84. 初めてのボス戦
「さて、これからボス戦だが、その前にそいつがどんなモンスターなのか軽く説明しておく」
このゲームを始めて沢山の出来事があったが、何だかんだでこれが初のボス戦だ。私は初ボス戦に気分を高揚させつつ、ギンジさんの説明をしっかりと聞いていた。
これから戦うボスは赤い体毛に覆われたゴリラの様なモンスターらしい。機動力と攻撃力に特化しており、魔法の類は一切使わない。HPが5割を切ると機動力と攻撃力が1段階上がり、3割を切ると更に1段階上がって発狂モードになる。完璧なまでの脳筋ボスだ。
「基礎スキルが全体的にもう少し高ければ枷を着けた状態で良かったが、今の状態では1段階目の強化でついていけなくなるだろう。と言う訳で、手足の枷はここで外しておけ」
「はい、分かりました。……ちなみにここのボスってヘイト無視や全体攻撃はしますか?」
「いや、そういうのは無いから安心しろ。ひたすら目の前のヘイトを持った奴を殴りに来るだけだ」
それなら私がヘイト管理をミスらなければレキやパルが狙われることはない。
私はこれから始まるボス戦の準備の為、まずは手足の枷を外した。次に自分が今出来る強化魔法を全て掛けて、最後にMPポーションを飲んでMP残量を回復させる。
次にペット達を見て、それぞれのボス戦での立ち回りを頭で構築していく。
レキはこの猿洞窟での戦いでレベルを大きく上げて現在45となり、新たにマジックジャミングを覚えた。けれどこの魔法は、魔法耐性を上げる強化魔法なので今回は使い道が無い。なので、基本的にはマナシールドでのサポートがレキの仕事だ。
パルはレベル32となり、新たにアイスランスとフロストバインドを覚えた。アイスランスは敵の足元から氷柱を生やして貫く魔法で、フロストバインドは相手の足を凍らせて行動を阻害する魔法だ。基本的にはアイスブリッドとアイスランスで遠距離攻撃をメインにしてもらい、必要な時に指示を出して行動阻害をしてもらう。
「……よし、行けます!」
「危ない時は俺が割って入るからペットの心配はすんな。思いっきり戦ってこい」
私はそれに頷きボス部屋への扉を開けた。
……
…………
………………
「ゴァァアアア!!!」
「ボスって言うからもっと大きいのかと思ってたけど、意外と小さい。……まぁ、それでも私の1.5倍はあるんだけど」
それはまさに赤い体毛に覆われたゴリラだった。案の定ギンジさんはこのボスモンスターの名前を知らなかったので、赤猿と呼称しておく。
赤猿は侵入者である私達に向かって大きく唸り声を上げる。空気がビリビリと震えるのを感じながら私は気合を入れなおす。
「まずは様子見しながらヘイトを奪う!!」
私は赤猿へと一直線に走りだす。すると「さぁ、来い!」と言わんばかりに待ち構えてきたので、私は更に加速して赤猿へと迫った。
「ガァア!!」
「レキ!」
「ワフッ!」
赤猿は真っすぐ突っ込んで来た私を迎え撃とうと拳を突き出してきたため、レキのマナシールドで私と赤猿の間に壁を作ってもらう。マナシールドの耐久力では赤猿の攻撃を完全に防ぐことは出来ないが、その攻撃速度を減衰させることは出来るし、更にはマナシールドの砕け散るエフェクトで一瞬だが目くらましも出来るのだ。
マナシールドのお陰で出来た隙を使って赤猿の攻撃を躱し、そのまま背後に回り込んでバックスタブを叩き込む。茨の短剣は初期状態の為そこまでのダメージは入っていないが、これで暫くは赤猿のヘイトが私へ向かうはずだ。
「ひゃっ! 意外と大きくないって思ってたけど、腕のリーチが長い! ……じゃあ、これで! ミスト! ネガティブリバース・マインドフォーカス!」
赤猿の機動力とリーチの長さは本当に厄介で、ヘイトを買ったことによる攻撃の連打は避けるだけで精一杯だった。そこで私は、攻撃を躱しながら敵の視界を悪くするミストと、反応速度低下のデバフを与えるネガティブリバース・マインドフォーカスを使った。これである程度避けやすくなるはずだ。
そこからの戦闘は安定していった。何と言ってもこのボスが魔法や特殊技能の類を使わず、2段階の身体能力強化以外は基本的に殴って来るぐらいしかないのが大きい。近接戦闘の基礎が学べる場としては猿洞窟は確かに最適な場だった。
安定戦闘の基本ルーチンはレキのマナシールドによる敵の攻撃阻害、パルの遠距離攻撃や行動阻害魔法で隙を作り、その隙を狙って相手の懐に飛び込み技能を乗せた攻撃。ステータス差が大きいため一歩間違えると一気に窮地に陥ることになるが、今日の私は不思議なぐらい絶好調でミスる気がしない。
基本的には上手くことが進んでいるのだが、1つだけ想定外が起きた。敵の攻撃が激しすぎてポーションを飲む暇がないのだ。今回の卒業試験を受けるにあたり、先日ファイさんから貰ったお金を惜しげもなくつぎ込み各種ポーションを大量に買い込んだのだけれど、それを飲む暇が一切ない。
――どうしよう。バフやデバフの重ね掛けにはMPが必要になってくるし、HPの多いボス相手だと絶対にスタミナが切れる。MP問題があるから、スタミナ回復には魔法を使いたくない……。
ただでさえステータス的に釣り合わない状態で挑みにきているのだ。これでMPが切れてバフやデバフが切れれば勝負にならない。更にスタミナが切れれば一発アウトだ。
色々悩んだ結果、私は1つの打開策を打つことにした。
「ギンジさん、赤猿の攻撃が激しすぎてポーションを飲めません! 何かいい方法はありませんか!」
今回ギンジさんは指導役としてついて来てくれているのだ。積極的に助言を求めてもいいはず。もし駄目だったとしても、その時はそう言ってくれるはずなので問題ない。
「……あぁ、すまん。ノールックでアイテムを取り出すやり方を教えてなかった。どうすっかなぁ……仕方ない、今からやり方を説明すっから、この戦闘中に覚えろ」
――そんな馬鹿な!!
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