196. 私はガチ勢になる! 2

 レキを取り戻すためにも、決戦日に向けてどんどん強くなろうと頑張っている私だけど、それだけを追求してしまうと息が詰まってしまう。

 私が決めた私の生き方とは『全部を諦めない』という事なのだ。……つまり。


「ふわぁ~。高性能なデバイスのお陰で、ロコさんのペット達も魅力300%増しですね!」


 私は癒しを求めて、全力で蕩けていた。


「うむうむ、そうじゃろう。わっちの子らは皆可愛いからの!」

「はい、可愛いです。私の子達も可愛いですけどね!」


 今私は、新しいデバイスを通してロコさんのペット達と触れ合う為に、ロコさんのプライベートエリアへとお邪魔していた。

 そしてやはり次世代デバイスの性能は凄まじく、どの子達も今まで以上に魅力的で、もはや光り輝いているようにすら見えた。


「……少し安心したのじゃ。先日のファイの話を聞いたナツが、とてもやる気に満ち溢れているように見えたからの。無理をせんかと少し心配しておった」

「そうですね……。正直に言えば、こうしていて良いのかなって葛藤は少しあります。決戦日が何時になるか分からないですから、今は少しでも時間を無駄にしないで頑張らなきゃいけないのかなって考えもあるんです」

「そうじゃろうな。特にお主の場合、レキの事もあるからの。余計にそういう考えも強いじゃろう」

「はい。……でも、私決めたんです。レキを取り戻して、バグモンスター事件も解決する。でもそれだけじゃなくて、この世界をしっかり楽しもうって、欲しい物を全部諦めないって決めたんです」


 私がそう言うと、ロコさんは「強欲じゃの」と楽しそうに笑った。

 それからは、私とロコさんとペット皆で遊んだり、おやつを食べたりしながら過ごした。


「そういえば、ロコさん。ガチ勢ってよく聞くんですけど、ガチ勢って具体的にどういう人達の事を言うんでしょうかね?」

「なんじゃ、藪から棒に」

「いえ、先日ルビィさんから、私はもう立派なガチ勢だって言われたんです。それで、もしかしたら私はもうガチ勢なのかなとも思ったんですけど、よく考えてみたらガチ勢ってどういう人の事を言うのか具体的な所を知らないなと今ふと思ってしまって」


 それは、本当に何のことは無い素朴な疑問だった。

 ネットゲームをやっているとよく聞く『ガチ勢』と『エンジョイ勢』。言わんとする事は分かるし、ニュアンスで大体分かるのだけれど、いざ自分がそうなのかと考えると「あれ? ガチ勢の定義って何なんだろう?」となってしまうのだ。

 私がそんな疑問をロコさんに投げかけると、ロコさんは腕を組んで「う~む」と悩みだした。


「そうじゃのぅ~。改めて聞かれると答えづらいのじゃが、恐らくここら辺の定義は人それぞれなのじゃ。わっちから言わせてもらえば、エンジョイ勢に毛が生えた程度の者でも、別の者から見るとガチ勢に分類される事もよくある話じゃしの。……わっちの定義から言えば、リアルとゲームの境界線があいまいな者の事じゃろうか」

「リアルとゲームの境界線があいまい……。あぁ、何となく分かります。その定義だと、私は結構前からガチ勢でしたね」

「まぁ、これはあくまでわっちの意見じゃがの。他にも『事前に調べる事が出来る者』『効率を求めて努力出来る者』『長期間情熱を傾ける事が出来る者』なども言えるかもしれん」


 それからロコさんは、初代ハイテイマーズのギルドメンバーに居たエンジョイ勢の話を聞かせてくれた。

 ネットと使って自分で調べようとしないから、何時まで経っても知識が初心者レベルの人。効率の良いレベリング方法を教えても何故かそれ通りに出来ず、やきもきさせる人。早々に飽きて引退していった人。

 その後も、ロコさんは楽しそうにガチ勢やエンジョイ勢の面白エピソードを教えてくれた。


「あぁ、あと1つ明確にガチ勢とエンジョイ勢を別けるポイントがあったのぅ」

「ガチ勢とエンジョイ勢を別けるポイントですか?」

「沼を楽しめるかどうかじゃよ」


 沼。それには沢山の意味が込められている。

 作業ゲー、死に覚えゲー、効率の追求、課金。ゲームを続けて行くと、そういった様々な底なし沼がプレイヤーを待ち受けている。そこでどういった反応を示すかが、プレイヤーによって大きく異なるのだそうだ。

 私もこれまで、延々と単調作業を続けるスキル上げやペットのレベリングをやって来たし、師匠達の厳しい訓練も耐え抜いて来た。そして今では、最効率を求めてリアルでも調べものをしたりゲームでの計画を立てたりしている。

 そしてそれらは大変だったけれど、その作業の中で確かに私は楽しみを見出していた。


「どうも私は、結構前からガチ勢だったみたいですね」

「はっはっは。そうじゃな。人間、ただ辛いだけの事は長く続けられんものよ」

「そういう意味では、ゲームを続けられている人は全員エンジョイ勢とも言えますね」

「まぁ、そうとも言えるの。元々ガチ勢もエンジョイ勢も境界線はあやふやな物じゃ。結局の所、そやつの認識次第という事じゃな」


 私は今までのゲーム生活を思い出しながら、結論を出した。


「じゃあ私はガチ勢って事にします。ガチ勢は辛かったり大変だったりする事も含めて、この世界を楽しめる人って感じがするので」


 笑いながらそう宣言し、私はガチ勢となった。

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