第11話
得体の知れない臓器が、はっきりとした輪郭で重苦しい鼓動を刻んだ。死屍同然に横たわる干からびた俺の体内に、どこにまだ、そんな活力があるというのだろうか、、、
──エクスに会いたい。
──時空魔法。
例え同じ結末を迎えたとしても、エクスに会える。
もう一度、エクスに会える。
漆黒眼を持つ俺には時空魔法を使う自信があった。──時間が戻せる。
すぐそこに、──エクスがいる。
──俺は意識を左眼に集中させた。
眼球が圧縮されるような感覚に陥った。初めての感覚に戸惑い、思わず
瞼の上から差すような光。
、、、──目を開けると、
そこには、──エクスがいた。
「ご主人様っ! お見事ですっ!」
エクスがいる世界──。
惑乱する視界は瞬時に目の前のエクスに奪われる。空っぽの容器に大量の水が注がれて溢れるように涙がとめどなく流れた。
押し寄せる記憶とありとあらゆる感情が蘇って、目がくらむほどにぐちゃぐちゃになった。
「ご主人様どうしたんですかっ?」
俺はエクスに駆け寄ると力の限り抱きしめた。柔らかな感触、甘い香り、優しい声。全てを抱き込んで噛み締めた。
エクスの体温が俺に伝わる。もう離したくない。くしゃくしゃになった顔をエクスの身体に押し付けた。魔力が尽きるまでは、何度だってエクスに会うことが出来る。そうだ。エクスを失ったわけではない。何度だって、何度だって、──会いに来たらいいのだ。
「お楽しみのところ申し訳ありません」
聞き覚えのある声に戦慄が走る。
ヤツがいた。両サイドに二人の美女。
──あの時と同じ。
俺はエクスから離れ臨戦態勢をとる。身体が小刻みに震えた。
「それでは早速、お手並み拝見といきますか。まずはデュランダル!」
一人の美女が剣へと姿を変えると、エクスは「あなた所有者ね」、魔力を宿した手刀を構えた。
「お嬢さんは少しお休み下さい」
その声に俺は過去を思い出し、素早くエクスを抱き込むように突き飛ばした。
刀身から放たれた氷属性の刃が空を斬る。
「……ほう。こちらの魂胆を見破っているようですね。ならばこれならどうです? グラディウス!」
男が凍気を纏った片手剣と細身の毒剣を左右に構え不敵な笑みを浮かべた。
二刀流の太刀筋。用途の異なる二種類の剣から斬撃と刺突が次々繰り出される。
──ヤツの狙いはエクス。
俺はエクスの前に立ち塞がり、無差別に乱舞する剣技を凌いだ。
「ここまで強くなっているとは感心致しかねませんね」
男は間合いをとると左手に握るデュランダルを天にかざした。みるみるうちに片手剣が凍っていき、巨大な
「────『
男が氷柱と化した剣を俺たちに向かって放り投げた。氷剣のまわりを凍気の気流が渦巻き、旋回する一閃がうねりを上げて飛んでくる。
ヤバい。俺はエクスを抱え込み、転がり込むようにその弾道を避けた。
エクスの長い髪が凍気に触れ、なびいたままの状態で凍りつく。突風にさらされたかのような形状で固まる髪に、エクスが困惑した。
「ちょ、ちょっとコレなんなのーー⁉ せっかく朝、髪を
慌てふためくエクスをよそに、男が毒剣を突き立て突進してくるのが分かった。俺は瞬時にエクスの前に立ちはだかろうとした——が、
ガシッ! ──身体が動かない。
首を後ろに捻る。
先程、放り投げられた氷剣が美女の姿へと戻り、俺を羽交い締めにしていた。
──しまった!
「エクス! 逃げろぉぉおおおおーーーーーー‼」
髪に気を取られていたエクスが声に気づくも、間に合わなかった。
あの無残な光景が、再び俺の前に広がっていた。
「ご、ご主人様……」
「エクス! エクス! エクスーーーーーー‼」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます