第5話:水と油。
親どうしが結婚したため、ひとつ屋根の下に暮らすことになった、柊一郎と詩織。
最初はお互いを無視していた、ふたりだったが、 それでも詩織のほうは朝、
柊一郎と顔をあわせると挨拶はするようになった。
「おはようございます」
柊一郎もいつまでも無視するのも悪いと思って挨拶を返すようになった。
「うっす」
「うっすって・・・」
「見たところ一応日本人みたいですし」
「ちゃんと、おはようございますって言えませんか?」
「あのな〜・・・挨拶なんてただの儀式、建前だろ、めんどくせ」
「ところで、お互いひとつ屋根の下に住んでるわけですから あなたのこと、
なんとお呼びすればいいですか?」
「なんでもいいよ、適当に呼んでくれたら」
「では、柊一郎さん、でいいでしょか?」
「ああ・・・それもなあ、他人行儀てつうか違和感あるな・・・」
「俺さ、固っ苦しいのいやなんだよね」
「だから・・・シュウちゃん、でいいわ、シュウちゃんで」
「親戚のおばちゃんとか、俺のことそう呼んでるし・・」
「今後、そう呼ばないと返事しないから・・・」
「ちゃかさないでくれませんか?」
「まじで、まじで」
「シュウちゃんて呼ぶのは、まだちょっと・・・」
「そう呼ばないと返事しないって言ったろ」
「わかりました、じゃ〜今日から、シュウちゃんって呼ばせてもらいます」
「なんかこっちのほうが違和感ありありですけど・・・」
「それよか、おまえ・・・あんたのこと何て呼べばいいんだよ」
「私は詩織ですから・・・」
「あ、じゃそのまま詩織で・・・」
「呼び捨てですか?」
「いいじゃん、俺の妹って設定でしょ」
「だったらいいよね、詩織って呼んで?」
「設定ってなんですか・・・ゲームのキャラじゃあるまいし・・・」
「まあ、呼び捨てでも構いませんけど・・・」
「これから少しづつお話をする機会も増えると思いますけど、
私の3メートル以内には絶対、近寄らないでくださいね」
「だから、もう少し下がってください」
「なにそれ・・・」
「人をハエかゴキブリみたいに・・・」
「それより、スマホか携帯の連絡先教えとけよ、 一応家族なんだから、
なにかあった時のために連絡は取れるようにしとけよな」
「なにかって?」
「だから、なにかだよ」
柊一郎に家族だからって言われて、詩織は携帯の連絡先は交換した。
それからも、バカのひとつ覚えみたいに、ふたりは揚げ足をとるような
会話を続けた。
柊一郎は同じ屋根の下なんだから詩織と顔を合わさないって訳にも
いかなかったし、まあ朝と夜と休みの日だけ我慢すりゃいいかって思った。
むしろ美穂子と詩織が来たことで男所帯の中にあって彼女、女っ気がある
だけで家の中を明るくした。
詩織の母親と詩織が吉岡家の家族になってから柊一郎は休みの日にバイク
で出かけることが多くなった。
だからと言って詩織のことが嫌いだったわけじゃない。
ただ、年頃の女の子に対して、どう対処したらいいのか分からないでいた。
たとえ名目上は兄妹の関係でも、柊一郎はこの間まで赤の他人だった詩織を
女として意識していないわけじゃなかった。
実際は本当の兄妹じゃないんだから・・・。
詩織も、がさつな柊一郎を多少は意識していた。
そして理解しようとした。
詩織は感のするどい子で、柊一郎の品のない振る舞いや偉そうな言葉遣いは、
優しさの裏返し・・・照れ隠しだと見抜いていた。
男、女に関わらず虚勢をはるってのは詩織の同級生の中にもいた。
内心では、そういう人はほんとは、きっと優しい人なんだと思っていて
(そうやっていつも無理してるんだよね)
もっと素直になればいいのにって・・・そしたら楽になるのにって思った。
生まれた時から本当の兄妹として一緒に育ったわけじゃない柊一郎と詩織は、
戸籍上兄妹とは言え、結局は普通の男と女の関係なのだ。
それは育った環境が違うと言うだけじゃなく、血が繋がってないと言うこと。
それはまぎれもない事実なのだ。
そんな微妙な空気の中、お互い遠慮と言うこともあって、柊一郎と詩織は
たいしたトラブルもなく平和に過ぎていった。
つづく。
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