【こぼれ話 side.ルビィ】夢への第一歩
「赤石さん、ちょっといいかしら?」
私が学校で出された課題に取り組んでいると、そこへ来た学園長から声を掛けられた。
私が通っている大学は服飾系の中でも結構有名な大学なのだけれど、そこのトップである学園長はとてもフットワークが軽く、しかもとてもフレンドリーでよく授業に乱入しては意見を言ったり、お昼休みに一緒にランチをしたりする名物学園長だ。
そんな学園長に呼び出しを受けたのだが、恐らく要件はあの事だろう。
「それで、赤石さん。この前貰っていたお話は蹴るという事で本当にいいのね?」
「……はい。とても光栄はお話とは分かっているのですが、やっぱり私が進みたい道とはズレてしまうので……」
先日、学内審査会で勝ち抜いた私は大学主催のファッションショーに出場する事になった。そして、そのショーを見て私のことを気に入ってくれた有名ブランドの会社から、卒業後はうちで働かないかと声を掛けて貰ったのである。
「赤石さんの進みたい道ってアニメや漫画の服に特化した仕事って事よね?」
「はい。既存作品だけでなくオリジナルでそういう方面に特化したデザインの服を作ったり、後はキャラデザでの衣装デザインとかもやりたいと思ってます」
そう、それが私のやりたい事なのだ。元々私はアニメや漫画が大好きで何時かは自分でコスチュームを作りたいと思っていた。
けれど私は昔から見た目が少し男っぽいというか不良っぽくて、自然とそういう子達とつるむ様になった。その所為でオタク趣味を表に出す事が出来ないようになり、自然と自分でコスを作れるようになりたいという願望も薄くなっていったのである。
しかし、そんな生活の中で2つの転機が訪れた。1つは高2の時に友達が妊娠して騒ぎになり、その所為で私らの素行調査が行われて私らグループのクラブ通いやらなんやらが全部バレ、退学させられるかもしれないレベルの問題に発展してしまったこと。
最終的に退学は免れたが、親に泣かれたり教師から連日進路相談の強制が行われたりと結構面倒な事になった。そして教師に「お前は将来をどう考えているんだ!」と唾を飛ばしながら怒鳴られ、その時にポロっと「服作りに興味あるんで、そっち系に進みたいと思います」と適当な言葉が口から出て来たのだ。
それからはあれよあれよと言う間に服飾系の大学に進む事が決まり、実際に結構有名な大学に入る事が出来た。適当に返した言葉だったが、服作りに興味を持っていたのは本当の事だったし、自分で言うのもどうかと思うが才能も多少あったのだろう。
そして大学に入ってから2つ目の転機が訪れた。プログレス・オンラインだ。
昔からその存在を知ってはいたが正直あまり興味を持っていなかったので、凄いゲームが出たんだなぐらいの印象しかなかった。けれど服飾系の大学に入ってからは話が違ってくる。
プログレス・オンラインでは自分でデザインした服をゲーム内の素材を使って1から作る事ができ、そしてそれを実際に着て確かめる事も出来るのだ。リアルで材料を買うお金が無く、自主練習もままならない貧乏学生の私には夢の様な世界だった。
けれど、言ってもあの世界はネトゲの世界だ。需要を考えるとオタク系のロールファッションを作る機会が増えるのは当然の事だろう。こうして私のオタク気質は見事復活を果たしたのだ。
「この前、ナツちゃんの為に作った服は本当に良かったわ。『私が作りたい服はこういう服なんだ!』って気持ちがこれでもかってぐらい込められた服だった」
「そう言われると少し恥ずかしいですね。……でも、はい。ナツを見た時にビビっときたインスピレーションを熱量のままに一気に作り上げたのがあの服でしたから。あれは私がこれまで作って来た服の中でも1番の出来だと思ってます」
あの服は本当にいい出来だった。レザー系が得意な友達に意見を聞いたり、デザインだけでなく実用性も考えて試行錯誤しながら作った自信作だ。
そんな情熱をこれでもかとつぎ込んだ服は、見事服飾ギルドで認められて今現在ギルドハウス内に飾られている。……そして何を隠そう、この学園長こそが服飾ギルドのギルドマスターなのである。
「赤石さんがそれでいいのであれば私がとやかく言うつもりはないわ。……でもね、今貴女が進もうとしている道はあまりお金が稼げる道ではない。つまり服飾としては茨の道よ?」
「はい、覚悟の上です。でも私はそんなに悲観してないんですよ? 私は絶対、この分野で新たな需要と確固たる地位を築いていく予定ですから」
「ふふっ。赤石さんの熱量なら本当に実現してしまいそうですね。……卒業後、もし何か私で力になれる事があれば遠慮なく声を掛けて下さいね」
そう言って学園長は目を細めて優しい笑顔を私に向けてくれた。
学内審査会で勝ち抜いて大学主催のファッションショーにも出場出来た。ゲームの中ではあるものの、自分史上最高の服を作れた。そしてその服が猛者揃いのあの服飾ギルドで認められた。……でも足りない。私の夢はまだまだ先にある。
――まずはこの道を歩み続ける覚悟を決めよう。それが私の夢への第一歩だ。
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