4章:やるべき事が分かったから

97. 新しい家族と手狭になった部屋

「と言うことで、私達に新しい家族が加わりました! カウントベアーのモカさんです。はい、みんなご挨拶」

「ワフッ」「パルゥ」


 ――うん、みんな可愛らしくて大変結構!

 

 レキ、パルに引き続き、新たな家族としてモカさんが加入した。モカさんはなんとレベル100のカンストペットで、1対1で戦ったら私達の中で一番強いのがこの子だろう。……きっと私はワンパンで沈む。


「モカさんもよろしくね♪」

「くまぁ♪」

「かわっ!?」


 ――どうしよう。モカさんが可愛すぎて心臓が痛い! 今「くまぁ」って鳴いたよ「くまぁ」って!


 何というメルヘンチックなクマなのだ。新しい主人になったばかりなので遠慮していたが、もう思いっきり抱きしめてもいいだろうか?

 他人のペットを譲り受けることが初めてで、私のことをテイマーとして認めて貰えるだろうかと心配していたが、この様子なら問題は無さそうだ。


 今回リンスさんのペットを譲り受けることに関して、事前にロコさんから注意点を聞いておいた。ロコさんの言うには、ペットを譲り受けた際にペットが新たなテイマーに慣れる速度は『ペットの性格』『躾け具合』『元のテイマーとの友好度の高さ』などが起因しているらしく、その点で言うとモカさんはとても譲り受けやすいペットらしい。

 元々課金ペットは通常ペットより躾け難易度が低くテイマーとの友好度を上げやすい仕様となっており、尚且つリンスさんはモカさんをとても可愛がっていて、レベルをカンストさせている間に相当友好度を高めていたようだ。


 さて、モカさんとは仲良くやっていけそうな感じではあるものの、現在私には大きな問題が生じている。……家が狭いのだ!


「う~ん、どうしようかな。流石にここで3匹と1人は厳しいよねぇ。……今後レキ達を成体にするかの問題もあるし」


 テイマーになってそこそこ経験を積んで来た私だが、実はペットについて基本的な知識が足りなかったということが今回判明した。きっかけはそう、モカさんだ。

 モカさんはレベル100とカンストしているのにも関わらず幼体のままで、レベルが一定以上に達したら成体になると勝手に思い込んでいた私は、すぐにペットの成長について調べた。そして調べた結果、2つの重大なことが判明したのだ。

 

 1つは、ペットはただレベルを上げるだけでは成体になることはなく、ペットの種類毎に専用のアイテムを使うことで成体に成長するらしいという事。

 2つ目は、幼体と成体にはそれぞれメリット・デメリットが存在し、テイマーはそれらを加味して自身のペットをどうするかを考えなければならないという事だ。そしてそのメリット・デメリット要素というのが『コスト』と『特殊技能』である。

 成体になると単純に食べる量が大幅に増える為、コンスタントに掛かる維持コストがかなり増える。けれど、成体になるとペットの種類毎に特殊技能が使えるようになるのだ。例えばレキは生体になると騎乗することが出来るし、パルに乗って空を飛ぶことも出来る。ちなみにロコさんのペットである白亜の狐火も特殊技能になる。


「リンスさんは可愛さ重視で幼体のままにしていたらしいから、そういう考え方で幼体のまま育てるのもありだよね~。……でも、パルに乗って空を飛ぶのも捨てがたい」

「パルゥ?」


 急に自分の名前を呼ばれたパルは、首を傾げてクリクリお眼目でこちらを見つめていた。可愛い。

 話を戻すと家が狭い問題をどうするかだ。今住んでいる初期部屋が狭くなってきたので、単純にもっと広い部屋に移り住むのもありだけど、今後ペットを成体にするのであればロコさんのように庭付き一軒家もありだろう。

 ロコさんのプライベートエリアのような場所でみんなと楽しく過ごす様子を想像した私は、そのあまりの幸せな想像に心が躍り出した。


「……よし! ひとまず商業組合に行って部屋や家の値段を調べよう!」


 そう思い至った私は、レキ達を連れて商業組合へと向かった。何故サモンリングにしないのかって? この可愛い子達と一緒に歩きたかったからという理由以外はとくに無い!

 レキは頭の上、パルは両肩に跨って乗っていたが、モカさんは乗ったり持たれたりするのがあまり好きではないらしく、私の隣りをてくてくと歩いている。……可愛い。はぁ、これが幸せってやつか。


 3匹のペットに囲まれる幸せを噛み締めながら歩いていると、気が付いた時にはもう既に商業組合へと着いていた。建物の中に入った私はまず受付へと向かう。


「すみません、プライベートエリアのアップグレードについて教えて欲しいのですが」

「プライベートエリアの賃貸情報であれば、あちらの階段を上った先が専用受付となっております」


 私はその案内に従い、プライベートエリアの専用受付へと向かった。そこには様々なタイプの賃貸情報が掲載されており、プレイヤーはここから自分の好みに合うプライベートエリアを選んで契約するようだ。


「ロコさんの家みたいな所だと月いくらするんだろう? 広い庭……大きな一軒家……広いキッチン……うそっ!? 月々4M!!」


 4M、つまりこの世界での家を維持するのに月々4万円相当のゲーム内マネーが必要だということだ。私はそのあまりの金銭感覚に眩暈がして……そして私の要望を叶える賃貸がいくらなのかと恐怖した。

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