91. 頼もしすぎる仲間たち

「ギンジが取り巻きを釣って来る間に、わっちらの役割分担を決めてきめておくとするかの」

「そうだねぇ。と言っても大体はもう決まってる感じじゃないかな? ギンジ君が避けタンク、ロコっちがバッファー兼ヒーラー、私は歌って小突いて罠三昧かなぁ」


 ――流石サプライズボックスのミシャさん。隣りで聞いていても全く意味が分からない。


「ナツよ、恐らく今のパルのレベルではダメージが通らん。じゃから、基本レキはバッファーとして、そしてパルは行動阻害役として行動させるのじゃ」

「分かりました。……えっと、レキのマナシールドとかは必要ないですか?」

「うむ、今回は必要ないの。このエリアのモンスターにとっては紙同然じゃし、砕けたマナシールドの残滓が逆に味方の邪魔をする可能性もあるからの」


 そうして大体の役割分担と私の立ち回り方が決まった所で、丁度ギンジさんが1匹の巨大な蟻を連れてきた。


「おし、準備は万端みたいだな。こいつはヒーラータイプで他の奴より比較的ダメージが通りやすい。最初の相手には丁度いいだろう」

「うむ、気が利くではないか。褒美に少し癒しといてやろう」

「いや、褒美じゃなくてもガッツリ癒せよ!」


 そんなコントを挟みつつもエイリアスの初陣は始まった。


 ……


 …………


 ………………


「……うん、知ってた。二つ名持ちってプログレス・オンラインが始まって以来まだ10人も居ないんだもんね。……そんな二つ名持ちが集まれは、そりゃあこうなるよ」


 一軒家程に大きい蟻は今、お尻を割られ、全身をネバネバで拘束され、昏倒していた。


「レジェンダリー・アントプリースト相手にこの人数は要らんかったのぅ」

「つっても、ナツが分身することはねぇんだ。もう1匹引っ張って来ても仕方ねぇだろ?」

「でも、なんか戦力過剰過ぎて勿体ないのも確かなんだよねぇ。正直、ギンジ君が要らない」


 私はそんな緊張感の無い3人の会話を聞きながら、ひたすら巨大蟻の割られたお尻にバックスタブを叩き込んでいた。


 何故こんなことに成っているのかを説明する為には、この二つ名持ち達が何をしていたのかを説明する必要があるだろう。

 まずロコさんは私とギンジさんに各種バフを掛け、蟻に物理防御耐性低下のデバフを掛けた。ギンジさんはロコさんとミシャさんの準備が出来るまで蟻のヘイトを稼ぎ、迫りくる攻撃の数々を刀一本で受け流す。そしてミシャさんは……歌って小突いて罠三昧だ。


 より詳しく説明するとミシャさんは歌唱スキルという物を持っていて、そのスキルは広範囲の味方にバフを掛け、敵に行動阻害やデバフを掛けるなど、白魔法と黒魔法を合体させて攻撃系統の魔法を抜いたような代物だった。そして、その歌唱スキルによって敵は魔法を封じられ、私は筋力に追加バフを受ける。


 次にミシャさんは身の丈サイズの大きなハンマーを取り出し、アーマーブレイクという技能を乗せて蟻のお尻を叩いた。この技能はダメージ量を犠牲に相手の物理防御耐性低下のデバフを与えるもので、これによって蟻は更に防御力を低下させる。ちなみに、一部モンスターでは甲羅や外骨格が割れるエフェクトが発生するようで、それによって蟻さんのお尻は可哀そうなぐらいヒビだらけになっている。


 最後に罠三昧だが、正直これが一番可哀そうだった。ミシャさんが何か煙玉の様な物を蟻の顔に投げつけると、途端に蟻は悲鳴を上げて暴れまわった。その後も次々と色んなアイテムを投げては、お尻の割れた蟻さんは転げまわり、ネバネバまみれになり、酔っているのか奇妙な歌を歌い出した。


「普通は私のスキルレベルじゃこんなに効かないんだけどね。ロコっちの精神耐性低下デバフと運営からの物資提供の賜物なのさ♪」


 その結果、私は複数のバフにより筋力と機動力が超強化され、蟻は様々なデバフを受けて今やただの置物状態だ。


「仕方ねぇ。俺は身を隠しながらバグモンスターの捕食を邪魔してくる。それで少しは時間稼ぎが出来んだろ」

「うむ、こっちが片付いたらコールを掛ける。そうしたら、蟻をまた1匹連れてくるのじゃ」

「へいへい。じゃあ、ちょっくら行って来るわ」


 それから40分程掛けて何とか私1人の火力で巨大な蟻を倒しきることが出来た。いくらバフ・デバフでステータス差を多少縮めることが出来たと言っても、やはり本来私が戦えるような相手ではない強敵。1匹倒すのにかなり時間が掛かってしまったが、そのお陰で茨の短剣はかなり火力を増した。

 そしてその後、ギンジさんから更に1匹引っ張ってきてもらい、先ほどと同じやり方で2匹目の可愛そうな巨大蟻が出来上がる。


「女王蟻を食い終わって、今取り巻き連中を捕食し始めてんだが……バグモンスターの様子がどうもおかしい」

「もう少し詳しく話さんか。いったいどう様子がおかしいのじゃ?」

「……バグモンスターから女王蟻の羽根が生えた。あいつは食った相手の能力を吸収出来るのかもしれねぇ」

「うわぁ……じゃあ、あいつ子蟻召喚してくるじゃん。……召喚された子蟻までバグモンスターだったらどうしよっか」


 子蟻召喚という言葉を聞いて、私は小さな蟻がわらわらと四方八方から襲い掛かってくる様を想像してしまった。……そんなのを見た日には絶対に夢に出る自信がある。


「あ、あの。その子蟻ってどのくらい出て来るんでしょうか? あと、強さはどのくらいなんですか?」

「わらわらと湧いてくるが、強さ自体は大したこと無いのぅ。言ってしまえば女王蟻のおやつじゃな」

「おやつ?」


 私は蟻への攻撃の手を止めずにロコさんの説明に耳を傾ける。

 女王蟻の子蟻召喚、それは正におやつだった。女王蟻を守る取り巻きをすべて倒すと、女王蟻は広範囲に子蟻召喚の魔法陣を複数展開する。召喚された子蟻は大型犬ぐらいのサイズで攻撃力や防御力は高くないがHPが高く、そして女王蟻に食われる事で女王蟻専用の回復薬となるそうだ。

 通常、この魔法陣が展開されたらすぐに手分けして展開された魔法陣を壊して回らなければならないのだが、バグモンスターがこのまま捕食し続けて更に強化されてしまうと、手分けして行動出来る程の余力があるかどうかが怪しくなる。


 ――でもこれって……。


「あの、これは単なる思い付きなんですけど、……みたいなことって出来ないでしょうか?」


 私はその子蟻召喚ギミックの詳細を聞いてから、そのギミックを逆利用する方法を思いついた。けれど、絶対出来るという自信は無いため恐る恐るという感じで話してみる。


「……いけるかもしれぬの。いや、この状況に置いて1番合理的な作戦やもしれぬ」

「いいんじゃねぇか? 恐らくどんなにナツが頑張ってもバグモンスターの方が先に食い終わるだろう。なら、現状それしか勝ち筋が無いかもしれねぇ」

「いいね、いいね♪ なら私もとっておきのアイテム使っちゃうよ♪」


 3人から好感触を得ることが出来て、私も一安心した。そして私が提案した作戦を土台に、みんなで更に詳細を詰めていく。


「ナツちゃん、是非立案者として作戦名も考えてみてよ」

「う~ん、そうですねぇ。……では、『無限わんこそば作戦』で!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る