【こぼれ話 side.ロロア】私の先輩は宇宙人

「ロロアちゃん、おはよ~。今日も一段と可愛いね♪」

「美亜さん、リアルでその名前を呼ぶのは止めて下さいっていつも言ってますよね?」


 今日出る番組の楽屋で資料を読んでいると、そこに事務所の先輩がノックも無しに乱入してきた。


「ごめんごめん。あんまり可愛いもんだからついね♪」


 その理屈は全く意味が分からない。

 先輩はいつもこうだ。その場のノリで生きているというか、浮世離れしているというか。とにかく色々適当なのだ。


「そう言えば、この前のかくし芸大会に出てたナツちゃん、あれ美亜さんの仕込みなんですか?」

「仕込みだなんて人聞きが悪い! 多少助言はしたけど全部彼女の実力が成した結果だよ?」

「……ちゃんと気付いてますよ。美亜さん、観客エリアから複数の声で絶妙な合いの手入れてましたよね? それに、リフティングの失敗から成功までの演出も美亜さんが考えられたんじゃないんですか?」

「あはは、流石公認アイドル。色々見てるなぁ~」

「ほら、やっぱり」


 この先輩は宇宙人だ。

 女優業もやればモデル業もやる。体を張ったバラエティもやれば司会もやる。よく分からない特技の数々を持ち合わせていて、彼女の特技を増やす過程を楽しむ番組まで作られるほどだ。……はっきり言って訳が分からないし、本当に人間なのか疑わしいと若干本気で思っている。


 そして、そんな先輩にはあまり知られていない特技がある。それが『未来設計』。

 先輩がどんな未来を作りたいのかを望めば、ありとあらゆる手段を用いて強引に望む未来を作り上げてしまうのだ。

 計画を立て、そして実行すると本当に想定通りになる。もはやそれは計画というより未来視に近い。


「確かに演出を考えたのは私だけど、それでも結果を出せたのはナツちゃんの力だよ。ナツちゃんなら絶対に私の期待に応えて、結果を出してくれるって確信してたから力を貸してあげたの」

「元々ナツちゃんに目を掛けてたんですか?」

「いんや? ゲーム内のフレンドにちょっと見てやってくれって頼まれてね。大会の10日くらい前に初めて会ったの。そしたら凄い可愛い娘でね! 一目見た時に『この娘なら成功する』ってピピンと来て、力を貸してあげたのだよ♪」


 そう、これも先輩の隠れた特技。才能を見抜く目。

 なんだか自分で自分に才能があると言うのはおこがましいのだけれど、何を隠そう私も先輩に見出された1人なのだ。

 

 私は元々、小さな芸能事務所で読者モデルをしていたのだが、私が載っている雑誌を見た先輩が移籍しないかとスカウトに来たのが事の始まり。

 先輩が所属していた事務所は、私が元々所属していた事務所とは雲泥の差がある大手芸能事務所だったので迷うはずがない。と言うより、当時から先輩は凄く活躍していて私とは比べ物にならない雲の上の存在だった為、そんな人からの直接のスカウトを断るなんて選択肢は元々持ち合わせていなかった。


 それからは怒涛の展開だった。先輩プロデュースの元、読者モデルから専属モデルになり、タレント業もやりだしたかと思えばいつの間にかCMの仕事も貰えるようになっていて。そして今ではゴールデン枠では無いもののMCまでやらせてもらっている。

 そしてこれらの道筋は、先輩がスカウトに来たその日に私に聞かせてくれた計画通りなのだ。……先輩の計画では、来年には私が今MCをやっている番組はゴールデン枠になるし、レギュラー番組もあと数本増えるらしい。


 ちなみに、私がプログレス・オンラインをやっているのも先輩の指導の一環で、リアルの顔を晒さなくていい環境で思いっきり芸能業をやって場数を踏めと指示があったのだ。

 最初はゲーム内でアイドル業というのに抵抗があったが、今では本業と同じぐらい好きな仕事(?)になっているので、そこも先輩が私の資質を見抜いての事だったのだろう。


「それで、ナツちゃんもスカウトしたりするんですか?」

「う~ん。それはしないかな。多分ナツちゃんなら芸能界でもそこそこ上手く行くとは思うんだけどね。……多分あの娘はもっと違う分野で成功するタイプだよ」

「……何だかちょっと含みがある言い方ですけど、何かあるんですか?」

「何か確信がある話じゃないんだけどねぇ~。……多分あの娘、色々トラブルに巻き込まれやすいタイプな気がするの。だからこれから色々な苦難を乗り越えなくちゃいけないんだろうなぁ~ってね」


 なんだそれは。それでは本当に未来視ではないか。……とは思いながらも、先輩が言うのであれば本当にそうなるんだろうなと自然に確信する私だった。

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