62. 討伐報酬とレキの正体

「という訳で、ナツ君。少し君のペットを調べさせてもらえないだろうか?」

「私のペットというと……レキの事ですよね?」

「そうだ。レキ君を具現化して、この首輪を着けてくれるだけでいい。後は適当に遊ばせておけば首輪経由でこちらが勝手に調べるからね」


 そう言って手渡されたアイテムはごく普通の首輪だった。とくに怪しい感じもしなかった為、私はファイさんの指示に従ってレキを呼び出し、首輪を着けることにした。

 呼び出されたレキはとくに抵抗することもなく、大人しく首輪を受け入れてくれる。そう言えばプログレス・オンラインのペットにはアクセサリーを着けたり、大型のペットには騎乗用の鞍を取り付けることも出来るらしい。レキにも何か可愛いアクセサリーを着けるのも良いかもしれない……蝶ネクタイとか似合いそう。


「さて、レキ君を調べている間にバグモンスターとの戦いについて聞かせて貰えないだろうか。一応ログ解析で大体の状況は把握しているが、主観での情報も欲しい」


 そこからは基本ロコさんが説明し、戦闘中のバグモンスターについての詳細や気付いた事についてはギンジさんが話していく。私も戦闘に参加しているので説明に加わる事は出来るのだが、正直言って説明上手なロコさんと戦闘に関してはこれ以上ないぐらい詳細な情報を提供しているギンジさんに私が加わった所で何の意味もないなと考え、現在私は行儀よく座って置物と化している。


「ふむ。……それにしても、ナツ君はよくレキ君のプロテクションがダメージ要因になっている事に気が付いたね」

「えっと、最初は何が原因か全然分からなかったんですけど、状況を思い返してよく考えてみたらダメージを与えられなくなった前後でレキのプロテクションの効果が切れてた事に気が付いて」

「いや、それは素晴らしい事だよ。基本的に人は、自身が培ってきた常識と逸脱する答えには思考が行きつかないんだ。正体不明のモンスターに自分の攻撃だけが通り、その要因が自身のペットの魔法などとは考え付く者は少ないだろう」


 なんか凄い褒められている。私的には他に要因が無かったから行き着いた答えだったのだが、それはファイさんから言わせると凄いことのようだ。


「ナツは素直なのじゃ。じゃから情報をあるがままに受け止め、答えを出すことが出来る。思考が凝り固まっておる者は自分の常識でしか考えられぬから、目の前の情報にも気付かん。……ナツよ、お主が社会人になれば素直で柔軟な思考が宝である事がすぐに分かるじゃろう」


 ロコさんは社会人になって何かあったんだろうか……主に会社で。


「そんな話はどうだっていい。今回俺たちは運営が対処しきれていないモンスターの所為で片腕を失い、ロコの奴はペットを失いかけた。そしてナツは未だ誰も倒せていないバグモンスターを倒したんだ。……傷を修復したから終わりって事はないんだろう?」

「おっと、そうじゃったな。そこの話をせねばならんかった。色々情報過多ですっかり抜けておったわ」


 少しほぐれて来ていた空気はまたピリつく。けれどファイさんはとくに動じた様子を見せず、1枚の紙を提示してきた。


「えっと、これは……へっ!?」

「ほぅ、面白れぇじゃねぇか」


 [今回のバグモンスター事件における補填及び報酬]

 ・ロコ、ギンジ、ナツ、それぞれに20,000,000G


 [今後のバグモンスター対策への協力に対する報酬]

 ・一部課金アイテムの提供及び貸出

 ・運営スタッフ用キャラ育成ダンジョンへの入場許可


「これはつまり、バグモンスター対策に協力するのであれば、ナツの強化に全面協力するという意味で間違いないかの?」

「平たく言えばそういう意味だね。実を言うと君たちが倒したバグモンスターは、こちらがこれまで発見したバグモンスターの中では弱い方なんだ。ナツ君にバグモンスターを倒す手段があり、尚且つ協力してくれると言うのであれば、私達はナツ君の戦力強化に全力で取り組む事になるだろう」


 なんだかとんでもない話になってきた。

 詳しい話を聞くと、一部課金アイテムとは主にスキル成長速度やペット育成速度の促進アイテムで、そういった消費アイテムであれば提供してくれるらしい。後は、必要であれば装備類などの貸し出しもしてくれるらしいが提供出来ない物も多いため、そこは要相談との事だ。

 そしてそこからの話が驚きで、なんと運営が利用するキャラクターも他の一般プレイヤーと同じようにスキル上げをして育成しないといけないそうなのだ。これはゲーム開発時にリアルさを追求したための弊害で、パラメータを弄った即席最強キャラを作れないようになっているらしく、その代わりに運営スタッフはキャラ育成に特化した専用ダンジョンを持っているらしい。


「あのぅ、ロコさん。20Mって凄い額だとは思うんですが、ロコさん的には今回の事に対して釣り合っている額なんでしょうか? 額が大きすぎて全然ピンと来なくて」

「そうじゃのう。わっちのペットが危険に晒されたという事実を加味すれば、いくら貰っても釣り合うという事はないが。……今のアイテムレートで計算すると大体1Mがリアルマネーで1万ぐらいの価値はあるからの。まぁ、運営が出せる額と考えれば譲歩した方なんじゃろう」


 ――1Mがリアルマネーで1万? ……えっと、つまり20Mは20万円分のゲームマネーってこと!?


 そのあまりの額に驚いたが、それ以上に重要な事に気が付いてしまった。私は今、ロコさんやギンジさんから様々な装備品を借りている。更にはルビィさんから課金装備であるコンタクトを含めて一式をタダで貰ってしまった。……この報酬の一部をロコさんとギンジさんに渡して、ルビィさんには今からでも代金を払いにいった方がいいのかもしれない。


 今まで享受してきた物を円換算という具体的な数字になおされ、その額に怖くなって来た。丁度その時、ファイさんの目の前に通知音と同時にシステムウィンドウが表示される。


「レキ君の調査結果が出たようだ。結果のみを簡潔に伝えよう……レキ君はバグモンスターだ」

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