあまあ。人生にはそういう経験も必要なんだ」


「お願いですから黙っててください。ややこしくなります」


「はい」


 厳しく言われたのでさすがに俺も口を閉ざす。


 代わりにアイリスが喋ってくれた。


「ユーグラム様に代わって、今回の件は私が説明しましょう。まずは、ダンジョンが発生した件から」


「ダンジョン?」


「はい。以前、たびたび報告に上がっていた村の近くに、ダンジョンが発生していました。魔物の発見報告が多かったので予想はしていましたが……まさに、ですね」


「そ、それで村は?」


「私とユーグラム様が加勢したので無事ですよ。犠牲者もひとりも出ていません」


「そうか……それはよかった」


 国王はホッと胸を撫で下ろす。


 アイリスは話を続けた。


「しかし、その際に、帝国の兵士らしき人間を発見。彼らはダンジョン内で魔物を合成する実験を行っていました」


「な、なんだと!? 魔物の合成? そう言えばそんな話を諜報部隊が……眉唾だとばかり」


「普通は行うリスクのない研究ですからね。魔物を研究してより強くしようなどと……狂気の沙汰です。あんなもの、お金と人の無駄遣いでしょうに」


「その通りだ。あまりにもデメリットが大きすぎる。やるにしてももっと細々とやるのが常識だろう。なぜ、あんな所で……」


「——王国に、被害を出したかったから」


 ここから先は俺のターンだ。


 やっぱり黙っていられない。せめて予想くらいは話しておかないとね。


「我が国に、被害を?」


 国王は俺の話に耳を傾けた。


 アイリスも口を挟んだりはしない。


「ああ。間違いなく、な」


 俺は国王たちに語った。


 もちろん前世の記憶うんぬんは隠したが、それなりに誤魔化しながら帝国の内情を話す。


 それを聞いた国王たちは、帝国の行ったあまりのも非情な行為に怒りを表す。


 だが、帝国とはそういう人間たちの集まりだ。


 だからこそ俺はあの国を捨ててアイリス側についた。




 全てを話し終えると、アイリスもまた、厳しい表情を浮かべる。

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