55. 予想だにしないダメージエフェクト

「ナツ、戻ったか。先ほどわっちの所に礼のメールが届いたのじゃ。ようやったの」

「あ、はい。……じゃなくて! 今どういう状況なんですか!?」


 今現在、私の目の前では左腕を失ったギンジさんが1人で熊のバグモンスターと対峙し、その後方に脇腹が痛々しくえぐれている白亜とロコさんが控えている。


「……まぁ、見ての通りじゃな。奴の攻撃にはダメージではなくデータ破壊の効果があるようでの。白亜がその攻撃に晒されようとした際にギンジに庇われ難を逃れたんじゃが……ギンジはその時に左腕を失い、白亜もこの様よ」

「そんな……」

「わっちらはギンジほど回避が上手いわけではないでな、前線はギンジに任せる形を取らせてもらっておる」


 私たちがこうして話している間も、ギンジさんは1人でバグモンスターと戦っていた。けれど、回避重視のために攻撃を加えるタイミングが少なく、更には攻撃しても全くダメージを受けていないようだった。


「あの、白亜以外のペットは出さないんですか? ダメージは与えられなくても、いつもロコさんが連れている幻術と行動阻害が得意なペットを使ったら逃げ切れませんか?」


 私がそうロコさんに提案すると、ロコさんは眉間にシワを寄せ苦悩の表情で手の甲をこちらに向けた。その手には2つの指輪が着けられていたが、2つとも傷みと欠けがあり色も黒ずんでいた。


「奴は相当頭が良いようでの。戦いが始まると真っ先に後方サポートである2体を狙って襲って来よった。……白亜は比較的軽傷じゃが、こっちは重症じゃ」


 状況は最悪だ。こんなのどうすればいいのか分からない。

 ダメージを与えられなければ倒す事も出来ない。かと言って逃げ出す方法もない。……誰か1人にヘイトを押し付けて、残り2人は逃げるという手が無いではないが、そんな手段なんて取りたくはない。


 

「ナツ、こっち来て手伝ってくれ!」


 私が現状のあまりの深刻さに思い悩んでいると、突然ギンジさんから手助け要請が飛んできた。


「え!? えっと、何をすればいいんですか?」

「こいつの周りでちょろちょろ逃げ回ってくれれば、それでいい。1発も攻撃を受けられない状況じゃ真面に攻撃することも出来ねぇんだ。だから、こいつの注意を分散させてくれるだけも助かる」


 私はなるほどと納得していたが、それを聞いたロコさんの方は血相を変えて慌てだした。


「何を言っておるか!? ナツには危険すぎる! それならわっちと白亜でその役をやれば良いじゃろう!」

「こいつは図体がデカい所為か足元への攻撃が雑で避けやすい。背の小せぇナツの方が適任なんだよ」

「……分かりました。私は回避に集中するだけでいいんですね?」


 ここに来て背の小さいことが役に立つとは思わなかった。

 確かにロコさんが言われるように危険な役割だし、正直言ってかなり怖い。けど……。


 ――それ以上に、ギンジさんに頼られる機会を逃したくない!!


 私は先ほどの狼との戦いと同じようにレキを具現化し、プロテクションとマナシールドによる支援を頼んだ。

 先ほどの戦いからすぐにこちらへ走って来たため、MPがあまり回復していない。私は少し悩んだ末、自身に機動力を上げるアクセラレーションのみを使用して戦いに挑んだ。


 ……


 …………


 ………………


「危なっ!!」

「ナツ、こいつはかなり高性能なAIを積んでいやがる。あまり攻撃パターンを過信せずに、不意な攻撃にも対処出来るように心構えをしておけ」


 私が参戦してから暫く立ったが、未だに解決の糸口を見つけることが出来ていない。

 バグモンスターと少し距離を取った位置で、白魔法スキル1で使えるマジックアローを飛ばして注意を引き、あとは只管逃げるという行動を取り続けている。

 レキやロコさんもマナシールドや行動阻害の魔法で支援してくれているが、あまりやり過ぎるとヘイトを買ってしまうため、必要最小限の支援に止めている。


 ギンジさんは色んな攻撃手段を色んな場所に叩き込み、どうにかダメージを与えることが出来ないかと試行錯誤を続けているが未だにダメージを与えることが出来ないでいた。


「全く、どうなってんのかねぇ。完全に無敵状態で、ギミックらしいギミックもない。これで1撃でも真面に食らうと即アウトとか、これ絶対なんかおかしいだろ」

「今までの世界観と違いすぎますし、やっぱり公式イベントとかじゃなくてバグなんでしょうか?」

「リリース当初から始めた最古参の俺から言わせてみると、運営がこんなイベント起こすとは到底思えねぇな」


 けれど、そうなってくると何故運営は何の対処もしていないのかが気になる。もう既に目撃報告が上げられているはずなので、運営が知らないはずはないのだ。

 

 未だに倒す算段が付かない状況ではあるものの、ある程度戦い方に慣れていき戦況が安定していった。だが、ここに来て状況が大きく変化する。


「!? ロコ、ヘイトが移った! すぐに逃げろ!!」

「ほんに柔軟なAIじゃな!!」


 突然、バグモンスターが標的をロコさんに定め走り出す。ギンジさんは必至にバグモンスターに攻撃を加え、ヘイトを奪おうとするが見向きもされない。私もマジックアローを飛ばすが同じだった。

 止まらずロコさんの方へと走り続けるバグモンスターに、あの強靭な腕でデータごと破壊されるロコさんを幻視した。


 ――そんなの絶対に嫌っ!!


 私は無我夢中で走りだし、手に茨シリーズの短剣を握りバグモンスターへと迫った。そして大きく振りかぶる。


「バックスタブ!!」


 気を引くために行った行動だが、それは予想だにしない結果を出した。……切り付けたバグモンスターの後ろ脚からダメージエフェクトが出たのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る