90. バグモンスターとナツのお食事タイム

「どうなってんだ、こりゃ?」

「ワァオ! まるで怪獣大戦争だね!」


 確かにこの光景は怪獣大戦争だ。

 今私達の目の前で繰り広げられている光景、それは……捕食される巨大な女王蟻、その女王蟻を守らんと戦う7体の巨大な蟻たち、そして取り巻きからの攻撃を気にせず女王蟻を貪り食っているバグモンスター化した巨大な蟻だった。


「う~む、どうするかのぅ。今は全ヘイトをバグモンスターが買っておるが、下手に参戦するとバグモンスターを含めた全ての蟻と戦うことになりうるな」

「暫く様子を見て、バグモンスターが全ての通常モンスターを捕食し終わってから戦いますか?」


 何故バグモンスターが女王蟻を捕食しているのかは分からないけど、あの様子だとバグモンスターは全ての蟻たちと戦うことになりそうだ。であれば、その戦いが終わってからの方が楽かもしれない。


「……いや、あいつらのヘイトをバグモンスターが一手に引き受けてくれているのなら、そいつを利用してナツの火力を上げさせてもらおう」

「私の火力ですか?」

「そうだ。あのバグモンスターの素体になってるモンスターなんだがな、かなり頑丈で生半可な火力だとダメージが通らねぇんだ。お前さんの持っている茨の短剣はダメージを通せなきゃ火力が上がらねぇからな。バグモンスターと戦う前にある程度火力を上げておきてぇ」


 私が今使っている茨の短剣は、使用中に持ち主のHPを吸い続け火力を上げていく。そして敵を攻撃してダメージを与えると、更にそのダメージの一部を吸収して火力を上げる効果がある。

 けれど、あのバグモンスターは防御力が高い為、今の私が持つ素の火力ではダメージを与えることが出来ず、自分のHPを犠牲に短剣を育てるしか方法がなくなるのだ。短剣には与えたダメージの一部を持ち主のHPに還元して回復する効果があるが、その効果も役に立たなくなる。


 その後、ギンジさんが立てた作戦はこうだ。

 今バグモンスターに夢中になっている取り巻きをギンジさんの技能を使って1体ずつこちらに引っ張って来る。そして私以外のメンバーで蟻を無力化し、そこを私がひたすら攻撃して短剣を育てるというものだ。やっていることはロコさんとやったパワーレベリングと変わらない。


「バグモンスターが女王蟻を食べ終わったらどうしましょう?」

「そこは状況次第だな。次の獲物に食らい付けば良し。俺たちをターゲットにしたなら、俺がバグモンスターを抑えている間にロコとミシャのサポートを受けながらナツの火力上げを継続するしかないだろう」

「1人でバグモンスターを抑えるんですか!?」

「今回はデータ破壊を防ぐアイテムがあるから問題ねぇ。だが、アイテムの効果は1時間しか持たねぇからそれがリミットだな」


 今回、私達は運営の秘密兵器を渡されていた。それは1時間だけバグモンスターのデータ破壊攻撃を防ぐアイテムで、連続使用は出来ずインターバルに30時間掛かる代物だ。つまり、ギンジさんがバグモンスターを抑える為にそのアイテムを使ってしまった場合、効果が切れれば先に戦闘から離脱することになる。

 ギンジさんが立てた作戦以上の案が私達から出なかった為、即座にその作戦を決行することとなった。


「……ナツよ、恐らく取り巻き連中であっても今のお主では攻撃が通らん。じゃから、今わっちが持っているバフ料理を渡すのじゃ。こいつを食せば一時的に筋力と機動力に補正が掛かるでな」

「……あの、これって」


 ロコさんから渡された物、それは……どこからどう見てもドックフードだった。


「すまぬ……普段ペット用に作ったバフ料理しか持っておらんのじゃ。わっちも何度か試食しておるから、味には問題ないはずじゃ」

「し、仕方ないですよね! 緊急事態ですし……実は私、ちょっと気になって昔ペットのドックフードを食べたことがあるので、今更です!」


 申し訳なさそうな顔をするロコさんに「ドックフードなんて嫌だ」なんて言えるはずもなく。私は気合を入れて、乾燥して硬めのドックフード型バフ料理をボリボリ食べた。……うん、流石ロコさん。味は悪くない。かなり硬いけど。


「はっはっは。心配すんな! 今から大物モンスターを何体も食えるんだから口直しには困らねぇよ。なんなら、バグモンスターから横取りして女王蟻も食っちまえ」

「そんなの口直しになりませんよ!」


 けれど現実問題、バグモンスターと私の早食い勝負なのは間違いない。バグモンスターが他モンスターの捕食で強くなるのかは分からないが、少なくとも私はどんどん攻撃して火力を蓄えていかないと勝負にならないのだ。


「準備出来ました! 何時でもOKです!」

「了解だ。じゃあ、ちょっくら取り巻きの蟻を釣ってきますか」


 そう言ってギンジさんは1匹の巨大な蟻のヘイトを奪いに怪獣大戦争の真っ只中へと走っていった。

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