第8話 無双、そして報い

 謎の少女に背後を取られる。


 首には冷たい鉄の刃が当てられていた。


「ナイフか。それに……女の子?」


 ちらりと視線を後ろに向ける。


 やっぱり女の子だ。歳は小学生か中学生くらい。かなり若いな。


「ッ! 動けば殺す!」


 少女がナイフを持つ手に力を込めた。


 確実に俺を殺そうとする。


 しかし——キンッッ‼︎


 ナイフは俺の皮膚に当たると、あっさりと


 しかも、薄皮一枚すら斬れていない。


「残念。そんな玩具じゃ俺は殺せないよ」


「くっ!」


 少女は、他にも数本のナイフを取り出して必死に振るう。


 だが、いくら頑張ろうと、連続して打ち込もうと、結果は変わらない。


 魔力により強化された俺の体は、そう簡単には傷つかないのだ。




「ふんっ!」


 バキッ!


 正面にいたドレッドヘアーの男性が、お互いの間にあったテーブルをこちらに蹴り飛ばす。


 視界がテーブルで埋まった。


 その表面に触れる。


 ぐっとテーブルを反対方向に押し出した。


 押す前に勢いを完全に殺したので、テーブルは壊れることなく、逆に男のほうへと飛んだ。


 いるゆる反射だ。


「なにっ!?」


 まさかほぼゼロ距離で反撃されるとは思ってもみなかったのだろう。


 わずかに男は反応が遅れた。


 それでも拳を握り締めて、飛んできたテーブルを砕く。


 バキバキバキィッ!


 盛大な音を立ててテーブルが真っ二つになる。


 男の視界が一気にひらけた。




「よう」


 しかし、その頃にはもう目の前に俺がいた。


「姑息な戦法をやり返されたときの気分ってどんな感じ?」


「チッ! 死ねぇ!!」


 ぶんっ。


 男の拳が俺の顔面——正確に鼻の先っぽを捉えた。


 けれど無駄だ。ナイフと同じ。


 ガツンッ!


 鈍い音を立てて、男の拳がぶつかる。


 当然、俺の鼻はノーダメージだ。


 むしろ……、


「ぐあっ!? お、俺様の手が……!」


 ダメージを受けたのは殴った側の男だった。


 わずかに指が赤くなっている。


「魔力で筋力を上げても無駄だよ。お前ら程度の攻撃が通じるかっての」


 こちとら公式チートだぞ?


「クソッ! なんなんだお前は⁉︎」


 男はバッと後ろに下がった。


 ソファを吹き飛ばして距離を取る。


 その両サイドを他の二人が固めた。


「その質問に答える前に、俺の質問にも答えてくれよ」


「あぁ? 質問だ?」


「お前……その髪型、どうやって頼んでるの?」


 実はずっと気になっていた。


 普通の髪型とは違ってかなり手が込んでるじゃん?


 そんなの見せられたら気になるよ。人間だもの。




「殺せ! そいつを今すぐに!」


 男は俺の質問を聞いてブチギレた。


 短気は損気って習わなかったのかな?


 背後で小さな影が動く。


 ナイフが効かないとわかっているはずなのに、三度ナイフを構えた状態で、少女が俺に接近した。


 小さく、か細い声が聞こえる。


「暗殺魔法——〝蛇〟」


 鋭い突き技が炸裂する。


 普通に受けてもダメージはゼロだが、せっかくなのでカッコつける。


 少女のナイフの切っ先を、人差し指と中指で挟んで止めた。


「ッ!」


「ぴーすぴーす。なんちゃって」


「暗殺魔法——ぐぅっ!?」


 またしてもよく解らない魔法を使おうとしていたので、ナイフを引き寄せてから首を掴んで床に押し倒す。完全に事案だ。


「はいだめ~。面白い魔法を使うっぽいけど、女の子がこんなものを振り回すのは関心しないな」


 そう言って奪ったナイフの刃を素手で砕く。


 たぶん毒の類だな。さっきの魔法は。


 仮に毒が体内に入っても、魔核による副産物——分解機能が発動して俺に毒は通じない。


 マムシに噛まれても平気だ。


「使えねぇガキだな! お前ら、全員でそいつを殺すぞ!!」


「了解!」


「任せて!」


 背後からドレッドヘアーを始めたとした、青年と巨乳の三人が攻撃を仕掛けてくる。


 少女のほうは武器も取り上げたし、立ち上がってタイミングよく腕を振るう。


 それだけで、彼ら三人は無様に吹き飛んだ。


「ぐああああああ!?」


「きゃあああああ!?」


「うわあああああ!?」


 三人とも衝撃で壁にぶつかり、ドレッドヘアーの男性以外は気絶した。


 唯一、魔力がそれなりに使えるっぽい男だけが耐える。拍手拍手。


 パチパチと手を鳴らしながら男へ近付く。


 カエルみたいに腹を向けて寝ていたので、軽くふんずけてみた。


「ぐえっ」


「あはは。ぐえ、だって」


 面白。何度も何度も踏んでみた。


 その度に男は苦しそうに悶える。だが、これは正当な暴力だ。




「なぁ、おっさん」


 俺は単刀直入に訊く。


「あの女の子……ずいぶんと厚着してるなぁって思ってたんだけど、押し倒したときに解ったよ。かなり傷を負ってるね。痣ばっかり」


 そう。そうなのだ。


 先ほどの少女の体には、まるで痛めつけられたとしか思えぬ傷がたくさんあった。


 確実にコイツらに暴力を振るわれている。


「何したの? 仲間じゃないの?」


「ぐっ……ふ、ふざけるな! アイツはただの道具で、みすぼらしい孤児のガ——ぎゃあああ!?」


 聞くに堪えない。


 うっかり足が滑って腕の骨を砕いてしまった。


 腹を踏みつけられたとき以上の痛みに、男はその場に転がる。


 涙と涎を流して、みっともなく言った。


「いっ……いてぇ……いてぇよ……! やめ、やめろ! 俺は、何も……」


「してない? 悪くない? いやいや。それはさすがに都合がよすぎるでしょ」


 ダメだよ。罪は等しく裁かれないと。


 これまで君が裁かれなかったのは、君より強い人間が現れなかったから。


 けど、今は俺がいる。


 仮面を外して邪悪な笑みを男に見せた。


「ちゃ~んと、俺が痛めつけてあげるからね? 大丈夫。殺しはしないよ。じっくりと、あの子が味わった分の痛みを受けるといい」


 ゆっくりと足を上げる。


 狙いは下半身——右足。


 どうせ犯罪者をアイリスたちのもとへ連れていくなら……暴れないように四肢を砕いたほうがいいよね?




 その問いは、誰も答えない。


 すでに答えは出ていた。




———————————

あとがき。


えー……皆様の予想通り、ユーグラムくんには半端な攻撃は通用しません!金属の方が壊れます!


そして外道の辿る未来は……真っ暗でしょうね……!

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