第2話 ゆかりちゃん

 今、車に乗せているゆかりちゃんは従姉妹だ。叔父おじに世話になっている手前、じゅくの送り迎えを担当している。


 僕には分かる。この女、僕に何か持っている。ただ僕は紳士しんしだ。ここで車をあえて事故に見せかけてこの女を殺しても、もし僕が生き残ってしまえば、それは紳士では無い。


「お兄ちゃんって今、彼女おるん?」


 コイツ、僕が彼女を作らない側の人間だと悟ったのか。大したものだ。中学生如ちゅうがくせいごときでいい洞察力だ。僕は小さな声で肯定こうていの回答をした。


 お? そうか、この女。紳士である僕に恋愛感情を? 悪いな、僕は紳士だ。成人男性の身では従姉妹とはいえ中学生に手を出すのは控えたい。


「ゆかりさ、好きな人おんねん」


 待てよ? 簡単に事が進みすぎている。そうか、僕の事をここでだまして、敵性てきせいを隠そうという作戦か? ふ、面白い事をするな。


 僕は小さい声で反応した。


「ゆかりさ、クラスのけいちゃんの事が好きでさ」


 それは誰だ!


 そうか敵性感知をこういう嘘で誤魔化ごまかそうという作戦か。これはいっぱい食わされた。


 ここから、圭ちゃんがどれほど優しいか、頭が良くて、こっそりしおれた花に水をあげている。そんな事をゆかりちゃんは言った。


 お兄ちゃんは紳士なので、余裕のある小さい声で返答をして、ゆかりちゃんの話を聞いた。


 中学生の恋愛か。そうかあんな小さいゆかりちゃんが、もう彼氏。彼氏と何をするのだ。敵性感知した。彼氏め、僕の可愛い従姉妹にあんなことやこんなことを。許さぬ。


 感知したからには排除はいじょせねばなるまい。従姉妹にその彼氏がどこに住んでいるかを聞こう。本当に敵性なら、倒した後にそれの存在と記憶が周りから失われる。


 僕は紳士なので、今すぐ倒さねばならぬが従姉妹の気持ちが切れるまで待つことにした。敵性よ、僕の可愛い従姉妹を苦しめる様なことをしたら、滅してやる。


「体育の授業でバク転するくらい運動神経いいの。さすが先生って感じ!」


 なんだ先生か。

 めっ。っす。

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