38. 今の私にしか出来ない秘策

「つまりだね、ナツちゃん。ナツちゃんの持つ強みは珍しいペットや運動神経ではなく……その幼い見た目と素直な性格なのさ!」


 ロコさんの紹介でミシャさんに相談した日、私は大会で優勝するための作戦について説明を受けていた。そして作戦についての第一声が、私にとって全く予想外の内容で困惑してしまっていた。


「ナツちゃんは今までにテレビなんかで見たことないかな? 歌うまだったりダンス大会なんかで、クオリティは決して高くないのに小さな子供が高評価を受けて優勝や準優勝を搔っ攫う場面」

「……ありますね。えっと……まさか」

「そう、そのまさかさ♪」

「いや、私クラスの中でも小さい方でしたけど、流石にそこまで幼くないですよ!」


 確かにテレビでそういうシーンは何度か見たことがある。でもそれは園児だったり小学校低学年の子であって、決して私みたいな中2女子ではない。


「いやいや、実際にはそこまでの幼さは必要ないよ。ナツちゃんはなんで大会なんかでそういった現象が起きると思う?」

「……幼い子が頑張っていて可愛いからとかでしょうか?」

「勿論それもあるね。でもそれだけじゃないんだよ」

 

 ・低い点数を付けることによって起きる、視聴者からバッシングを恐れて

 ・拙いながらも頑張っている子供に感動して

 ・審査員の自己イメージ戦略

 ・同調圧力


 そういった様々な要素が組み合わさり、結果としてクオリティ以外の要素で幼い子供が優勝を掻っ攫う現象が起きるらしい。

 ミシャさんの説明はとても腑に落ちる内容で、昔「これってやらせじゃない?」と思ったこともあったのだが、話を聞いた後では「それなら仕方がないな」と思えてしまう内容であった。だってそれらは簡単に切って捨てることが難しい事柄なのだから。

 

「それでこの例からの重要な学びは『幼さが重要』ではなく『高評価せざるを得ない状況を作ることが重要』ということなのさ」

「『高評価せざるを得ない状況を作ることが重要』……ですか」


 それからはミシャさんとの本格的な話し合いが始まった。私が出来ること、どうやって『高評価せざるを得ない状況』を作るかなどを話し合い、1つの計画が作り上げられた。

 それが『1つのパフォーマンスの中でサクセスストーリーを作り、観客を巻き込み、高評価せざるを得ない雰囲気を作り上げる』という物だ。


「う~ん。でもそれって何だかズルくないですか?」

「私はそうは思わないよ? 結局のところ私たちパフォーマーも同じさ。パフォーマンスのクオリティを上げるだけでなく、どうやったら観客を沸かせることが出来るかを考え、1つの演目を作り上げる。パフォーマンスのクオリティを上げることだけに集中する奴は2流だし自己満足でしかないからね」


 確かにミシャさんの言うことも分かる。……でもやっぱり、もしこれで高評価を取ってしまった時に私は素直に喜べるのか分からなかった。

 けれど、私の目標はパフォーマーになることではなく、あくまで優勝賞品の『可能性の卵』を手に入れること。ならばミシャさんが授けてくれた秘策をしっかりやり遂げて優勝を目指すしかない!

 気合を入れなおした私は、それから猿洞窟で回避スキル上げとレキと一緒にリフティング練習を熟していった。リフティング練習は単純なリフティングだけでなく、上手い具合にミスをしたように見せかけて際どいボールを拾う練習も含めてだ。……そう、何回目で揺らぎ始めるのか、どういったミスをしてラストをどう盛り上げるのかも全て計画して練習を行っていたのだ。


 ……


 …………


 ………………


「ナツちゃん、とても良かったよ♪ 始まる前はあんなに緊張してたのに始まった途端に吹っ切れるんだから、その肝の据わり方は才能だね」

「うむ、堂々とした立ち振る舞いで素晴らしかったのじゃ」

「ありがとうございます。終わった今ではなんだか頭がふわふわしてて、先ほどまでのが白昼夢だったんじゃないかって気がしてます」

 

 パフォーマンスを終えた後、ロコさんとミシャさんが参加者控えエリアまで労いの言葉を掛けにやってきてくれた。

 自分で言うのもなんだがパフォーマンスはとても上手く行った。2度目のチャレンジ中の突風は計算外だったけど、お陰で当初計画していた物のより盛り上がった気がするので逆に運が良かったのだろう。

 合間合間でミシャさんが複数の声色を使って観客を先導していた時には、事前に知っていた事とはいえ、そのクオリティに改めて驚き、意識がそちらに向かいそうになった事はここだけの秘密だ。ちなみにこのゲームには声色を変える技能なんて物はない。つまりミシャさんの自前技能なのである……リアルでは何をしている人なのか非常に気になる。

 緊張の糸が切れて半ばぼーっとしてしまっている間に私以外の演目も終わり、投票後の結果発表の時間がやってきた。


「さぁ、今年のかくし芸大会もあとは結果発表を残すのみとなりました。どのかくし芸も大変素晴らしく、甲乙つけがたい正にハイレベルな大会と言えるでしょう。……しか~しっ! やはりそれでも優劣は付いてしまうもの! このハイレベルなパフォーマー達の中で一体誰の手に栄冠は輝くのか!!」


 ――凄いなぁ、ロロアさん大会中ずっと司会進行をやって来たのに、疲れを一切見せずにあのテンションを維持し続けてる。


「テンション高いのぅ。あの調子で終始いれるのじゃから正に公認アイドルとして圧巻の貫禄じゃの」

「まぁ、あの子はあれが仕事だからね。長時間の司会進行も慣れたものさ」

「そう言えばミシャさん。ロロアさんが私の再チャレンジを認めてくれない可能性ってどのくらいあったんでしょうか?」

「ん~? いや、多分ないよ。あの子、年下の女の子にメチャ甘だから十中八九ナツちゃんなら再チャレンジ認めてくれるって確信してたもん」

「そうなんですね。……もしかしてリアルでお知り合いだったりします?」

「秘密♪」


 どうもリアルで知り合いっぽい。司会進行が慣れたものとか言ってたし、もしかしてリアルでも芸能関係とパフォーマーだったりして。


「さぁ、まずは第3位から発表したいと思います!……ドゥルルルルルルルル、ドン! 第3位、自前の巨大水槽を持ってきて、圧巻の水中パフォーマンスを演じてみせた、タルルさん!!」


「まぁ、順当じゃの。あの水中パフォーマンスは圧巻であった。むしろ優勝もあると思っとったよ」

「私も彼女には注目してたよ。明日にでもコラボの提案を申し込みに行く予定さ♪」

「……あのぅ、あのステージいっぱいの水槽をどうやって運んできたのかとか、ドラムロールは口で言うんだとかツッコミは無いんですか?」

「「……」」


 ツッコミは無用なようだ。


「さぁ、続きまして第2位!……ドゥルルルルルルルル、ドン! パートナーのレキちゃんと息の合った演目で会場を沸かせてくれた、ナツちゃん!!」


 ……あぁ、あっけなく私の大会は終わってしまった。いや、勿論こんなハイレベルなパフォーマーが大勢いる大会で2位になれたというのはとても凄いことなのだ。けれど、ロコさんやミシャさんに沢山協力してもらったことや、10日程ではあるけれど一生懸命練習したことが私を貪欲にしてしまったようだ。


「……ナツちゃん、今は喜ばないと駄目だよ」

「っ!!」

「ナツちゃんは確かに大会までの短い期間しか無い中で凄い努力してた。……でもね、他の参加者はもっと前から練習してきたし、パフォーマンスとしてもナツちゃんは1段も2段も下がる物だった。それでもナツちゃんは観客を沸かせて凄いパフォーマー達を押しのけて2位になれたんだから、今はちゃんと喜ばないと。でないと他の参加者に失礼になっちゃう」


 ミシャさんは普段の太陽のように明るい雰囲気から一変して、優しい雰囲気と眼差しを私に向けて諭すように言ってくれた。そうして私の頭を撫でてくれた手はとても暖かかった。

 私の大会は終わった。優勝は出来なかったけれど、それでも私は42人の参加者の中で2位という好成績を残したのだ。今はそれを誇ろう。でないとミシャさんの言うように、他の参加者に失礼だから。


 ちなみに去年2位だったパフォーマーは入賞すら果たすことが出来なかった。何故かと言うと、今年出した演目が去年の物とほぼ同じで、パフォーマンスの難易度を少し上げただけだったからだ。


「かくし芸大会を自分の技術を見せつける場だと勘違いしている間は、彼は3流パフォーマーのままだろうね」

 

 ミシャさんから言わせると、彼はもはや2流ですらないらしい。

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