113. 新たな連携
昨日は散々な目にあった。正しい構え、正しい体の使い方でなければ伝わる力が半減するからと、地獄のフォーム矯正が行われたのだ。
悪い所があれば即座に指摘が入り、正しいフォームで受けたり動いたりしなければ対処出来ないような攻撃が怒涛の様に飛んでくる。私はテイマーとしてゲームをしていたと思うのだが、どうやら私は間違って何処かの武術道場に迷い込んでいたらしい。
訓練の後はもうダンジョンでスキル上げする元気もなく、部屋でペット達にもみくちゃにされながら癒されていた。
頭の上でレキに髪を食べられながら、首にパルが巻き付きひんやりし、モカさんをぎゅっと抱きしめる。私はプログレス・オンラインで一番幸せなテイマーかもしれない。
そんなテイマーの特権とも言うべき癒しを存分に満喫し、今日の訓練へと挑む。今日はロコさんが指導してくれる予定で、訓練内容は料理ではなくペットとの連携訓練らしい。
……
…………
………………
「うむ、これで準備は整ったの。危ない時は助けに入る故、思いっきり戦ってくるのじゃ」
「……いや、いきなり過ぎません!?」
私達は今、上位バフ食材集めやパワーレベリングでお馴染みの『猛威の樹海』に来ていた。そして目の前に居るのは巨大なトラであるメナスタイガー。
そう、以前までロコさんが動きを完全に封じた上でチクチク攻撃していたモンスターと、今度は支援無しで戦う事になっているのだ。
「ここ数日でお主やレキとパルも随分レベルを上げておるようじゃし、今はレベル100のモカさんまでおる。連携の仕方さえ覚えてしまえば問題はないはずじゃ」
「なんだか指導方法が一気に変わりましたけど……ギンジさんにまた何か言われました?」
「……まぁ、指導方法について少し相談はしたのぅ」
今までロコさんは極力リスクを取らない形での指導をしていたのだが、ここにきて大きく指導方針が変わっていた。どうやらそれは、あの戦闘狂が裏で暗躍していたようだ。
「じゃがギンジの話は抜きにしても、今までのやり方では駄目じゃとはわっち自身思っておったのじゃ。今のお主達にとっては強敵じゃが、決して勝てない相手ではない。それに危ない時はわっちが絶対に助けに入る故頑張るのじゃ」
「……分かりました。ご指導の程よろしくお願いします!」
リンスさんと再会した一件から、ロコさんの雰囲気はどこか違っていた。リンスさんは結婚や出産というリアルの事情から引退する事になったが、それら事情が落ち着いたらまた復帰する可能性もある。なのでロコさんは、この世界を守る為に頑張っているのかもしれない。
勿論そこには私のことを守ろうとする思いやりがあることもしっかり感じている。だから私はそれに全力で答えよう。
現在目の前に居るメナスタイガーはロコさんとペット達からの大量のデバフによって動けなくなっている。けれど、デバフの重ね掛けはもうしないのでもうすぐ動き出すはずだ。つまり、それが訓練開始の合図になる。
「今まではナツが避けタンクとアタッカーを兼任し、レキがバッファー兼マナシールドによるサポート、パルが遠距離アタッカー兼デバッファーをしておった。じゃが、パルはレベル不足でアタッカーとして機能しておらんかったし、レキも中途半端な支援しか出来ておらんかった」
そう、それが私達の弱点だった。レベル不足はすぐに解決できる問題では無かったため仕方が無かったのだが、結果としてほぼ私が1人で戦い、レキとパルが後方から小さな戦闘支援を繰り返す形になっていたのだ。勿論それでも私は大助かりだったのだが、慢性的な火力不足で1つ1つの戦闘が長引いてしまっているのが実情だった。
「じゃが今はその状況が大きく変化しておる。ナツのスキルレベルは勿論、レキやパルのレベルも上がって来ておる。そのお陰でナツは避けタンク兼任アタッカーという役割を前以上に熟せるようになっておるし、パルも曲がりなりにも遠距離アタッカーと呼べるものとなった」
「ワフッ!」
「そうじゃな。レキもレベルが上がり支援職として前以上に活躍出来るようになったのぅ」
レキもパルもダンジョンでのパワーレベリングを経て大きくレベルを上げ、新たな魔法を覚える事が出来た。これで今まで中途半端だった連携での役割がしっかり熟せるようになったのだ。
「そして今のお主達にはリンスから託されたモカさんが居る。モカさんの火力は下手な上位陣プレイヤーをも軽く凌駕しておる故、連携によりしっかりと使いこなせれば、お主らの戦力は何倍にも膨れ上がるはずじゃ。比喩でも誇張でもなくな」
「はい、頑張ります!」
モカさんはリンスさんから託された大切な家族。その想いに応える為にも私の気合いはMAXだ!
「さて、前置きが長くなってしもうたの。まずはステップ1じゃ。……ナツ1人でメナスタイガーの猛攻を耐えよ」
――あのリスクマネジメントの鬼であるロコさんをスパルタ指導の鬼にしたのは一体誰だ! ……半裸の戦闘狂だ!!
私はギンジさんを軽く恨みつつ、デバフが解けてのっそりと起き上がり始めたメナスタイガーに意識を集中した。
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