第3話 新聞屋

 我が家では新聞は取っていない。新聞はあれば使うがその使用用途が割れ物をかたす時くらいなのだ。


 その為によく燃える物を家に置きたく無い。そして捨てねば溜まる。捨てるのにしばひもを買いたく無い。


 それに新聞屋に敵性感知てきせいかんちをすると毎日持ってくる新聞の中に毒物が入っていたら、感知過多かんちかたでこちらが疲れる。


 新聞の話をした理由は最近困っているのだ。そう新聞の勧誘かんゆうだ。


 お兄ちゃんではなく、お姉ちゃんが来るようになった。僕は病気療養中びょうきりょうようちゅうで買い物以外は家で寝ている。

 夜になると、先生にむくわれない淡い恋心を抱く従姉妹の送り迎えをしに行っている。


 なので、日中はほぼ寝ている。

 だが、奴らは僕が起きている時を狙ってやってくる。


「こんばんは、マルバツ新聞です。今、この辺のお宅を回っておりまして」


 ふむ、顔立ちはきれいだ。

 だが、敵性感知はしている。この女を門の中に入れてはいけない。


「サンプルと粗品そしなをお配りしていて」


 僕は門扉もんぴを開け、玄関の前まで出た。けして女の顔の造形ぞうけいが整っているから通したわけでは無い。向こうも分かっているだろう。僕が男の一人暮らしであることくらい。


 それなのに女を使ってきた。敵性感知てきせいかんちはこの女では少々弱いので、悪の大元はこの新聞の販売所だ。


 僕は紳士なので、玄関先に出ると客観的に見て、そこそこきれいな女がマルバツ新聞の解説かいせつをし出した。経済けいざい政治問題けいざいもんだいだけではなく、若者わかもの向けの解説かいせつ記事。


 あまり聞いてなかった。汗でむれた肌から香るにおい。この色仕掛けも敵性の作戦か。僕は紳士なので、これくらいでは揺らがない。


 僕は小さい声で反応をして、女が粗品と新聞と販売所の電話番号を書いた注文セットを出して、いかに簡単に始めることが出来て辞める事が出来るかを説明して、帰ろうとした。


 女は敵性の大元に帰ろうとしている。ダメだ。彼女だけは助けないと、敵性を他の能力者に感知されると彼女ごと排除されてしまう。


 大きな声で待って、と言おうとした。声が出なかった。せきき込んでしまった。彼女が門を出てしまう。その一秒も満たない瞬間、様々な事が頭を巡った。


 ここで声をかけるのは紳士的なのか。


 紳士は「君の命がおびやかされようとしているから、販売所に帰るな」と、言うだろうか。


 紳士であること、敵性感知者であること。どちらかを天秤てんびんにかけなければいけない。敵性感知者と発覚した場合、僕の親戚しんせきも消されるかもしれない。


 幸い販売所の住所と電話番号、女の名刺を貰っている。また明日以降、切迫せっぱくした敵性感知をしたら、その時に対処たいしょしよう。


 そう思い門の外の女を見送った。今回見逃したのは無視をして監視を続けるという措置そちだ。


 次は無いぞ。


 後日行ったマルバツ新聞の販売所は移転していた。勝ったと思い、小さい声で笑った。けして女に会いに来る為に販売所に来たわけでは無い。




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