第12話 『催眠術』の実力

 昨日は催眠術の実験をした。

 思ったより使い勝手がいい。

『ピュア』は強力だが、言葉による指示に具体性がなかった。

 かけられた相手が勝手にピュアになって、勝手に都合のいいように解釈するというのが効果だった。

 それはそれで良いところもあるのだが、催眠術は具体的な指示ができる。

 しかも、ピュアではなできなかったエロいこともできる。

 つまり、少しくらい恥ずかしいことや、嫌なことでもするということだ。

 おそらく「人を殺せ」という指示はできないだろう。

 あくまで「少しくらいの嫌な気持ちは我慢できる」という程度だ。

 

 つまり、サイトとフランソワはそれほどイヤでは無かったのだろう。

 そう考えないと、罪悪感が強すぎてイヤになる。

 なにが言いたいかと言うと、その程度には効果があるということだ。

 これを指針にスキルを使える。

 

「サイト様、行きますよ」

「ちょっと待って!」

 扉を開けると、裸の男女が。

 おっと、失礼。

 サイトの話し方が素に戻ってたな。

「すいません」


「アーサー様、お見苦しいところを失礼いたしました」

 フランソワが急いで服を着て出てきた。

 最近は、アイシスがメイド業の大半をできるようになったので、フランソワは時間に余裕があったのだろう。


「いいよいいよ。付き合ってるんだろ?早く結婚までしちゃうのもいいかもね!」

「私ごときが結婚だなんて」

「あら、フランソワ、あなたは年齢的にもラストチャンスかもしれませんよ? 逃してはいけません。あなたのご両親には私から連絡しておきますね」

 お母様が話を一気に進める。


「ありがとうございます。それでは、勇者様に責任を取ってもらいます」

「おめでとう」

 勝手に話を進めてやろう。

『ピュア』「サイト様? フランソワと結婚しますよね?」

「もちろん、僕の初めてを捧げたんだ!一生守るよ!」

 やっぱりDTだったか。

 先に卒業されたな。

「だってさ、おめでとう」

 フランソワは顔を赤く染めている。


 質問口調で都合のいい言葉を引き出すときは『ピュア』で、命令口調や言い切りの時は『催眠術』と使い分けた方が良さそうだ。


 さて、本題だ。

「サイト様、お稽古の時間ですよ。早く朝食をとってくださいね」

「イェーイ!わかったZE!今日もヨロシクNE!」

 やっと調子が戻ったな。

 いや、うざいからやめてほしいけど。


 朝食が終わる頃にガーベラもやってきた。

 今日もダンジョンに行く予定だ。

 いつものダンジョンで『催眠術』の実験だ。

 しかし、ある程度は秘密にしておく必要がある。

 あまりに極悪なスキルなので不信感につながる恐れがある。

 不信感を持たれることは回避しないと、新婚生活に影響するはずだ。

 サイトはどっちでもいいけど。

 

 そうこうしているうちにダンジョンに着いた。

「それじゃあ、フォーメーションは昨日と一緒でいいよね?」

 俺が話を進める。

「そうですね。私は先行しがちなので気をつけます」

 あ、そうだったね。

「まぁ、性格もあるしね。本当にピンチの時は大声出すから助けに来てね」

 昨日は来なかったけど。

「わかりました。気をつけます」


「さて、今日は目標無しで、レベリングメインにしましょうか。」

 ガーベラからの提案だ。

 勇者のレベルの上がり方が異常だから、様子を見るためだろう。

「ウェーイ!今日もアゲてくZEー!」

「そうですね。レベルを上げていきましょう」

 ガーベラが慣れすぎてて怖い……。


 まぁ、前衛はまた勝手に進んで行くだろうから、勝手に実験しておこう。


 ……やっぱり放って行かれた。

 今は4階層だが、敵が強くなってきている。

 そして、道がわからない。

 ダンジョンは迷宮と言われるほど道が複雑だ。

 何の予備知識も持たない僕には何もわからない。

 

 うだうだしていると、魔物が現れた。

 ウェアウルフだ。

 お、これは実験できるぞ。

『催眠術』「おすわり!」

 ウェアウルフはおすわりした。

 すぐに首を切った。


 効果はある!

 魔物も言葉がわかるんだ!

 これは大発見だ!

 でも、秘密にしておこう。

 僕のスキルはあまりにもゲスい使い方ができるので、風評被害が出る。


 すると、ウェアウルフが二体現れた。

 これはまずいな。

 一体におすわりさせている間に、もう一体に攻撃される。

 それなら……。

『催眠術』「仲間割れしろ!」


 すると、右側の一体が左のウェアウルフを襲った。

 左は抵抗している。

 つまり、一体にしか効果はなかったのだろう。

 くそー、2体同時はダメかー!

 それができたら、モンスターハウスに行って「仲間割れしろ」で無双だったのにな。


 しばらくすると、攻撃していた個体が勝った。

『催眠術』「ペットになれ!」

 ウェアウルフはしなだれて近寄ってくる。

「クゥーン」

 完全に手懐けた。

 あれ?

 これってテイムしてない?

 初めからこうすればよかった!


 しかし、問題点もある。

 見た目が悪い。

 凶暴そうな見た目のまま擦り寄ってくるので気持ち悪い。

 あっ、

『ピュア』「表情を柔らかくしてね」

 すると「ガルルゥ」から「ワンワン」くらいには柔らかくなった。


 あとは『催眠術』無しで命令を聞くかどうかだな。

 名前でも付けようか。

「ポチ、三回まわってワン!」

 ポチは三回まわってワンと吠えた。

 なかなか賢いな。

 よし、戦わせてみよう。


 お、都合よく雑魚モンスター代表のゴブリンがやってきたぞ!

「ポチ!ゴブリンを倒してこい!」

 ポチはゴブリンの喉元を食い破り、一撃で倒した。

「えらいぞ!ポチ!」

 尻尾をブンブン振っている。

 

 次はアイツだな。

 ゴブリンの上位種オーガが現れた。

 多分アイツはウェアウルフでは倒せないな。

 テイムしちまおうか。

『ピュア』『催眠術』「大人しくテイムされろ」

 片膝ついて、服従の姿勢をとっている。

 すごいな。

 完全にテイムだ。

 裏技を発見したような気分だな。

 どれくらいの魔物まで通用するのか、実験が命がけだな。

 通用しなくなる時が僕の死ぬ時か……。


 体長2mはあるオーガとウェアウルフを引き連れてダンジョンを歩いていく。

 4階層で出会う全ての魔物をポチとオーガがなぎ倒ししていく。

 どうやら、オーガは階層主だったようだ。

 どいつもオーガを見たら逃げていくか、棒立ちになって、一撃で倒されている。


 オーガも名前付けとくか。

 うーん。

「オガ丸!お前はオガ丸だ!」

「ウォー!」

 オガ丸は叫んだ。

 理解したのかな?


 よし、次は5階の階層主にぶつけたらどうなるかを試そう!

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