58. 鬼
「まぁ、考えても分からないことは考えても無駄だな。……ナツ、ロコのMPポーションが切れれば俺たちへの支援も止まる。そうなれば後はじり貧だ」
「はい。しかもまだまだバグモンスターへのダメージも少ないので、このままだとかなり危ないですね」
今の私たちの戦い方は、ロコさんとギンジさんとレキとでバグモンスターの行動阻害をし、そしてそれで出来た隙を狙って私が背後からバックスタブを叩き込むやり方だ。けれど、このやり方はどうしても攻撃出来るタイミングが少ないので、総ダメージ量が稼ぎづらい。しかも総ダメージ量が少ないと茨の短剣も育たないのだ。
「あぁ、だから今から少し無理をして、こいつの注意を引き続ける。その間にお前さんは後ろから攻撃し続けろ」
「……分かりました。何をするのか分かりませんが、宜しくお願いします」
「ロコ、そっちは行動阻害や俺へのバフは切っていい。その変わり、ナツへのバフとスタミナ回復を頼む」
「了解したのじゃ」
一体何をする気なのだろうか?
ギンジさんの雰囲気が冷たく、そして刺々しくなっていく。
「こいつをやるのも久々だな。……羅刹天」
ギンジさんはそれまで使っていた刀を仕舞うと、インベントリから身の丈程の長さはある刀を取り出した。そして、その刀を手にして技能を唱えると、ギンジさんの様子が一変する。
体からは赤いオーラの様なものがゆらゆらと揺れて、そしてギンジさんの背後には真っ赤な炎の輪っかの様な物が出現した。普段のどこか飄々とした雰囲気は消し飛び、身を焼く程の殺気がギンジさんから放たれる。
「ぼーっとするな! こいつは敵のヘイトを強引に奪うが、同時に常時HPが消費される時間制限付きの自己強化技能だ。俺のHPが切れる前に全力で攻撃して短剣を育て上げろ!」
「は、はい!!」
――ギンジさん、今までになく凄く怖いんですけど!? ……それに何か少し楽しそう?
ギンジさんのテンションは今までに見た事が無いほどMAX状態だ。それは、下手に近づくと私まで切られるんじゃないかという怖い妄想をしてしまう程だった。
私はギンジさんの一括に体をビクンっとさせて、すぐにバグモンスターへの総攻撃を始める。ロコさんからも手厚いバフ支援とスタミナ回復支援が届き、スタミナ切れの心配をせずに短剣技能を次々に叩き込んでいった。
……
…………
………………
ギンジさんの戦い方は凄まじかった。
敵の攻撃を紙一重で躱し、お返しとばかりにその長い刀で切り払う。それはダメージこそ受けていないが、その衝撃自体は発生しているようだった。
バグモンスターはギンジさんの攻撃を受ける度に大きくのけ反り、倒れ込み、仕舞には吹き飛ばされていた。……吹き飛ばした際は「やべ、やり過ぎた」と漏らしていたが。
私はそれに負けじと必死に攻撃を叩き込む。最初は小さなダメージエフェクトしか出ていなかったそれは、攻撃し続け茨の短剣に血を注ぎ続けることによってどんどん大きくなっていく。
与えるダメージ量が増えれば、それだけ私へのヘイトが向かうはずだが、今のバグモンスターにはギンジさんしか見えていない様で、その様はむしろ怯えているようにすら見える。
「もうそろそろ俺のHPが限界だ。だが、奴のHPも相当削れてる。……ナツ、畳みかけろ!」
「はい!!」
私は更に攻撃速度を上げる。両手の武器で延々と切り付け、技能のクールタイムが明ければ即座に叩き込む。そして表示されるダメージエフェクトはそれに応じてどんどん大きくなっていく。
「いい加減に沈んで! バックスタブ!!」
「ガァアアア˝ア˝!!」
私の最後の一撃によって、バグモンスターは光の粒子へと姿を変えていく。キラキラと散っていくそれを眺めて、私は軽い放心状態になっていた。
「おう、よくやった。今のはなかなか気合の入った一撃だったぞ」
「あ、はい。……えっと、倒したんですよね?」
「あぁ、そうだな。恐らくバグモンスターを倒したプレイヤーはお前さんが初だろうな」
ギンジさんから戦闘終了のお墨付きをもらい、私は一気に脱力してその場にへたり込んだ。
「終わった~。長かった~。もう当分逆境はいりません」
「お疲れ様なのじゃ。それにしても、よくあれを倒せたものじゃ。……結局ダメージを与えられた理由も不明のままじゃし。とにかく運営にことの経緯を伝えておくとするかの」
その後は運営にメールを送り、キーアさんに無事の連絡をして、ロコさんのプライベートエリアへと戻った。
その間に、私は自分のインベントリに文字化けしたアイテムが入っている事に気が付いたが……一先ず無視することにした。
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