39. 新しい仲間

 1位から3位までの順位発表が終わったあとはステージに上がっての表彰式だ。私は緊張気味にステージまで歩いて行き、3人揃った所で表彰式が始まった。


「ではまず、3位のタルルさん。スイマーとして参加した貴女には記念トロフィーともう1つ、『バブルリング』を贈呈します」


 バブルリングとは腕に着ける青い金属製の腕輪で、着けることで薄い空気の膜で体を覆い、水中でも長時間呼吸をすることが出来るようになるスイマー専用装備だ。


「次に2位のナツちゃん。テイマーとして参加した貴女には記念トロフィーともう1つ、『スノードラゴンの卵』を贈呈します」

「え!?」

「え?」

「あ、すみません! はい、ありがとうございます!!」


 よく考えてみたら、私優勝賞品しか見てなくて2位3位の賞品が何なのか調べていなかったのだ。スノードラゴンという種類のペットについても情報を持っていないので、すぐにロコさんに聞くか調べないといけない。


「もしかして、ナツちゃん……1位以外の賞品を調べて無かった?」

「あぅ、その……ごめんなさい」

「あはは♪ ナツちゃんは見かけによらず豪胆だね!」

「あぅ~、本当にごめんなさい!」


 観客エリアからも笑いが巻き起こってしまい、私はもう恥ずか死にそうだ。早く表彰式が終わってこの場から逃げ出したい。

 それから私は俯きがちになり、「早く表彰式よ終われ」と願いながら気配を消し続けた。


「優秀な成績を収めた3人のパフォーマーに惜しみない拍手を!! ……これにてかくし芸大会を終了致します。ご参加頂きありがとうございました~!!」


 閉会式を終えると、私はそそくさとステージを降りてロコさん達の元へと向かった。


「お主、2位以下の賞品を知らなかったのかえ?」

「うぅ~、だって、1位の『可能性の卵』が目に飛び込んできてからは、それしか見えなかったんです……」

「相変わらず落ち着きがないのぅ。テイマーは常に冷静に情報を集め判断することが大切じゃぞ?」

「まぁまぁ、ナツちゃんのこういう所が瞬発力の源なんだから立派な長所だよ」


 ミシャさんからはフォローしてもらえたが、確かにこの猪突猛進な性格はテイマーとして仇になる可能性がある。冷静に情報を集めて、考え行動出来るように頑張ろう。……私に出来るかな?


「あの、ロコさん。スノードラゴンってご存じですか?」

「ああ、勿論知っておるぞ。名前の通り氷属性のドラゴンで、見た目は白く美しいドラゴンじゃな。最近のアップデートで、スノードラゴンの幼体が実装されてテイム可能になったのじゃ」


 プログレス・オンラインでは基本的にモンスターの幼体しかテイムすることが出来ない。その為、幼体が存在しないモンスターはテイム不可能なのだ。そしてこのスノードラゴンというモンスターは見た目が美しく、とても人気があるモンスターだったが、今まで幼体が存在していないためにテイムが出来なかったらしい。

 ちなみにスノードラゴンの幼体のポップ率はかなり低く、意図せず私はレアペット2体持ちとなった。


「今卵を孵すと、珍しい物見たさに人が集まってきそうじゃの。卵を孵すならお主のプライベートエリアが良かろう」

「そうですね。あ、それなら、今から私のプライベートエリアに来ませんか? この子が手に入ったのは皆のおかげなので、私のプライベートエリアでお披露目式みたいな」

「いいね♪ 私スノードラゴンの幼体見たことないから、すっごい興味あるよ!」

「う~ん、じゃがナツのプライベートエリアは初期部屋じゃろ? 少し手狭ではないかのぅ」

「……確かにそうですね。出来ればレキにも見て欲しいから3人とペット2匹が居る状態に……狭いですね」


 プライベートエリアは初期の状態では少し手狭だ。広くするには商業組合で手続きする必要があり、プライベートエリアのグレードに合わせた料金を月々支払わなければならない。


「ナツが良ければ、わっちのプライベートエリアに来るかえ?」

「え! いいんですか?」

「うむ、わっちは一向に構わん。こちらで良ければ菓子など作って祝勝会でも開くのも良かろう」

「ロコさんが作るお菓子!! それを言われたらもうロコさんの家で決まりですよ」

「よし、じゃあロコっちの家で祝勝会だね! そう言えば私もロコっちの家に行くの初めてだね」

「わっちは滅多に人を呼ばぬからの。ほれ、これがわっちの家のキーじゃ。使い捨てタイプの物じゃから、使う際は気を付けるんじゃぞ?」


 そんなこんなでロコさんのプライベートエリアで祝勝会が決まった。

 ロコさんから今貰ったキーは、登録されたプライベートエリアへ転移する為のアイテムらしく、使い捨てタイプは一度使うと消えてしまうそうだ。マスターキータイプの物もあるが、これは基本家主専用で人に渡す物ではないらしい。

 ロコさんは先に戻って準備するとのことで、私たちは1時間後にキーを使ってロコさんの家へ向かうこととなった。


 ……


 …………


 ………………

 

「ここがロコさんのプライベートエリア……広い!!」

「だねぇ。話には聞いてたけど、実際に見ると圧巻だね」

 

 プライベートエリアは大きく分けて部屋タイプと戸建てタイプの2つがある。ロコさんのプライベートエリアは草原のような庭付きの戸建てタイプだ。庭には沢山のペット達が居て、それぞれが遊んだり昼寝をしていた。


「おお、来たか。準備は出来ておるぞ。さぁ、遠慮せずに上がってくれ」


 ロコさんの家は草原の真ん中にある木造の大きな家だった。中もとても広かったが、意外と家具や飾りといった物は少なく、とても品のある感じの内装だ。


「ロコっち、家は凄い大きいのに家具とかってあんまり無いんだね。ちょっと勿体なくない?」

「家にはペット達も入ってくるからの。物が多いと不便なんじゃよ。それに人を呼ぶことも滅多にないでな」

「あ~、なるほど。庭に居るあの子達も入ってくるなら、足の踏み場は多い方がいいのか」

「そういうことじゃな。さて、菓子や飲み物は用意出来ておるが、卵を孵すのは食べる前と後どちらにするかの?」

「……先に孵したいと思います。折角ロコさんが用意してくれたお菓子ですし、出来れば一緒に食べたいので」

「スノードラゴンの幼体、凄い楽しみ! きっと可愛いんだろうな♪」


 私はまずサモンリングからレキを具現化して、その後インベントリからスノードラゴンの卵を取り出した。すると目の前に「スノードラゴンの卵を孵しますか?」というシステムメッセージが表示されたので、それにタッチして卵を孵した。

 バリバリバリという音と共に卵に亀裂が入っていき、中の子が出てこようとしている。


 ――しまった! 新しい子の名前考えてなかった!!


 そう、私は猪突猛進でいつも何かを見落としてしまう女なのだ……。

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