第23話


 ウィングブーツのおかげで、僕たちはそれまでよりも格段に速く安全に進めるようになった。


 山道は何かと障害物が多いだけじゃなく、オークやゴブリンといったモンスターともよく遭遇するので、それらを丸ごとスルーできるようになったことも大きい。


 鳥たちやシーカーラビットのように高々と浮き上がれるわけじゃないけど、その分スピーディーに前進できる感じだ。


 浮いて先へ進もうとしている間は翼が自動的に動いてくれるので、形状を抜きにしたらジェットスーツがイメージに近い。


 ユイとサクラが空中走行に慣れるまで少し時間がかかったとはいえ、今の進み具合を考えるとお釣りが来るレベルだ。


「ユイ、私と競争だ!」


「あ、サクラさん、負けませんよ!」


「……」


 当然、器用値100の僕には及ばないけど、二人とも後方で競争できるくらい大分上達した。


 ユイの因果値が高いせいか、モンスターが現れては彼女のお尻を追いかけようとしてたから、矢で成敗しておいた。この罰当たりどもめ。


 もちろん、【糸】や【バルーントラップ】に引っかかった状態で倒したので、彼女たちにも均等に経験値は入ってるはずだ。


 ただ、20以上だとやっぱりレベルが上がりにくいことに変わりはなくて、レベルは変わらず僕とユイが23、サクラが20のままだ。


 そうなると、ゴーレムの経験値がいかに美味しかったかがよくわかる。


 多分だけど、サクラは山賊としてあのレアモンスターと遭遇する機会もそこそこあったから、あれだけレベルが高くなったんじゃないかな。


 そのうち、夕陽が僕たちを包み込むのがわかった。うわ、眩しい……。そうか、あれから何時間も飛んでたんだな。


「――あ……」


 目を細めつつ、赤い木々の合間を風のように進んでいたとき、僕の視界に今までとは違うものが飛び込んできた。


 あれは城壁……つまり、町だ。オルトンの村とはまるで規模が違う。あの村が戸数300~500くらいだとしたら、見えてきた町はその二十倍くらいはあるんじゃないかな。


「クラインの町だ……」


 行ったことはないけど、町が見えた時点で確信していた。あれが僕たちの目指していたクラインの町に違いない。


 ドワーフのオルドたちによると、エルフの国との国境に最も近い町でもあるらしい。


「遂に着きましたね、クルスさん……!」


「クルス、やったな!」


「うん、どうなるかと思ったけど……」


 僕はユイやサクラと顔を見合わせて喜んだ。


「はっ⁉」


 っと、よそ見したせいで危うく木にぶつかるところだった。あー、ヒヤッとした……。ユイとサクラも危なかったみたいで、一度地面に降りてからお互いに苦笑いし合う。


 器用値を100にしたらHPは極端に少なくなるだけに、こんなところで自爆して死ぬなんて笑えない。


 それから1時間ほど進み、周囲が真っ暗になる頃にはクラインの町まで到着することができた。


 入り口の門で兵士たちに呼び止められたけど、ちゃんと三人分【互換】スキルで偽装しておいたので大丈夫だった。


 この町まで、例のおばあさんからはおよそ七日はかかるって言われてたけど、それがたった二日で済んだってことで、いかにウィングブーツが役立ったかがわかる。


 クラインの町中は、建物群が無限に続くかと思えるほど四方八方に立ち並んでて、なだらかな坂の上に木々のように密集していた。


 ここなら人も多そうだし、潜伏先としてもよさそうだ。


 まずは宿探しだってことで、僕たちは着地してその辺を歩き始める。ウィングブーツは地面に触れると翼は開かないので普通に歩けるようになるんだ。


「――はあ……」


 あれから散々歩き回った結果、宿はどこも満室だった。大体、夕方くらいに来ないと、ほとんどの宿には泊まれないと教えてくれる人もいた。


 つまり、それくらい人が多い町だってことだね。いつでも『モーラ亭』に宿泊できたオルトンの村が懐かしい。


 あそこは僕たちの第二の故郷のようなもんだ。


 歩きながらそのことをサクラに話すと、泊まったことはないけど、『モーラ亭』の前で店主の女性に挨拶されたことはあるそうだ。


 彼女の宿が、召喚士の命令で右列のやつらに燃やされたことを話すと、耳まで真っ赤にして烈火の如く怒っていた。


 大体、20件くらい宿を回った頃だった。一軒の建物が僕たちの目に留まる。


 今までで一番高さのある5階建ての宿だ。


 なんとも豪華そうな宿だし、どうせダメだろうと思いつつ入ってみると、店主から5階であれば安い上に空いてて、それも屋根裏部屋なら銅貨2枚で使っていいとのこと。や、安いっ……!


 なんでそんなに安いのかと疑問に思って尋ねてみたら、下層に比べると上層は火事や倒壊の危険性が大きいので、安全面を考慮して安いとのことらしい。


 なるほど。それを聞いたら納得するとともになんだか怖くなってきたけど、まあいいや。最悪の場合はウィングブーツを使ってみんなで窓から脱出できるわけだし……。


 早速内部の階段を上がっていって屋根裏部屋へと梯子で上ると、思ったより広々とした空間が僕たちを迎えてくれた。


 樽や壺が隅のほうに置いてあるのはいいとして、飾り棚や棚から落ちたのか、花瓶やら本やらが転がってて取っ散らかってはいるけど……。


 それでも窓から見える夜景も最高だし、些細なことに目を瞑れば最高級の宿に泊まったような気分だ。宿泊代も格安だし、しばらくの間はここを拠点に活動してもよさそうだね。


 ドワーフたちも袋から出してやると、みんな気に入ったのか目を輝かせていた。


「おぉっ、ここは屋根裏部屋ではないか。実に良いところじゃなっ!」


「だな、オルド! 殺風景な袋の中はもう飽き飽きだっ!」


「ですね、オルド! 色んなものが散らかってるこの感覚、最高ですっ!」


「……」


 オルド、シャック、グレースの三人は相当にストレスが溜まってたようだ。エルフの国を目指すまではここに置いてやったほうがいいね。


「っと、そうじゃ。クルスよ。袋の中で見させてもらったが、このゴーレムの魔石は実に素晴らしいものじゃのー」


「そんなに? 普通に売ろうと思ってたけど……」


「いや、売るなんてとんでもないわい! この魔石には相当な魔力が封じられておる。これとリザードマンとミノタウロスの魔石があれば相当に良いものができそうじゃ」


「へえ。それじゃ集めてみようかな」


「うむ、期待しておるぞ。なあ、シャック、グレース」


「おう。クルス、あっしも期待してるぞ!」


「クルス、私もですよ!」


「わ、わかったよ……」


 体は小さいのに、オルド、シャック、グレースの圧が物凄い。


 一応、僕の【互換】スキルでも良い道具は作れるけど、ドワーフたちの創造物もあったほうがいいに決まってるし、早速明日からでも集めることにした。

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