83. ギンジさんも驚く急成長

「ナツ……お前さん、本当に格闘家向きの性格してんな」


 新装備を手に入れた翌日、猿洞窟でモチベーションを上げて暴れているとギンジさんにそんなことを言われた。


「格闘家向きの性格ってどんなですか?」

「素直で単純で思い込みが激しくて、そしてテンションがそのまま強さに直結するような奴だな」

「……もしかして今私、馬鹿にされてます?」


 格闘家向きの性格だと言われて褒められている気がしていたのだが、どうも「お前が単純で馬鹿だな」と言われたような気がしてならない。


「褒めてんだよ。お前さん、今2足飛びで成長してんの分かってるか?」

「勿論分かってますよ。だってこの装備本当に凄くて『それはもう聞いた』……ちょっとぐらい聞いてくれてもいいじゃないですか」

「今のお前さん、新車買ったオッサンみたいだぞ」

「ひどい!?」


 装備の凄さを説明しようとしただけなのに、酷い暴言を受けてしまった。……ロコさんに言い付けてやる。


「昔の知り合いにも居たんだよ。高級竹刀買ったら、姿勢とか心構えが変わって急に強くなった奴。今のお前さんは正にそれだ」

「道具のお陰で強くなった訳ではなくですか?」

「確かにいい装備を買ったとは思うぞ? けどな、お前さんの戦い方が変わったのはそれだけじゃねぇ。まず、踏み込みが大胆になった。それだけでも戦い方が大きく変わるんだ」


 ギンジさんの言うには、今までは以前までの避けながら隙を探すスタイルから抜け切れてなくて、どうしても一歩前へ踏み込むのに躊躇している場面が多かったそうだ。それが今日になって一気に改善していて、若干際どい場面でも踏み込める様になっているらしい。

 そしてそれだけでなく、大胆に動けるようになったお陰で狙える攻撃タイミングも増え、戦闘の質そのものが大きく向上しているとのことだ。


 私はその話を聞きながらふむふむと頷いていたが、それはやはり装備の力が大きいと思う。

 最大強化された極視のコンタクトによって反応速度が高まり、相手の動きがゆっくりに見えるようになったのだ。それに攻撃力も大幅に向上したため、攻撃した際のノックバックも大きくなって隙を作りやすくなった。だから私は安心して戦えるし、積極的な行動もとれるようになったのだ。私がそうギンジさんに説明すると、ギンジさんはやれやれという風に首を振り溜め息を吐いた。


「ナツ、世の中の奴がみんな力を手に入れたら積極的に戦えると思うか? 答えは否だ。フルダイブ環境下での戦闘は反応速度が上がろうと、ノックバック効果が高くなろうと、怖ぇもんは怖ぇんだ。もし、他の奴がナツの装備を付けたとして、いきなりそんな大胆な攻め方なんか出来ねぇよ」

「えぇ~、そうですか?」

「剣道でもな、防具を付けていても打たれる時に目を瞑る奴は何年経とうと瞑るんだ。……けどな、一部例外が居る。それが、お前さんみたいに思い込みが激しいタイプだな」


 さっきギンジさんが例に出していた高級竹刀を買った人だが、最初はぺっぴり腰で打たれる時なんか全身縮こまってたのだが、高級竹刀買った途端に姿勢が良くなって打たれる時も堂々とするようになり、打ち込む際なんか凄く活き活きとするようになったそうだ。

 私はその『思い込みが激しい』というのを誉め言葉として受け取っていいのか悩みながらも、とにかく今は先へ進むことに集中することにした。今調子がいいのは確かなので、このままボス部屋まで行ってしまいたい。


 ……


 …………


 ………………


「レキ!」

「ワフッ!!」

「ラピッドラッシュ!!」


 レキのマナシールドで1体の黄猿の行動を阻害し、その間にもう1体の懐に飛び込み短剣スキル50の技能であるラピッドラッシュを叩き込んだ。

 ラピッドラッシュは連続攻撃によるコンボ数を稼ぎ、コンボ数に応じて機動力にプラス効果を与える技能だ。そして私の手に握っているのは茨の短剣。つまり、連続攻撃中に機動力だけでなく攻撃力もどんどん上がっていくのである。

 

 私は相手の攻撃を完璧に読み切り、攻撃を躱しながら確実にコンボを繋げていく。そして1体のHPを一気に削り切った。

 その後すぐに最後の1体に目を向けると、そこには足を氷漬けにされて動けずいる黄猿の姿があった。実はパルもここ最近の猿洞窟での戦いによって大きくレベルを上げ、新しく行動阻害効果を持つフロストバインドという魔法を覚えたのだ。

 

「パル、ナイス! バックスタブ!」


 私は即座に氷漬けにされた黄猿の背後へと回り込み、私が持つ技能の中で最大火力のバックスタブを叩き込む。先ほどまでの戦いで攻撃力が十分に上がった状態でのバックスタブには流石の黄猿も耐えられなかったようで、既に多少のダメージを受けていた状態だったこともあり、一発で残りHPを削り切ることが出来た。


「ふぅ~。お疲れ様、レキ、パル」

「ワフッ♪」「パルゥ♪」

「……お前ら急に強くなり過ぎだろ」


 唖然とするギンジさんの顔を見て、自然と笑みが零れた。


 ――ギンジさんのこんな顔が見られるなんて、ルビィさんにはほんと感謝だね!


 新装備を手に入れた私の快進撃は進み、遂にボス部屋の前まで到着した。そしてここからが本当の卒業試験だ。

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