第14話
「ふう。これでよしっと……」
村の外れで、僕たちはスコップを手に汗をぬぐった。水車小屋の前で、始末した男たちの死体を埋めたところだ。
さすがにそこら中に散乱した死体を放置したままにはしておけないからね。
「クルスさん、とっても恰好良かったです。それにしても私たち、なんだか凶悪犯みたいですね……」
「いや、凶悪犯っていうのはあいつらのほうだし、ユイは気にしなくていいよ。それに、これは全部僕一人でやったことだから」
「いえ、行動を共にする以上、私も共犯です! 南無阿弥陀仏……でも、意外です」
「え、意外って何が?」
「モグラ叩きが終わって鉱山から帰るとき、岩石を跳ね返したのもそうでしたけど……クルスさんって大人しそうなのに、あんな突飛なことができる人だとは……」
「そ、そうかな? 僕って、無害に見えるけど妙に大胆なところもあるってよく言われるんだよ」
「いくらなんでも極端すぎです!」
「ははっ……」
ユイに突っ込まれてしまった。
「う……」
お、モーラさんが目覚めたみたいだ。あのあとすぐ、意識を失っていたんだ。さすがの彼女でも死を覚悟するほど追い詰められてたみたいだから。
こうしてならず者たちの死体を処理したのは、モーラさんを動揺させたくなかったっていうのもある。
「ここは、どこなんだい……?」
「それが――」
僕たちはモーラさんにそれまでの経緯を説明した。
自分たちがこの世界にいきなり呼びだされ、神父さんからスキルを付与されたこと。
召喚士の男ガリュウから当たりと外れで露骨に差別をされて右と左に並ばされたこと。
冒険者ギルドで結果を出すうち、自分たちのスキルが実は当たりだと判明して、右列の連中からそれを利用されようとしたこと。
それを断ったらこういう悪巧みをされたということも。
「……あたしの知らない間にそんなことがあったんだね……」
「すみません、モーラさん。僕のせいで大事な宿を失うことになってしまって……」
「ごめんなさい……」
「いやいや、あんたたちのせいだなんて思ってないよ。どう考えたって、こんなことをするやつらのほうが悪いんだからさ」
「それでも、僕たちがいなければこんなことにはならなかったわけで。あ、そうだ。これ、是非受け取ってください」
僕は銀貨5枚を取り出し、モーラさんに手渡そうとしたものの、露骨に拒まれてしまった。
「いや、そんなのいらないよ。そもそも、こうなったのはあんたたちのせいじゃないんだからさ」
「大丈夫です。それに、僕たちはこれくらいいつでも稼げますから」
「実際、数時間で稼いだんですよ!」
「す、凄いんだね、あんたたち。だけどさ……」
「これで、どうか『モーラ亭』を立て直してください」
「『モーラ亭』にもう一度泊まらせてください!」
「……」
僕とユイの説得もあって、ようやく銀貨5枚を受け取るモーラさん。
「……本当に、いいのかい?」
「はい。もともと、雨漏りの修繕に使ってほしいと思って貯めたお金ですから」
「そうですよ。だから受け取ってください!」
「……そ、そうだったんだね。そこまで考えてくれてたなんて。恩に着るよ……」
モーラさんの目尻には光るものがあった。
「それと、言わなきゃいけないことが……。僕たちはここをすぐに離れます」
「え?」
「僕たちがこのオルトン村に居続けたら、また誰かに迷惑がかかりそうなので。ねえ、ユイ」
「ですね」
「……そっか。クルスとユイがいなくなるのは残念だね。だけど、行く当てはあるのかい?」
「あります。なので心配しないでください」
真っ赤な嘘だったけど、でもそこまで言わないとモーラさんは納得しないだろうから。
「わかったよ。ほとぼりが冷めたらまたこっちへおいで。そんときはご馳走するからさ」
「はい、モーラさん。お元気で」
「モーラさん、また来ますね!」
「あ、あぁ。またおいで。約束だからね。クルス、ユイ……」
「……」
こんな厳しい状況でも気丈に振舞うモーラさんの姿に、僕は勇気を貰ったような気がした。しばらく別れを惜しんだあと、その足で受付嬢のスティアさんのところへ向かう。
ここを離れるってことを、今までお世話になった彼女にも伝えるためだ。すると、意外なことにスティアさんはギルドの入り口前に立っていた。
彼女は僕たちの姿を見つけると、とても心配そうな顔で駆け寄ってくる。
「クルス様、ユイ様、ここをお発ちになられるのですね」
「う、うん。どうしてそれがわかったの?」
「なんだか、胸騒ぎがして……その、死んでください!」
「はっ⁉」
いきなりナイフを突き出してきたスティアさんの一撃を躱し、羽交い絞めにする。
「クルスさん、大丈夫です。【糸】で封じました」
「あ、うん。ありがとう、ユイ」
まさか襲ってくるとは思わなかった……。スティアさんを放すと、彼女と慎重に距離を置く。【互換】スキルでステータスを調べたら、スキルを持っていなかった。油断させるためか。
「これは一体どういうつもり? スティアさん……」
「……ご、ごめんなさい。私の弟や妹がギルドマスターに人質に取られていて、こうするしかなかったんです……」
「嘘つきだね、スティアさん」
「……う、嘘じゃないです。酷い……。大体、どうしてあなたにそんなことがわかるんです?」
「君の人柄を調べさせてもらったよ。盲点だった……」
「……」
スティアさんの顔が歪む。彼女の人柄は、Fランクだったんだ。正直、調べる必要もないくらい良い人だと思い込んでしまっていた。
「あははははっ! 性格がクソなのバレちゃったあ。でも……私、あなたのこと嫌いじゃなかったですよ。いずれ、クルス様を自分のモノにしようとも思っていました」
「……それもギルドマスターの命令?」
「……」
その場に座り込み、項垂れた状態でこくりとうなずくスティア。もう騙せないって観念したんだろう。僕がユイと一緒にいたのが気に入らないように見えたのは、そういう事情もあったわけだね。
おっと、何やらギルドのほうから抉るような視線を幾つも感じる。
「ユイ、急ごう。ここにいたら危険だ」
「ですね。急いでこの村から脱出しないと……」
僕たちはうなずき合い、オルトンの村を発つすることに。
もっと言えば、王国内に留まっていたらかなり危険だと思う。何故なら、召喚士のガリュウは国に属していて、しかもギルドマスターだからね。さらには、やつが召喚した右列の配下たちだっている。どう見ても多勢に無勢だ。
それでも、【互換】で正体を隠しつつ他の町で活動すれば、バレるまでは居座ることができる。
あとでわかったことだけど、自分のスキルや名前、ギルドカードも【互換】で変えることができるんだ。アイテムみたいに本質は変わらないけど、それでも敵の目をしばらく欺くことくらいはできる。
なので、王国内の村や町で長く居座り続けるのは悪手として、最終的に目指すのはガリュウの息がかかっていないであろうエルフの国だ。
ガリュウはエルフの国がこの国を滅ぼそうとしていると言っていたけど、神父さんを毒殺したり、モーラさんの宿を燃やしたりするような人の発言だから信用できない。
とにかく、やつらの好き放題にさせるつもりはない。僕たちの本当の戦いはこれから始まる……。
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