53. バグモンスター
スライム迷宮での訓練を終えた翌日、今日もテイマーとしての立ち回りの訓練のため、ロコさんのプライベートエリアへと来ていた……ギンジさんと一緒に。
「ナツ、お前はもっと足を使え。手に武器を持ってるからと言って、攻撃手段をそれに縛られる必要はないんだぞ」
「はい!」
今日もいつもの様に白亜の狐火による立ち回り訓練中ではあるのだが、今日はなんとギンジさんの指導付きだ。
何故そんなことになったかと言うと、昨日の訓練であまりにもなギンジさんのやり方を見て。
「ギンジよ、今が戦闘術の訓練よりスキル上げに時間を使った方が良いと言うのであれば、わっちとの訓練の時間を使って戦闘術の指導をせよ。それなら効率上の問題もなかろう?」
と、言ってくれたからだ。
お陰で、今日はみっちりと私の戦い方にある悪い所を指摘して修正してもらっている。
「う~ん、回避スキルが上がって反応速度はかなり上がって来てるみたいだが、それを活用出来るだけの体の使い方が出来てねぇな。確かにこれなら、簡単にでも先に戦い方を仕込んでおくのもありか……」
どうもギンジさんの中で今、私の教育方針に修正が加えられているようだ。……その先が地獄でなければいいのだが。
そんなギンジさんの指導付きの濃密な立ち回りの訓練をしていたのだが、その訓練は唐突に終了することになった。
「すまぬ、ちと緊急の連絡が入ってしもうた。一度訓練を止めるぞ」
「あ、はい。大丈夫です」
ロコさんは私たちに断りを入れると、フレンドコールに応答して話し始めた。ロコさんの雰囲気を見る限り、あまりいい話では無さそうだ。
「……ギンジ、すまぬが手を貸してくれぬか?」
「ん? それは問題ねぇが、何があった?」
「わっちの知り合いのテイマーがバグモンスターに襲われておるようだ」
バグモンスター、聞いたことが無い名前だ。そもそもプログレス・オンラインっぽくないモンスター名なため、何かのあだ名の様なものなのかもしれない。
「そうか、分かった。……だが、ナツはどうする? 一緒に連れていくか?」
「……いや、相手のことがよく分かっておらん状態では危険じゃ。救援にはわっちとギンジのみで向かう方が良かろう」
どうもバグモンスターというのはとても危険な相手らしい。ロコさんの深刻そうな顔を見るだけでもそれがよく分かる。
――でも、それなら余計に。
「あ、あの! それってロコさんのお知り合いの方が今危険な状況ってことですよね? それなら人手は多い方がいいと思います。実力差で太刀打ち出来ない相手なら、それはそれで私に出来ることをしますし。レキ達を出していなければ、最悪死に戻りするだけで済みますから」
「……分かった、すまぬがナツも手を貸してくれ」
こうして私たち3人で、ロコさんのお知り合いを救出しに行く事となった。
……
…………
………………
3人で向かった先は、前に何度か来たことがある街の正門前にある森、その更に奥部だった。
「連絡があったのは、わっちがまだギルドマスターをしておった時のメンバーの1人で、名をキーアという者でな。切羽詰まった状況にどうしようも無くなってわっちに救援を求めたそうじゃ」
「一体何があったんですか?」
「……バグモンスターに襲われたのじゃ」
そこから聞いた話は、驚愕の一言だった。
バグモンスターとは最近噂になっている正体不明のモンスターらしく、とにかく普通ではないモンスターらしい。具体的に言うと。
・ベースはプログレス・オンラインに存在するモンスター
・あちこちテクスチャが壊れている
・バグモンスターの攻撃で、本来破壊不可能なオブジェクトも壊れたり、テクスチャが壊れたりする
・極めつけに、こちらの攻撃では一切ダメージを与える事が出来ない
・倒す為のギミックの様な物も見つかっておらず、ヒントすらない
という無敵デストロイヤーの様な仕様だ。
そして更に最悪なことに、今回救援要請をしてきたキーアさんは足を片方破壊され片足の状態になっており、ペットは具現化した状態で逃げているそうだ。
本来であれば何かしらの方法で自決して死に戻りすれば、ペットも一緒に戻るので問題無い。けれど、今回は相手が正体不明のバグモンスターであり、しかも既に足を破壊されるという訳の分からない状況に陥っている。もし何かのバグでペットが一緒に戻ってこないなどになれば、目も当てられない。
ちなみにキーアさんのペットは白銀の馬型ペットらしい。
「そんなモンスターが……けど、ありえるんですか? 仕様をバグらせるモンスターなんて」
「分からん。わっちも実際にバグモンスターを見たことは無いでな。……じゃが、今回の話を聞くに楽観視は出来ん」
そんな話をしながらも、救援要請を出したプレイヤーを目視で探しながら森の中を走り抜ける。そして見つける事が出来た。……プレイヤーでも、ペットでもなく、体中あちこちのテクスチャが壊れた大きな熊を。
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