第36話 終了、そしてお疲れ様
世界を覆った薄紫色の光。
その光は、徐々に輝きを失っていく。
世界が夕日の色を取り戻しつつある中、完全にオレンジ色になった森の中、すべてを吹き飛ばした俺はにまっと笑った。
「ほいほいっと。これで一件落着」
敵は葬り去った。
勢い余って研究者の老人を殺してしまったが、それはもうしょうがない犠牲だと割り切ろう。
どうせあの爺さん、自決用の魔法とかアイテムを仕込んでいただろうしね。
踵を返し、座ってこちらを眺めていたアイリスの元へ戻る。
手を振って声をかけた。
「おーい、アイリス~。全部終わったよ~」
剣を納めて能天気に近づく俺に、アイリスは、
「ななな……何をしているんですか、ユウさん!」
「ぐえっ」
強烈なドロップキックを炸裂させた。
直撃して俺は後ろに吹き飛ぶ。
地面を転がって止まったあと、汚れた顔で彼女に問うた。
「あ、アイリスこそ……何するの……」
「ユウさんが森をめちゃくちゃに破壊するから怒っているんです! あれを見てくださいあれを!」
アイリスに示した方向には、先ほど俺が吹き飛ばして作った更地が広がっている。
うーん、綺麗だね。見事に木々が消滅していた。
「伐採の必要がなくなったね」
「伐採は木を採るためにも行うんですよ!!」
「いや、でも相手強かったし……」
「ユウさんならもっとスマートに勝てたのでは? そもそも、私のほうに本来は運ぶ必要だって……」
「ふっ。いいところを突いてくるな、アイリス。その通りだ」
パンチッ☆。
倒れたままの俺の頭に、アイリスの拳骨が落ちた。
痛くはないが心は痛かった。
「まったく……ユウさんはいろいろと派手すぎますよ」
「ごめんごめん。確実に倒すためにちょっと張り切っちゃった」
アイリスの前だってこともあるけど、たしかに過剰だったのは否めない。
立ち上がってから彼女に謝罪する。
「謝るなら私ではなく、村の人たちに謝ってください。……でも、よかった」
アイリスが一歩、また一歩と俺のそばに寄る。
少しして、彼女の柔らかな腕に抱擁された。
「あ、アイリス?」
いきなりのことだったので少しだけ驚く。
だが、アイリスはよりいっそう強く俺の体を抱きしめた。
顔を胸元に埋め、嬉しそうに笑う。
「本当によかった……ユウさんならきっと無傷で帰ってくると思ってましたが、こうして顔を見て、触れるまでは安心できません」
「えー? 珍しくアイリスが心配してくれたの? 俺、最強じゃん」
「珍しくありません。それに、最強でも死ぬときは死ぬんですよ」
「……知ってる」
よーく知ってるよ。恐らく、アイリスよりもそのことをよく知っている。
だって俺は、本来は君に殺される運命にあるのだから。
「でも可愛いなぁ。アイリスが俺の心配をして、寂しくて思わず抱きついてくるなんて」
「折りますよ」
「何を!?」
ギギギ、とアイリスの腕に込められた力が増す。
こ、コイツ……本気で背骨を折りにきてないか!? 常人ならエビ反り確定みたいな腕力が込められているぞ。
当然、最強チートな俺には通用しないが、ぎりぎりと嫌な音はする。
「もう……っ! ユウさんの馬鹿!」
アイリスはやっと俺の体から離れた。
ずっとドキドキしていたから、心臓の音で気付かれたかもしれないな。
そのことにさらに心臓が早鐘を打つ。気まずいってやつだ。
けど、アイリスは気にした様子もなく、なおも俺を見つめる。
「どうしたの、アイリス」
「別に。ただユウさんのことを見ているだけですよ」
「なにそれ。面白くもないでしょ」
「ふふ。そんなことないですよ~」
くすりと笑ってアイリスは上機嫌に踵を返した。
彼女の視線の先には、俺たちが救った村がある。俺も彼女と同じほうへ視線を向けて、
「ひとまず……村を救うことには成功したんだな」
と呟く。
アイリスは、
「ユウさんのおかげで守ることができました。お礼を言いますね」
と言うが、それは違う。
「違うだろ、アイリス」
「え?」
驚くアイリスに、俺はにやりと笑って答えた。
「俺と、アイリスのおかげで救えたんだ。ひとりじゃ無理だった。俺たちがいたらこその結果さ」
「ユウさん……」
アイリスの瞳に、強い強い感動が広がった。
今更ながらに、自分が村人たちを救ったことに気付いたらしい。
あまりにも遅すぎる。
今度は俺から彼女に近づき、その頭を撫でた。
「よく頑張ったね、アイリス。強かった。凄かった。立派だった。さすが——俺の知ってる、大好きなアイリスだね」
「~~~~!」
ぼんっ! とアイリスの顔が真っ赤になる。
頭から湯気を出す彼女を放置して、俺は先に村へ帰った。
後ろから、大きな声が聞こえてくる。俺がよく知る女性の声だった。
「ゆ、ユウさ————ん! 私は別に、子供じゃないんですよ————!!」
———————————
あとがき。
激闘、終了!
最後にはイチャイチャもあり……ここまで読んでいただきありがとうございました!
皆様のおかげで書籍化もしたしランキング1位も取れたし幸せでしたね!まだまだ本作が伸びることを祈っています!
……え?最終回?
いやいや!
本作はまだまだ続きますよ〜!
一章終わって、改めて皆様にお礼を!
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