第33話 風の精霊、そしてえげつない
「————〝精霊召喚〟」
アイリスはよく通る声でそう呟いた。
足元の光が薄い緑色に発光する。
次いで、彼女の大量の魔力を吸収して生み出されたのが——緑髪の女性だった。
「あれが風を操る精霊が一体、——シルフィード」
原作でもアイリスが最も召喚していた精霊シルフィード。
風属性を操る精霊で、外見は知的な緑髪のロングヘア。
しかし、彼女は絶対的な魔法の頂点に位置する精霊だ。その能力は、並みの魔力使いよりはるかに強い。
なぜなら、彼女は——。
「シルフィード様。ご助力をお願いします」
『……委細、承知』
こくりと静かに言ってシルフィードは頷いた。
シルフィードは原作通りの寡黙キャラだな。アイリスの願いを聞き届け、素直に力を貸す。
彼女は精霊だ。人間と違って精霊は、魔力を物質に変換し行使できる。
要するに魔法が使えるってことだ。
その威力は、ただ魔力を垂れ流しながら扱う俺たち剣士とは天と地ほどの差がある。
いくらユーグラムでも、精霊を相手にした場合は少しだけ苦戦する。
——あくまで少しだけ、な。
シルフィードが風を操り、迫る巨大ワニを吹き飛ばした。
凄まじい風圧だ。ガリガリと地面や木々を削ってワニを数十メートル先まで転がす。
『堅い……』
「シルフィード様でも突破するのは難しそうですね……ユウさん、あれ、どうやって勝てばいいんですか」
「それを俺に聞いたらダメじゃない? 頑張って攻略しないと」
「ヒントくらいください。成長のためですよ」
「ふむ……ヒントか」
『あの者は……』
シルフィードがジッと俺のことを見つめる。
今の俺は仮面をしている状態だ。この状態でも、精霊には俺がユーグラムだとわかっているのか?
だとしたら驚きだろうな。主人公の前にユーグラム——ラスボスがいるのだから。
しかし、ここでふとある疑問が生まれる。
アイリスは神の眷属たる精霊の力を行使できる。ゆえに神の御子として成立していた。
だが、ユーグラムはどういうことだ?
ユーグラムは精霊を呼び出すことはできない。アイリスとは違った力——魔核を持って生まれた。
仮に金色の瞳が精霊か神を表すのだとしたら、ユーグラムの力の源はなんなんだ?
浮かんだ疑問に、不思議な違和感——不安を覚えた。
首を横に振る。
ダメだな。無駄なことを考える必要はない。
俺は俺だ。ユーグラム以上でもそれ以下でもない。たとえどんな答えがあろうと俺には関係なかった。
「ユウさん? 私の話、聞いてますか?」
「ん、悪い。聞いてなかった」
「ユウさん……堂々としてますね」
「俺だからな。——それより、ヒントだっけ」
「ちゃんと聞いてるじゃないですか」
ごめんごめん。ただの冗談だよ。
「そうだなぁ……とりあえず精霊がいるなら一緒に戦ってみるといい。相手がいくら防御力があると言っても、その数値は無限じゃない。魔力を上げていけばいずれ勝てる」
「つまり?」
「パワー、サイキョウ」
「…………」
ジト目でアイリスに睨まれる。
そんな目を向けられても、これ以上にシンプルな答えはないぞ?
やはり求められるのは力だ。どんな防御も、それ以上のパワーで殴れば怖くない。
そして、それがユーグラムの戦闘スタイルだ。決して俺が脳筋なわけではなく、原作基準からしてユーグラムはそうだった。ユーグラムには、それを語れるほどの魔力と才能があったのだ。
「とりあえず、頑張ってみます」
「おう。ピンチになったら助けるから、いろいろ試してみるといい」
「了解です。手伝いをお願いしますね、シルフィード様」
『承知。……そこの男』
「ん?」
シルフィードに話しかけられた。
アイリスや俺と同じ金色の瞳が、鋭く俺の顔を捉える。
『アイリスを……頼んだぞ』
「……へぇ」
精霊がそういう頼みをするのか。
原作だとただの人形みたいな奴だとばかり思っていたが、これはこれで面白いな。新たな発見をした。
くすりと笑って、
「お任せください、シルフィード様。美女の頼みとあらば、相手が魔物の王であろうと立ち向かってみせましょう」
恭しく、仰々しく頭を下げる。
それを見たシルフィードは、
『軽薄ですが……まあ、その言葉を信じましょう』
やや呆れた声でそう告げると、視線を前に戻して、こちらに向かってくる魔物を見据えた。再び、彼女の周りに小さな風が起こる。
「——あ。アイリスのパンツ」
「殺しますよ!」
じろり。
巻き上がるアイリスのスカートを見て、思わず本音が漏れる。
またしてもアイリスに睨まれたので視線を逸らした。
すると、直後。
大きな音が聞こえた。それは、魔物の声。
「グルアアアアア!?」
見ると、全身をシルフィードの風の刃で刻まれていた。
高い防御力があっても、今のシルフィードにはあまり関係ない。徐々に、たしかに、相手の体力を削っていく。
「うわぁ……えげつな」
———————————
あとがき。
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