第7話

 ヒモ生活も三ヶ月が経ち、いい加減うんざりしていた頃、エクスから衝撃的な告白があった。

「ご主人様ぁ〜〜、二人のマイホームを購入いたしましたっ!」

 度肝を抜かれた。マイホームといえばどんな小さな家でも莫大な金が必要になる。


「マ、マイホームって! そんなお金どうしたんだよ⁉」

「えへへへ、エクスがんばりましたっ!」

 聞けば、人口の多い王都では俺がモテ過ぎるため、離れた交易都市の郊外にある一軒家を購入したらしい。資金はギルドで高額報酬のクエストをこなして作り、いまや冒険者ランクはSとのこと。


 ぎょ、ぎょ、ぎょえぇぇーー‼

 たった三ヶ月で、なんという能力。ご主人冥利につきるというよりも、エクスの健気さに涙腺が崩壊した。


 ゔっ、ゔっ、ゔぁあーーーーんっ!

 俺は男として、一生をかけてエクスを守らねばなるまい。……守る⁉ 

 自分の不甲斐なさにまた──、涙する。

 エクス、なにからなにまでごめんよぉーー。

 どうやら俺はヒモ男には向いていないらしい。途轍もない罪悪感に苛まれていた。


「ご主人様、それではさっそくマイホームに向けて、遠足ですっ!」

 

 マイホームは港湾都市と王都の中間に位置する交易都市にあった。王都に比べればかなり小さな規模の都市だったが生活するには不自由なく、郊外にはのどかな田舎の風景が広がる。

 家屋はその区画の奥まったところにあり、人目をさけるにはもってこいの場所だった。中古物件だが小綺麗に手入れされており、二人で住むには広すぎるほどだ。


「じゃーーんっ! さらにご主人様にプレゼントがありますっ!」

 エクスから手渡されたものは、猫耳フードがついた黒色の隠密マントだった。気配を消す効果があるらしい。


「これを着てれば外出オッケーですっ! エクスもずっと一人だとさみしいですからっ!」


 ナ、ナイスアイデア!

 引きこもり生活はこりごりだ。このまま食わせてもらうのも気がひける。新天地では、俺もしっかり働くつもりだ。


 ……ただ、猫耳フードは逆に目立たないか?


「ご主人様〜〜! めっちゃ可愛いですっ! ぷっ、ぷぷぷっ、ぷひゃあぁーー‼」

 猫耳フードを着用した俺の姿をみてエクスは笑い転げていた。


 ……絶対バカにしているだろコイツ。

 そう思いつつ、恥辱も悪くはない。俺は小鼻をヒクヒク動かし僅かな抵抗を試みたが、内心はさげすまれる快感を堪能していた。


 そして、驚くことに隠密マントの効果はてきめんだった。ギルドまでの道のり、誰にも騒がれることなく辿り着くことができた。特殊な加工が俺の能力を制御しているのだろう。


 こじんまりとはしているが、この街にもれっきとした冒険者ギルドがある。

 エクスは慣れた手つきでギルドの扉を開け、受付カウンターに向かった。


「Sランク冒険者のエクス様ですね? この度はパーティー登録をご希望ということで、まずはこちらの用紙にパーティー名の記入をお願い致します」


「パーティー名かっ? 考えてなかったっ! どうしよ、どうしよ! どうしよぉーー⁉」


 あーでもない、こーでもないとエクスは羽ペンを鼻で挟み、ギルド内をウロウロしている。

 しばらく考え込んでから、

「それではこれでお願いいたしますっ!」

 ようやくパーティー名が決まったようだ。

 用紙を提出すると「文字数が多すぎます!」速攻で突き返されていた。


「えーーっ! せっかく考えたのにっ!」

 炎天下のソフトクリームみたいにふにゃふにゃヘタレ込んでしまったエクスを不憫に思い、記入された用紙を覗き込んでみる。


【聖剣エクスカリバーを抜いた黒い瞳の元勇者ではありません。人違いです! 絶対に違います! ただの冒険者とそれを慕う者のパーティーです】


 なんちゅうパーティー名⁉

 そして、ながっ! 

 日本で流行っていた小説のタイトルか! 

 てか、これ、元勇者って絶対にバレるだろ!


「なんでバレるんですかっ⁉ ちゃんと違いますって、否定してるじゃないですかっ!」


 ダメだこりゃ……。エクスにネーミングセンスはない。


 ──そうして、厨二病全開で俺が考えたパーティー名、「黒猫と美女」の新たな冒険が始まるのであった。


 この夜、猫耳フードを着せられたまま行為に及ばされたことは筆舌に尽くし難い。


 私のかわいい黒猫ちゃん、

 どうして欲しいのでちゅか?

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