第21話
「……」
気が付けば、周囲は大分薄暗くなっていた。ありゃ、もう夕方なのか。そういや、ここまで結構歩いてきたしなあ。
「ユイ、サクラ。疲れたし、もうそろそろキャンプしようか?」
「いいですね。お腹も空きましたし!」
「ああ。私もペコペコだ」
そういうわけで、僕たちは山の中で手ごろな場所を探すことに。
当たり前だけど、そこら辺で適当に休憩するっていうわけにもいかない。なんせここは山は山でも異世界の山だから。
いくらこっちに罠があるとはいえ、サクラの【バルーントラップ】やユイの【糸】には時間制限や使用回数等、限界もある。
四方八方からモンスター、あるいは右列の追っ手がやってくる可能性も考えたら、なるべく安全なところがいいに決まってる。
ってことで、僕たちは獣道に入り込んで洞窟のようなくぼみを探すことになった。最悪、見つからなかった場合は自分で岩場を掘って洞窟を作ればいい。
「……」
うーん……行けども行けども洞窟は見当たらないし、道は険しくなるばかりだ。
これ以上歩いても見つかりそうにないのもあって、結局スコップでその辺の岩場を削り始めた。
もちろん、【互換】スキルで腕力値を100にするのも忘れない。
おお……岩が粘土のように柔らかく感じる。最初からこうすればよかったって思うくらい簡単に掘れる。
「――ふう。こんなもんでいいかな?」
「凄いです。サクサク掘ってて気持ちよさそうですし!」
「す、凄い。岩がただの土みたいだ……」
傍で見ているユイとサクラに賞賛されたので、僕は調子に乗ってもっと掘ろうかと思ったけど、崩壊する危険性もあるのでやめておいた。
とにかく、これなら雨風だって凌げる上、入り口に罠を置くだけで外敵の侵入も防げるので楽だ。
それから僕たちは木の枝や落ち葉を集めてキャンプの準備に取り掛かった。
食料なら持ってきたのもあるし、サクラによると、魔石と【バルーントラップ】で動物を誘き寄せて捕まえることができるらしい。
モンスターの場合だと、倒してもすぐ消えちゃって食料にはならないからね。
動物が罠にかかるまで待つ間、魔法の袋にいるドワーフのオルドたちも呼んで、洞窟前で本格的にキャンプの開始となった。
「ふぉっふぉっふぉ! やっぱり外は最高なのじゃ!」
「そうだそうだ、外の空気は最高だ! 滅茶苦茶幸せだ!」
「嗚呼、なんて目が癒される景色なのでしょう! 素晴らしい!」
「……」
焚火の前で陽気に踊るオルド、シャック、グレースの三人。
外に出たってだけでこれくらい喜べるのは微笑ましいし羨ましい。それだけ魔法の袋の中が窮屈だった可能性もあるけど。
「そうじゃ、クルスとやら、おぬしにこれを飲んでほしいのじゃ」
「え、なにこれ?」
「火酒じゃ」
「か、かしゅ……?」
あれかな。ウォッカとかブランデーとかそういう類のやつか。火をつけると燃えるくらい強いアルコール濃度を持った蒸留酒……。
「どうしたんじゃ? 早く飲むんじゃ! わしらは、おぬしがボスを倒した強い男として見込んでおる。ゆえに、この酒を是非とも飲んでもらいたいのじゃ!」
「そ、その前に……これって、アルコール濃度はどれくらいなのかな?」
「99%じゃ!」
「……」
きゅ、99%……⁉ 僕は眩暈を覚えた。それってもう、純粋なエタノールと同じなんじゃ?
「サクラもこれ飲んでたの?」
「ああ、少しだけね。でも、ちょっと酔っぱらっただけで大丈夫だったよ」
「えぇ……?」
中学生でも飲めるなら大丈夫じゃないかって思ったけど、ちょっと待った。それって、何かちゃんとした理由があると思うんだ。
あ……そうだ。魔力だ。サクラは魔力値がそこそこあるから、火酒を飲んでも耐えられたに違いない。
ってことで、僕は魔力値を100にして恐る恐る一口飲んでみた。お、全然平気だってことで、一気に飲み干してみせる。
「おおおぉ! さすがじゃ! おぬしは男の中の男じゃっ!」
「これを飲み干せる人間なんて初めて見たぞっ!」
「嗚呼っ、なんということでしょう! 素晴らしいっ!」
ドワーフたちは飛び跳ねて大喜びだ。多分、魔力がアルコールを分解してくれたんじゃないかな。でも怖いのでしばらく魔力値100のままにしておこう。
「クルスさん、凄いです。そんなの飲んだら、一瞬で意識が飛んじゃいそうですよぉー……」
「ははっ。ユイは真似しないほうがいいよ」
「そうだな。子供はやめておいたほうがいい」
「って! それ、年下のサクラさんに言われたくないですよ⁉ 私もちょっとだけ飲んでみますっ!」
「あっ……!」
ユイが一口だけ飲んだかと思うと、見る見る顔を赤くしてぱったり倒れてしまった。だから言わんこっちゃない。
これだけ魔力があるから耐えられるってだけで、そうじゃないなら絶対に真似しちゃいけない……。
それから、ユイが目覚めるまでの間、気をよくしたドワーフたちからエルフやドワーフの特徴について話をしてもらうことになった。
「――と、こういうわけなのじゃ」
「へえ……」
彼らのような異種族は、人間のスキルを弱める能力を持っているらしい。
もちろん、個体差もかなりあって、全然弱体化できないのもいれば、ほとんどスキルが効かないのもいるんだとか。体質的に鑑定系スキルに強いのは共通してるみたいだけど。
なので、相手に直接影響を及ぼすものでない、自身を強化できる僕みたいなスキルのほうが、対抗するのであれば最も効果的なんだそうだ。
物を鍛えたり創造したりする能力が高いのがドワーフ、身体能力や魔法能力が高いのがエルフであり、それらが高い者ほどスキルも弱体化できるらしい。
「そうなんですねえ」
「うん……ってユイ、起きてたのか!」
「結構前から起きてましたよ? クルスさんと一緒にお話を聞いてました」
「つまり、寝た振りしてたのか……」
「だって、私の恋人のクルスさんとサクラさんが今にもくっついちゃいそうですから……」
「ちょっ……」
サクラが今ここを離れてるからって、言っていいことと悪いことが――
「――どうした、何かあったのか?」
「はっ……⁉」
そのタイミングでサクラが戻ってきてびっくりする。
「あ、いや、なんでもない!」
「そうか。クロジカが罠にかかってたから、知らせに来た」
「おおっ」
みんなで見に行ったら、真っ黒な鹿っぽい動物が宙に浮いており、早速僕が矢を放って仕留める。
それからオルドたちが獲物を解体してくれて、サクラがそれを火魔法で調理してくれることになった。
どんな味かな? ……うん、美味だ。味は牛肉のような感じでとても柔らかい。鹿肉は臭みがあるって聞いたことがあるけど、この鹿は異世界の動物だからか無臭だった。
こうしてる間にも、右列の連中は僕たちを探し回ってるのかもしれないけど、そんなことがほとんど気にならないくらい楽しいキャンプだった。
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