242. Welcome to Your World
私とレキは理由は違えど、2人共プログレス・オンラインの世界から締め出されていた。
レキが締め出された原因は、ハイエンスドラゴンとの戦いだ。あの戦いで、ハイエンスドラゴンはファイさんの意図とは違う動きを見せ、レキをロストさせてからその因子を取り込んだ。
本来であればレキがあの時ロストする予定ではなかったし、ロストしたとしても隔離空間内であれば問題無く復活させる事が出来た。……けれど、ハイエンスドラゴンはレキの因子を取り込んだ状態で隔離エリアから脱走。その所為でプログレス・オンライン内での整合性に矛盾が生まれ、復活したレキがプログレス・オンラインに帰れなくなってしまったのだ。
これは、プログレス・オンラインがリアルと遜色無いほどリアルな世界だったからこそ起きた問題だった。
そして私は完全に覚醒してしまった感応能力により、プログレス・オンラインにログイン出来なくなってしまっている。
厳密に言えばログイン自体は出来るだが、能力に目覚め無意識下でシステムに干渉してしまう私があの世界で活動すると、ちょっとした理由からシステムを上書きしてしまい、それがイレギュラーなバグや世界崩壊の切っ掛けになってしまう可能性が出て来たのだ。
ちょっと躓いた拍子に世界崩壊だなんて冗談にもならない。
勿論、ファイさんも私も、再びログイン出来るように頑張っている。
まずレキに関しては、人がゲーム内アバターにログインするように、ゲーム内にモンスター用のログインアバターを用意するという手法をとる事になった。
ただ、モンスター型AIを別のモンスターにログインさせるという試みは未だかつてされた事がなく、人用のログインシステムをそのまま流用とはいかなかった。けれど、今はファイさんによってその技術もほぼ確立され、今は私がログイン出来る様になる日に合わせてアバター調整や不具合調査などが行われている。
問題は私だ。感応能力自体が未知と不可解の塊である為、ファイさんでもシステム側から完全に制御という事は不可能だと宣言されている。……しかも、この問題はプログレス・オンラインに限った話ではないのだ。
フルダイブシステムが使われている物全てにおいて、私の感応能力が作用する事は既に確認されていて、この能力を自身で制御出来る様にならないと全てフルダイブ関係の物が使用出来ない事になってしまう。
今後フルダイブシステムは更に普及し、色々な所で活用される事は目に見えている現状、この状況はあまりにもマズい。
その為、ファイさんが私の訓練用に作ってくれた専用サーバーを使って、能力を意識的に制御出来る様に訓練を続けている。
その過程で何度かシステムダウンを起こし、ファイさんには労力的にも費用的にも中々の負担を掛けている……のだが。
「ナツ君という最高の被検体を使って調査・実験を継続できるのだ。この程度の負担、どうという事はない」
と言われ、掛けてしまっている負担について悩むのを止めた。まぁ、持ちつ持たれつの関係だと思おう。
最近、リアルでも何となく相手の言っている事が嘘なのか本当なのか分かるようになって来たり、他にも……あ、いや、この事は忘れようと決めたのだった。
こんな事、何かの間違いでファイさんの耳に入った日には、リアルでも人体実験の日々になりそうで怖い。
まぁ、そんなこんなでファイさんの献身により、少しずつではあるが再びあの世界に行くための準備を整えていた。
ちなみに、パルやモカさんやクロとはビデオ通話の様な形で会っており、今はロコさんに一時的に預かって貰っている。
出来れば皆ともARを使って一緒に暮らせたら良かったのだけれど、現在開発中のARデバイスはまだ複数体のペットを扱える段階に入っておらず、一応技術的には可能だがどんな不具合が出るかまだ検証しきりていないと言われ、ペット達の安全も考えて今の形となった。
――だけど、それも今日までだ!
「ナツちゃん、遂に明日だね♪ 明日は何処からログインするの?」
「えっと、明日はプログレス・オンラインの本社の方へ向かって、そこでレキのアバターの最終調整。そして、そのままログインという感じになりますね」
「おぉ~、本社からログインなんて正にVIP待遇。明日は皆お仕事をお休みしてログインする予定だから、一日中パーティーだね! 明日の為に沢山の料理も用意しているのさ♪ ……ロコっちが」
今日のお仕事も終え、楽屋でミシャさんと明日の事について話している。そう、遂に私の訓練も完了し、ログイン出来る日が来たのだ。
この日が来るまでに2年という年月を費やした。感応能力の制御はとても難しく、あの世界に再び行ける日は本当に来るのだろうかと不安になったりもしたが、それでも挫けず努力を続け、遂にこの日が来た。
――早く皆に会いたいよ。
……
…………
………………
翌日、レキのアバターの最終調整を終え、プログレス・オンラインへのログインを開始する。
緊張で胸がバクバク言っている。この日が来るのをずっと待ち焦がれていたのだ。それも無理からぬ事だろう。
ログイン後、ゆっくり目を開けると、そこはギルドハウス内の私の部屋だった。
――ミシャさんに協力してもらって家具を買い揃えて、ロコさんに協力してもらって整えた部屋。……懐かしすぎて、早くも泣きそうだよ。
ベッドやテーブル。そしてレキ達の寝床を撫でながら思い出に浸る。しかし何時までもこうしてはいられないと、私は一緒にログインしたレキと共に部屋を出て、会議室へと向かった。
あの会議室ではよく皆で集まって、バグモンスター対策会議や単純に皆とのお喋りの場として使われていた。そして今は、皆が先に集まっているはずだ。
会議室の扉の前に到着し、その扉に手を掛ける。そして一度大きく深呼吸をしてから、ガチャリと扉を開けた。
扉を開けた先には皆が居た。
ロコさん、ギンジさん、ミシャさん、シュン君、ルビィさん、ファイさん。そしてパルやモカさんやクロも勿論居る。
そしてそこには予想外の人も居た。ロコさんの親友であり、私にモカさんを託してくれたリンスさんに、今では同じ事務所の先輩であるロロアさんだ。
広いテーブルには豪華な料理が敷き詰められ、ロコさんが存分に腕を振るってくれたのが分かる。
そんな光景を見て、私は目に涙を溜めながら、皆に会ったらまず最初に言おうと思っていた言葉を思い出す……。
「ただいま戻りました」
「ワフッ♪」
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読者の皆様、本作を最後までご愛読いただき誠にありがとうございました。
処女作でありながら、60万文字オーバーの長編となってしまった本作を書き切れたのは、何時も本作を読んで応援やコメントをしてくれた読者の皆様のお陰です!
執筆活動を開始するにあたり、極力毎日投稿を続けて読者様を待たせないようにと10万文字分のストックを行ってからの投稿開始だったのですが、後半はそのストックも切れて度々お休みを頂く形となってしまいました。
ですが、それでも9ヶ月間ほぼ毎日投稿し続けてこれたのは、本当に読者の皆様のお陰だと思っております><
後半はかなりギリギリだった所為で誤字脱字も多く、指摘して頂ける読者様方には本当に助けられました(汗
本当はもっと伝えたい感謝の気持ちがあるのですが、完結の後にあまり作者が喋り過ぎるのも蛇足だと思いますので、伝えたい気持ちをグッと抑え、ここまでにしたいと思います!
改めまして、本作を最後までご愛読頂き誠にありがとうございました!
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