107. シュン君の強さ
シュン君から蹴りの戦い方を教えて貰った後も訓練は続き、私はシュン君から様々な視線誘導や相手をかく乱するテクニックを教えて貰った。……その身に叩き込まれながら。
一気に距離を詰められ、私は咄嗟に防御の構えを取る。すると足を踏まれ体勢を少し崩してしまう。その後は流れるような蹴りの連続で為す術なく地面に沈む。
「相手との距離が近づく程、注意出来る範囲は狭まります。特に手の届く距離で相手の足元に注意を向けるのは至難の業です」
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全く予想していないタイミングでの蹴りの応酬。モンスター戦では攻撃の際の予備動作が分かりやすいので、予備動作を覚えてしまえば対応はしやすかった。けれど、シュン君の予備動作はとても小さく、更には予備動作が全くない時すらあった。
「人は不思議なもので、考えなくても無意識に相手の上半身の動きから下半身の動きを予測することがあります。なので、モーションから次の動きを予測されないようにする必要があります」
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回避スキルによって私の反応速度は高められ、知覚される時間はゆっくりになっていく。そんな間延びされた世界の中で私はシュン君に注視する。
シュン君の目が細められた。それと同時に距離を詰められ、私は身構える。けれどそこでシュン君は動きを止め表情を緩める。……次の瞬間、警戒心を少し緩めてしまった私の隙を突いて綺麗に一撃を受けてしまう。
「人は相手の表情から多くの情報を読み取ろうとする癖があります。それによってこちらの狙いがバレることもありますが、逆に相手の意識を誘導することも可能です。あと、警戒心というのはいつまでも高く保つことは出来ません。一度警戒し、それが空振ると警戒レベルが一段階落ちます。つまり相手の警戒心のタイミングがズラせるんです」
*
今度こそはシュン君の攻撃をきっちり捌いて見せると気合を入れる。するとシュン君は予想外の行動に出て来た。なんと掴みかかって来たのだ。
一瞬その予想外の動きに固まってしまったが、私はすぐにそれに対応しようと行動に移す。……そこに足払いからの強烈な蹴りを受け、私はノックバックで軽く後方へと吹き飛ぶ。
「相手を警戒している時、特に手を警戒します。ナツさんの様に短剣を両手に持っているなら尚更です。なので、その手を使って相手の意識を誘導して隙を作ることが出来ます」
……
…………
………………
「今日はこんな所ですね。ナツさんの蹴りスキルの上がり具合によって今後は技能も絡めていきますので、ナツさんはモンスターとの戦闘で蹴り技能の使い方に慣れていって下さい」
「ゔ~……了解。シュン君本当に強いね。本当に全然攻撃を捌けなかったよ……」
「単純に経験の差ですよ。僕はこれまでソロで戦ってきましたから、こういった小技を覚えていかないといけなかったんです。それに普通のプレイヤーはこういった戦い方をしませんから、対応出来ないのも仕方ない事です」
シュン君は経験の差だと簡単に言うが、現状10人も居ない二つ名を得ている時点でそれだけでは無いことは明白だ。
「そう言えば、この心理戦の戦い方ってモンスター相手に通用するの?」
「それがするんですよ。と言うよりプレイヤー相手より有効だったりします」
モンスターに搭載されているAIは正に生き物としての思考を完全にトレースされているそうだ。その為、警戒すれば視野は狭くなるし、視線誘導や意識誘導、警戒のタイミングを意図的にズラすことすら可能らしい。
シュン君の言うにはプレイヤーより素直に誘導されて動いてくれるらしく、プレイヤー相手より余程戦いやすいそうだ。
今日の訓練は終わりとなった為、私はシュン君と別れてスキル上げ用ダンジョンへと向かった。
――私の蹴りスキルが上がっていくと今日の訓練に技能技が追加で飛んでくるのかぁ……慣れてくれば本当に捌けるのかなぁ。
今日はシュン君の強さを文字通り痛いほど知ることができ、今後の訓練レベルが更に上がっていくことに小さく身震いした。
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