206. 最後のピース

「クゥゥゥウウン!」


 私の目の前で巨大な鹿のバグモンスターが倒れ、そして黒い光の粒子となって霧散していった。

 このモンスターはビリディアという名前で、あのハイエンスドラゴンやメナスガーヤカと同格の強さを持っているボスモンスターだ。

 ただし、このビリディアは以前戦ったハイエンスドラゴンのバグモンスターの様に色んなモンスターの能力を吸収していなかったため、バグモンスターとしての強さで言うとハイエンスドラゴンより1段か2段程下がる。


「良くやったのじゃ。この短期間でほんに強くなったのぅ」

「エイリアスの皆のお陰です。……それに、ロコさんとミシャさんの教えのお陰で、私の理想とする戦闘スタイルがやっと形になりました」


 ギンジさんとシュン君の訓練によって、私のステータスは大きく成長したし戦闘の質そのものが大きく向上した。

 その訓練の過程で、ジャージや盾が何着もロストしたし、クロが私の真似をして模擬戦中に奇怪な動きをするようになったけれど、それでも短期間でスキル上げや動作の矯正が出来たのは大きかった。……けれど、それだけでは足りなかった。


 私が手に入れたい力とは『1人で相手を粉砕出来る圧倒的な火力』ではなく『1人で強敵の猛攻を耐え抜ける圧倒的な戦闘継続力』だ。

 スキルが上がり、多様なクリティカル攻撃手段を手に入れた事でキャンセリングタイムを狙える機会が増え、少しずつではあるけれどゲームの仕様に最適化された動きを身に着ける事で全ての行動が1テンポ速くなった。

 だが、それでもハイエンスドラゴンの様な強敵を1人で相手にするには手数が足りず、最後には押し切られて負けてしまうのだ。


 そして、そんなあと一歩なにかが足りない状況を打開してくれたのがロコさんとミシャさんだった。


 ……


 …………


 ………………


「ナツよ、お主はバグモンスターとの戦いにペットを出す気は無いのかえ?」


 それは、最近恒例となった私の戦闘風景を収めた動画の鑑賞会をしている時の事だった。

 その動画を観ている最中に、ロコさんから何気ない風にそう質問されたのだ。


「ペットを出すって言うのは、パル達を直接バグモンスターと戦わせるって事ですよね? ……正直、あまりしたく無いとは思っています」


 1度死ぬと生き返る事が出来ないペットを、バグモンスターと戦わせるリスクは大きい。

 勿論、ロコさんはそのリスクを背負った上で3体のカンストペットによる超火力アタッカーと、ヒーラーやバッファーをも1人で熟すパーフェクトプレイヤーだ。

 けれど私はロコさんのような優れたテイマーではなく、同じことが私にも出来るかと問われれば全く自信が無いと答えるしかなかった。だから、ペットを前面に出す事はなく、私がやられてもペットに被害はない心合わせの指輪を使った戦闘を行っている。


「確かに心合わせの指輪はペットのリスクを抑えられるし強力じゃ。じゃがな、ペットを3体出した状態と、ペット3体と融合した状態のどちらが強いかと聞かれれば確実に前者じゃ」


 数は力だ。だからこそ多くのプレイヤーは個人としての戦闘能力を高めてソロプレイをするのではなく、パーティーを組んで自身の役割を全うする事を覚える。

 これはテイマーである私にも言える。心合わせの指輪で自己強化して戦うより、ペット3体を表に出してパーティーの戦いをした方が、戦略の幅も広がるしお互いの動きをフォローし合えるので戦闘継続力も上がるのだ。

 それに、心合わせの指輪はペットの全能力を受け取れる訳じゃ無い。受け取れるのは5割分のステータスと、能力に関しては1体につき1つだけだ。つまり、総合力的にも3体を表に出した場合と比べて激減する。


 ――それでも……。やっぱり皆を直接バグモンスターと戦わせるのは怖い。


「わっちもテイマーじゃから、お主の気持ちも分かる。……じゃから、ペットの安全性を確保した上でペットと共に戦える方法をわっちと一緒に考えんか?」

「っ!?」

「わっちはある程度熟せるが、元々プログレス・オンラインには近接共闘型テイマーというのは少ない。近接戦が得意なテイマーが少ない故、心合わせの指輪を実用しておる者も少なかったのじゃ。これはつまり、この分野の立ち回りがまだまだ成熟しておらず、工夫の余地があると言う事でもある」


 テイマーはペットの安全性を確保するのが重要な課題な為、白魔法や黒魔法をカンストまで上げている人が多い。

 そして近接戦闘を自身が行うとペットのサポートが疎かになってしまう危険性が高まるので、そういった理由もあって『テイマー自身は戦わずにペット支援のみを行う完全支援型テイマー』か『完全支援型に+αで魔法や弓などの遠距離攻撃を行う遠距離共闘型テイマー』が殆どなのだ。


「パル達の安全性を確保した上で一緒に戦える方法って……私に出来るでしょうか。私は常に敵に張り付いているような戦い方ですし、ロコさん程あれもこれも同時に出来るような器用さも無いですし……」

「それは分からん。じゃが、出来ぬと断言出来る判断材料も持ち合わせてはおらん。……お主はこれまで多くの者から戦い方を教わって来た。そして今、お主は自分の理想とする戦い方を身に着けようとしておるのじゃ。ここらで1つ、テイマーとしての自分独自の立ち回りを作り出しても良いじゃろう」


 テイマーとしての自分独自の立ち回り。それは私のテイマー心に強く響く言葉だった。

 そして私はロコさんの提案に頷き、ロコさんの協力の下で私独自の立ち回りを研究する事になった。


「最近、ナツちゃんへの訓練がみんな極まってるねぇ~。……よし、なら私もナツちゃんにとっておきの奥義を教えちゃうよ!」

「とっておきの奥義ですか?」

「そう、とっておきの奥義! 自分のポテンシャルを好きな時に安定して引き出せる技術さ♪」

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