足りない私が満ちるまで
ミマル
プロローグ・第0章 魔王高校生
プロローグ
「紫乃宮さん危ない!!!」
顔面に飛び込んできたボール。ぐわっと視界が揺らぎ、体のバランスが崩れていく。
あまりの勢いに驚き、反射的に防御魔法が出そうになるのを首の魔防ネックレスが抑えてくれる―――いや、抑えられてしまった。
「んあっ」
防御魔法が出ると思い込んでいるこの体は、手や足で怪我を防ごうとはしてくれない。
そのまま迫り来る地面に、目を閉じるしかなかった。
強い衝撃とともに、ピキッ、という、何かが割れる音だけが聞こえた。
「……ほんっとにごめん!!」
校庭横、水飲み場。後者脇から吹く風の爽やかさとは反対に、私は焦りでいっぱいだった。右手で鼻血を抑え、左手は粉々になったネックレスと汗でぐちゃぐちゃだ。
「いいの、いいから。みんな心配するからさ、あっちに行って」
「で、でも……」
「本当にいいから。私ひとりでどうにかできるの……一人にしてちょうだい。」
「わ、わ、わかった……」
悲しげな顔を浮かべるクラスメイトに罪悪感を感じなくもないが、仕方ない。
去っていく後ろ姿を見ると安堵するまである。
5限、体育の時間。
しばらくの間体を動かしていなかった私はドッヂボールの最中、球技を専門としている女子の投げたボールを顔面で食らってしまった。
「……さすがに万年単位で動かしてないと、鈍ってしまうものか」
手のひらに広がる止まらない鼻血は、魔女特有の紫色。
本来は魔防ネックレスが赤に魅せてくれるはずだった……けど。
「さっきの衝撃で壊れたのね」
思わず舌打ちをしてしまう。
即席で作ったものとはいえ、私レベルの大魔女が……この程度の衝撃で壊れてしまうものを作るなんて。
「末代までの恥だわ……」
まぁ、多分私が末代なのだけれど。
私、紫乃宮ミチルは、一応17歳の高校二年生。
趣味は確か読書、それから、周囲には綺麗な黒髪ロングと色白の肌で見えているはず。
日本語はもちろん堪能。生まれは神奈川県横浜市……で設定してあるはず。
「あ……鼻血止まった」
紫色に染まったハンカチはそっとポケットに仕舞って歩き出す。
魔防ネックレスが壊れてしまった以上、何かあったら私の魔法が誰かを殺してしまうかもしれない……そんなことを考えてしまうが、頭を振る。
「紫乃宮さん!さっきは本当にごめんね!」
「いいのよ」
「私……怒らせちゃったり、してない?」
「ないわよ、心配してくれてありがとう」
そんなこと、あるわけないじゃない。
世界を動かせる大魔女様が、こんな小さな小娘ごときに怒るなんて。
「怒るなんて、そんなこと……あるわけないじゃない。」
「良かったぁ」
戯言はおいといて、青空を見る。
―――私の魔力も弱まったものね。
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